日本建築学会論文報告集
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中世禅宗様仏堂の装飾細部 3 (架構材)
関口 欣也
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1968 年 152 巻 p. 59-68,75

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抄録

1) 虹梁 禅宗様虹梁の特色は成が高い痩断面であること, 両肩を弧状に落し, 袖切・欠眉を施すことであって, 営造法式の月梁の流れをくみ, 揚子江下流域江南の宋元建築との関連が認められる。虹梁の変化は古い形も続くが, 室町末には上端全長の反る例, 肩の退化, 弓眉, 絵様付袖切が現われる。また釈杖彫も縁取を深くし, 先端も装飾的に扱う例が室町後半に多くなる。2) 海老虹梁 海老虹梁は中国の揚子江下流域の元代建築に類例があり, 中国の状況を反映し下端がほぼ水平のものと, 上端下端とも屈曲するものとがある。海老虹梁の使われ方には身舎部と側との繋の場合に変化がみられ, 古くは下端水平繋虹梁であったが, 中部南以西で南北朝ころから屈曲形が用いられ, 室町末に多用された。地域的には下端水平海老虹梁は関東・甲信と周防・長門の主流, 近畿を中心とする地域では屈曲海老虹梁が主である。また尾〓尻先端部と身舎斗〓の手先を減ずる変化に伴ない, 下端水平から屈曲した海老虹梁形となる。しかし関東では月梁形が続き, 15世紀後半に成を若干減じて上端に水平部分が目立つものとなった。3) 大瓶束 禅宗様大瓶束は虹梁をまたぐのが特徴であり, 痩断面虹梁の分布する揚子江下流域の元代建築に類例があるが, 東大寺法華堂礼堂からみて南宋末に遡るであろう。初期の大瓶束は先端が砲弾形のものと, 逆徳利形に木取り側面に深い繰形を入れた松生院本堂形とがあったが, 主流は後者であった。しかし14世紀末には繰形凹部の浅いものと抉りがふくらんでみえるものとが一般化し, 簡単ながら深い陰影をもった古形に比し, 陰影の薄い平面的性質を帯びてくる。一方峯の背が狭くなったり, 先端に目立つ表現が施され, 15世紀後半から装飾大瓶束が登場する。また室町後半の地域性には関東におけるふくらんだ大瓶束の一般化と西日本における装飾大瓶束の発達を対比させることができよう。以上, 架構材の細部的性質より, 禅宗様建築は中国揚子江下流域の南宋後半〜元の建築に顕著な類似が認められた。また年代的には室町後半に弓眉や絵様付袖切, 装飾大瓶束が現われ, 装飾化の傾向をしめす。地域的には西日本の屈曲海老虹梁と装飾大瓶束に関東の下端水平海老虹梁とふくらんだ大瓶束が室町後半に対応する。

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© 1968 一般社団法人日本建築学会
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