抄録
地下街路空間の歩行動線を想定し, 対象地下街路の各地点から出入口階段までの利用距離を求め, その最大到達距離および一つの出入口階段の利用面積を算出した。その結果得たグラフは各地下街路の出入口階段という一つの機能要素をもとに地上と地下の連絡を基本とする空間構成の異なることを表現しており, 出入口階段が規則性をもって配置されている場所と規則性のない場所が明確に判別できた。それはまた, 歩行者の地上との関係をもとにした利用の難易を示唆しているといえる。同じ地下街領域でも平面形態によって出入口階段の配置距離が異なり, その値によって機能配置の平面構成の特徴を説明できることを得た。しかし, 本論で求めた最大到達距離, および1つの出入口階段の利用面積は図上の想定であり, かつ歩行者の空間利用に対する平面構成以外の要因については考慮しておらず, それらの距離や面積は歩行者の実際の利用に安全であるか否かの, 安全に対する絶対的意味づけを行っていない。次に, 機能要素の配置密度が高い地下街路空間の歩行者の利用情況を観察調査した結果, 機能要素や出入口を結ぶ歩行動線の径路はそれぞれのまとまりをもってなされていることを把握した。そこで機能間を連絡する歩行動線を一本の標準動線に代表させ, また各径路を代表する標準動線の交差や重なりに幅を持たせる意味で標準動線のとりうる領域を設定し, それを調査領域ごとに重ね合せた。重ね合せて得た合成図より領域の各位置における径路の機能間の連絡の複雑さを視覚的に表現することができた。またその領域の重なりを歩行者の方向の選択肢数の目安として, 各径路における選択可能数の平均値(⩃)を求め, その値(⩃)より, 標準動線の他径路との重複の度合いが求められ, 歩行動線をもとにした空間領域の複雑さの評価の目安を得, さらにその指標化が可能となった。ただし, 標準動線より求めた, ⩃, Nの値は, 歩行動線に利用の重み付けを持たせておらず, 等価にみなした場合の利用の相対的密度であり, 場の利用の複雑さの評価の試算であるため, 各場所の現実の複雑さを意味していない。さらに, 歩行中の視覚的な情報収集に着目し, 機能要素の配置密度が高く, 選択肢数の多い場所において歩行者の外部から観察可能な視探索を観察調査した結果, それらの行為(頭を急に左右に振る, 視線を左右に振る, それらの行為に伴い歩行速度が落ちる, 頭・視線を上に向ける)が集中して存在ずる領域があることが知れた。その視探索がなされる領域は主に出入口に存在し, また空間が平面的に広がる場所, また二つのある広がりを持つ空間を結ぶ平面的にくびれた場所においてもそれが存在し, 階段はそれ自体独立して視探索行為を生起させる要因となっていることが観察により明らかになった。視探索の行われた位置について空間との対応をみると, 平面形状および開口幅が視探索位置の集中・分散に影響を与え, 歩行の進行方向について変る視野の広がり変化量が視探索位置の集中・分散の説明変数として有効であることが知れた。また, その視野の広がり変化量が増加するにつれ, 視探索位置の分散はある値に収束することが明らかになった。