日本建築学会論文報告集
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住宅併設工場集約化事業についての検討と評価 : 住工混合地域の研究 (その 4)
安藤 元夫
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1984 年 346 巻 p. 174-180

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抄録

本論文では, 小零細工場にとっても, 住工混合地域の整備についても重要な課題である住宅併設の工場集約化事業について検討してきた。現行制度では, 住宅地区改良事業を除くと住宅併設の工場集約化事業は用意されていないが, 自治体や民間では, 併用型, 敷地内別棟型, 分離型等いくつかのタイプの住宅併設事業が試みられている。これらの住宅併設の工場集約化事業に対して, 入居者は基本的には高い評価を与えている。しかしながら, 工場と住宅の空間的な関係によってその評価や矛盾の表われ方は異なる。大阪府の小規模事業等にみる併用型や隣接型といった職住一体, 近接の事業では, 家族労働主体の生活様式に合致して評価が高い。それに比べて分離型では, 食事や子供の勉強等の生活を工場空間にももちこまざるをえないためのスペースや設備の二重化という矛盾がでている。また, 三条の工住併用団地での職住分離に伴う様々な生活困難とそれを解決するための工場2階への住居スペースの持ち込み, グリーンウッド小規模事業での住宅団地からの工場内への住み込み居住等の例は, 零細企業における職住一体化の不可欠性を示しているケースである。さらに, ほとんどの事業で出されている問題として立地条件の不便性がある。この点については前報でもふれたが, 住宅併設の工場集約化事業の場合には工場経営だけでなく, 家族の日々の生活がそこで営まれているだけにより深刻である。計画の内容との関係では, 2つの例を典型として上げることができる。1つは, 工場と住宅の敷地利用計画が十分行われなかった三条の工住併用団地の問題であり, 工場が公害等環境阻害条件をもつだけに事前の計画の重要性を示している。いま1つは, 枚方の紳士服小規模事業である。生産動線と生活動線の一定の分離, コモンスペース等を利用した近隣のまとまり, 鉄筋コンクリート造で, 住宅中庭から作業場へのトップライト化, 実質4L・DKという住宅規模等, 敷地計画, 建築計画ともかなり高い水準にある。集合住宅では, ここ数年来低層を中心に近隣のまとまり, 接地性, 住戸規模, デザイン等で質の良い住宅が各地に建設されている。この事業は, 建設当時「贅沢すぎる」として府議会で問題にされたとのことだが, ストックの水準を向上させていくという意味からも今後の住宅併設の工場集約化事業を考えていくうえで注目してよいケースの一つといえるであろう。

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© 1984 一般社団法人日本建築学会
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