抄録
蛍光分光計測は植物葉の色素や構造,生理機能の情報を非破壊・非接触で得るのに適している.本研究では,3次元分光蛍光光度計を用いて,暗期乾燥状態におかれたホウレンソウ葉を対象とし,複数の励起波長に対する蛍光スペクトル(励起-蛍光matrix)の経時変化を計測した.その結果,励起波長によらず,450nm, 680nm, および725nmに蛍光極大が認められた(それぞれF450, F680, およびF725).さらに,これらの蛍光強度から算出された蛍光強度比F450/F680とF450/F725は,水ストレス処理初期の比較的相対含水率変化が小さいときにも大きく変化した.これは,暗期条件下の水分欠乏では紫外線防御機能を有する色素等の蓄積は起こらないのでF450はほとんど変化しないが,葉の萎凋による計測領域内のクロロフィル濃度増加のため,F680とF725が大きく減少したことによると考えられた.また,これらの比の変化は励起波長が短いほど大きかった.これは,F450は励起波長が短いほど大きくなるのに対し,F680, F725は小さくなるためと考えられた.このことから,ホウレンソウの相対含水率変化の検知には短波長の紫外線(330 nm程度)によって励起したときのF450/F680およびF450/F725が適していると考えられた.