抄録
本研究では,中山間地域の果樹栽培が抱える問題解決の一方策として,島根県西石見地区を事例に,放牧導入による栗栽培の改善効果とその技術的成立条件を明らかにした.獣害とくにサル,クマによる被害,及び除草作業が,里山に立地する中山間地域の栗栽培の継続を困難にし,放任園が増加している.放牧導入により,栗園の除草作業が軽減され獣害が減少した結果,被害樹を改植するなど農家の栽培意欲が回復している.ただし,高樹高への剪定変更,幼木の保護柵設置,栽培園周囲の放任園を含めた計画的な放牧利用や有用牧草の導入が,放牧導入による栗栽培に必要である.放牧導入による栗栽培と子牛生産を合わせた営農の日労働報酬額は6,000円を超え,中山間地域の高齢者の生業や里山保全に有効な営農方式になりうる.ただし,現状では放牧対象となる繁殖牛の冬季分娩が,収益性を確保する上で欠かせない.
放牧導入による果樹栽培の安定,発展をはかるには,放牧牛の個体確認や発情観察を容易にする技術開発,放牧牛の健康を損ないかねない果樹園の農薬散布を削減する防除技術の開発,放牧牛や野生動物の様子を地元住民や消費者にリアルタイムで知らせる技術を導入し里山に人々を惹き付けることが重要であり,これらの技術開発に情報技術を活用させることが必要と考える.