2018 年 27 巻 2 号 p. 39-52
本論文では,わが国において将来の普及が期待されるIT(Information Technology)生産管理サービスに対する稲作経営体の評価を明らかにすることを目的とし,稲作経営体・普及主体等を対象にイノベーション採用プロセスの初期段階に着目したアンケート調査を実施した.調査票の設計は仮想カタログ法を用いた.対象は,将来の普及が期待されているITコンバイン・水田センサ・自動給水システム・流し込み施肥機を用いたIT生産管理サービスとした.分析手法は,クロス分析,Mann-WhitneyのU検定,McNemar検定を用いた.分析の結果,IT生産管理サービスで想定されたメリットに対して,稲作経営体の6割以上が関心・試用意向を示していることが明らかとなった.特に,稲作経営体はITコンバインや自動給水機等による「圃場ごとの収量改善」というメリットを高く評価した.一方で,稲作経営体と普及主体の間で,刈取受託に関するメリットの受け止め方に違いがあることが明らかとなった.また,普及主体は水管理における頻度低減メリットに対して,関心はあるが試用推薦したいと思わない場合があることが明らかとなった.これらのことから,新たなIT生産管理サービスの普及モデルを構築する際には,普及主体が稲作経営体の特徴や経営者の特性をより詳細に把握することが重要であることが示唆された.