日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

巡拝路
*田上 善夫
著者情報
キーワード: 寺院, 霊場, 巡礼, 日本
会議録・要旨集 フリー

p. 121

詳細
抄録
_I_ 霊場地域の分布 中世以降に,全国各地に西国霊場のような観音霊場が開創された。近世以降には,四国霊場のような大師霊場が,西日本を中心に展開した。また現代には不動霊場,十三仏霊場をはじめ,薬師霊場,地蔵霊場などさまざまな霊場が開創されている。霊場にはこうした本尊が異なるのみならず,その規模や周辺の地形,都市と地方間でも大きな差異がある。こうした特性には,地域ごとに類似性がみられる。たとえば東北地方では,盆地を中心にしてとくに観音霊場が多数分布する。一方瀬戸内地方では,島々や半島部に多くの大師霊場の分布がみられる。_II_ 巡拝路と札所の配置 霊場の特色の一つを,巡拝路にみることができる。多くの巡拝者の集まる愛知県の知多霊場は,半島部に位置している。知多霊場では,半島を周回する形で,札所が順番に配置されている。しかし同じく多くの巡拝者の集まる福岡県の篠栗霊場は盆地に位置し,とくに修験の行場に由来した滝に隣接した札所が設けられている。ここでは札所番号の配置には規則性がみられない。また千葉県の印西新四国霊場は,手賀沼と印旛沼間の東西に延びる丘陵に位置する(図1)。巡拝地はほとんどが丘陵の縁辺部にあり,番号の配置は不規則で,これらを一巡する行程とは異なるものである。さらに東京の御府内霊場は,八十八ヶ所および番外の札所寺院から構成される。武蔵野台地から荒川低地にかけて分布するが均等ではなく,また札所の配置順も規則的ではない。_III_ 霊場内の札所群と巡拝路 札所番号が巡拝の順序を示さない場合は多いが,霊場案内などではその札所寺院は「エリア別」などで紹介される(たとえば塚田・遊佐,2000)。都市近郊の霊場であれば,週末などを利用して,まとまった札所群を適宜訪ねることが多いと思われる。札所の配置にはこうしたエリアごとの地域的なまとまりがみとめられるため,クラスター分析を援用すると一般的な巡拝の順序を推定することができる。札所寺院の多くは山地や丘陵の麓,あるいは段丘や台地の縁辺部など傾斜変換点付近に位置するが,こうした順路にはそれらとのかかわりが明瞭に示される。また比較的平坦な扇状地や沖積地においても,巡拝路は自然堤防などの微高地の縁を通っている。_IV_ 傾斜を加味してみた巡拝路と霊場 札所寺院は傾斜地周辺に多いため,さらに巡拝路は上り下りや,屈曲を避けられない。開創の頃には徒歩によって巡拝されており,巡拝路はこうした傾斜の急なところを避けて選ばれたと考えられる。傾斜角をコストとして隣接する札所間の最短パスを求めると,それは多くの場合,台地上や谷に沿って通ることが示される(図2)。四国の遍路道などを除くと,札所間の道の多くは不特定であるが,推定・復元された巡拝路には,開創時を含めた各霊場の特色が示される。
著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top