日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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日本における有機農産物産地の分布
2000年農業センサスの市町村別データから
*河本 大地
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p. 131

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抄録
研究の目的と背景本研究の目的は、日本における有機農産物産地の分布の特徴を解明することである。化学合成農薬や化学肥料を使わず自然の物質循環系・生態系を活用する有機農業に対し、取り組みと関心が世界的な広がりを見せている。日本の農水省は1992年以降、減農薬・減化学肥料など有機農業よりも基準を緩めた「環境保全型農業」を推進しており、その中に有機農業を位置づけている。このような状況下、日本の有機農業は3段階のブームを通じ徐々に展開してきた。それに伴い、地理学等では有機農産物産地の形成過程や現状の事例研究が盛んに行われてきた。しかし未だ、有機農産物産地の空間的分布は十分整理されていない。第1次有機農業ブームは、1970年代後半、食や農のあり方に問題意識を抱いた生産者と消費者が「産消提携」の運動を開始した時期であり、有機農産物生産者は少数で、その空間的分布は点的であったと考えられる。1980年代後半以降の第2次有機農業ブームは、専門流通事業体の事業拡大や一部生協の有機農産物の取り扱い開始、有機関係表示の氾濫などに特徴づけられる。この時期の空間的な展開状況は、水嶋(1996)に詳しい。農水省および全国農業協同組合連合会が実施した2つの調査結果(各1991年、93年)を利用し、環境保全型農業の農業形態別実践事例農家・グループの地理的分布を検討した。しかし、全国各地に多種多様な実践事例があり分布の特徴はあまり明確でないとする結果となった。第3次有機農業ブームは、1999年の改正JAS法(有機JAS認証制度)および農業環境3法の成立を契機としている。認証制度発足を機に、経営重視の有機農家・事業体が増加し、有機農産物市場もさらなる拡大を見せている。分布については藤栄(2003)が、2000年の農業センサスに初めて掲載された「環境保全型農業への取組み」項目を用いて全国レベルで同農業の展開を検討した。ここでは南九州、南関東など地域ブロックごとの違いがよく整理されているものの、より小スケールでの検討は十分なされていない。また、有機農業については無農薬・無化学肥料・堆肥使用の3類型について、各取り組み農家率上位50市町村を抽出し全体と比較するにとどまっている。環境保全型農業と有機農業における分布の違いまず、2000年農業センサスの「環境保全型農業への取組み」関係項目を用いて、環境保全型農業全体と無農薬・減農薬・無化肥・減化肥・堆肥使用の取り組み類型別に、市区町村単位で実践農家の率を算出し、それぞれの相関関係を調べた。その結果、無農薬・無化肥には強い相関が見出された。一方、残る4項目相互にも強い相関が見られた。したがって、無農薬・無化肥を有機農業に近い取り組みとみなすと、その実践農家の多い地域、すなわち有機農産物産地の分布は、環境保全型農業全体の分布とは異なった様式を示すと考えられた。次に、これらを地図化し分布を確認した。環境保全型農業全体では、北海道(根室・釧路等を除く)、北上川流域の稲作地域、群馬県・長野県の高原野菜産地、甲府盆地東部の果樹産地、九州山地中央部、霧島周辺の畜産地域、東京・横浜をはじめとする大都市の近接地域などに、分布が比較的集中している。一方、有機農業の場合はより山がちな地域(熊本県阿蘇地域、四国山地、静岡県北遠地域など)や一部の島嶼部(沖縄島、屋久島、伊豆大島など)を中心に、非常に分散した点的分布を示している。大都市近接地域での分布も限定的である。有機農産物産地における取り組みの状況有機農産物産地として、農家数50戸以上の市区町村を対象に、無農薬・無化肥の取り組み農家率がともに7.5%以上の31市町村を抽出した。農業地域類型別に見ると、山間農業地域11町村(島根県柿木村、三重県度会町、静岡県佐久間町など)では茶や米、中間農業地域9町村(宮崎県綾町、兵庫県市島町、愛知県音羽町など)では野菜や米、都市的地域6市町(那覇市を除き、柏市・武蔵野市など東京近接地域)では野菜が、主に有機栽培されている。これら産地の多くには、農協・町村・生産者グループなど、集団的な有機農業への取り組みを推進する主体が確認された。【引用文献】藤栄 剛(2003):環境保全型農業の展開と実践農家の特徴.『2000年センサスの分析と日本農業』農山漁村文化協会,pp.271-301.水嶋一雄(1996):わが国における環境保全型農業の現状と課題(第1報)_-_環境保全型農業の実践事例農家・グループの地理的分布_-_.日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要、31、pp.57-67.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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