本発表の目的は、茨城県水戸市の水道用水供給体系とその形成過程を明らかにし、流域的視点からその地域的条件について検討することである。
水戸市は茨城県の県庁所在地であり、県内の市町村で最大の人口を有する。2002年3月現在、水戸市の上水道普及率は99.5%を誇り、県平均の87.7%を大きく上回る。上水道の水源別取水量をみると、県西部や南部の市町村が地下水と広域水道に依存している一方、北茨城市、高萩市、日立市、ひたちなか市など県北部の都市は表流水を主水源とし、水戸市も同様に水源の9割以上が那珂川からの表流水である。
水道普及率は第二次世界大戦後まもなくの1947年には60.0%であった。その後数度にわたる拡張事業によって1974年には90%を越え、さらに1986年には99%に達し、ほぼ全ての市域内人口に対する安定的な給水が実現されている。
水源別取水量の推移をみると、水戸市では用水需要の増大に対して、表流水の取水量を増加させており、地下水や近年の広域水道は一貫して補助的な役割しか果たしていない。これは五期にわたる拡張事業に伴い、那珂川から取水する水利権を増強することができたからである。
給水区域の空間的拡大に関しては、1966年までは市の中心部とその周辺地域に限られていた。しかし第三期拡張事業以降、給水区域は飛躍的に拡大し、現在では市全域に及んでいる。
現在の水道用水供給体系について述べると、那珂川の枝内地先に設けられた2か所の取水口から取り入れられた河川水は、原水導水管によってそれぞれ楮川ダムと開江浄水場に送られる。楮川浄水場の主な給水区域は、水戸市の中心市街地を含む市中央部から北西部にかけての一帯である。開江浄水場からは、下市地区と国道50号バイパス沿いの市西部から南部にかけて、さらには旧常澄村も含む区域へ給水されている。これら2系統と広域水道を受水する常澄浄水場とによって、全市へ量的に安定した水道用水が供給されている。
水戸市は那珂川流域の最下流域に位置し、人口規模は流域内の市町村の中で最大である。水戸市では水道用水需要の増大に対して、那珂川からの取水量を増加させ、それを満たしてきた。一般に河川水利においては、下流の都市用水は不利だといわれているが、水戸市は例外である。その地域的条件を、流域に着目しGISを援用して分析・考察した。
第一に地形条件をみると、那珂川流域は下流域にのみ低くて平らな地形が分布する。中・上流域は山地・丘陵地が卓越し、そのため主な支流域もその上流域に山がちな地形を有し、水資源開発も行われている。
第二に土地利用分布をみると、那珂川流域は広範囲で森林が支配的な土地利用である。水田は上流域で森林に囲まれるように分布し、その他は水戸市、ひたちなか市周辺の下流域で卓越するのみである。畑地や都市的土地利用も同様に分布が顕著なのは下流域の限られた地域である。つまり用水需要の発生する土地利用が流域全体に及んでおらず、限定的である。
第三に人口分布をみると、都市的土地利用の分布と強い相関があり、最下流域の水戸市、ひたちなか市に人口が集中している。上流域の黒磯市や西那須野町がそれに次ぐが、その他の広い地域で人口は少ない。
最後に水利権についてみると、山下(2004)が明らかにしたように、那珂川流域全体の既得農業水利権の取水量は相対的に少なく、本流への依存度も低い。これには先にみた3つの条件が大きく関わっており、最下流域の都市用水需要が自流域内の河川水で満たされるための重要な条件である。
ある都市における水道用水供給体系は、その都市内の絶対的な水需要量だけでなく、流域規模での地域的条件に基づく水需給の定量的、空間的バランスによって規定される。水戸市は人口規模、都市用水需要ともに大きいが、流域条件に恵まれているために十分な用水供給を実現している。
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