日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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地理的資質を有する小・中学校教員養成の課題
*川田 力
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p. 173

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抄録
1. 問題の所在 平成14年度から小・中学校で開始された新学習指導要領に基づく教育では、新しい学力観としての「生きる力」を育成するための「学び方を学ぶ」学習が前面に押し出されている。この新学習指導要領の実施にともない、小・中学校の社会科(地理的分野)でもカリキュラムの変更がなされた。地理的分野でいえば、小・中学校においても学び方・調べ方・まとめ方といった地理的スキルがより重視されるようになり、教科書の内容構成の変化とあいまって教育実践の場でも教員の力量が問われることとなった。こうしたことをふまえて、今回のシンポジウムでは小・中学校の地理を教えるうえで不可欠な技能や資質とは何かを踏まえて、それらを有した小・中学校教員養成を実施する際の課題について議論したい。2.議論の潮流こうした問題について、日本地理学会では2003年度秋季学術大会(於・岡山大学)において「地理を教えるということとは?_-_地理教育力のさらなる向上をめざして_-_」と題するシンポジウムが開催され、新学習指導要領における地理教育の内容変化がどのように捉えられているのか、各学校段階でいかなる取り組みが展開しているのか、また、いかなる指導上の困難や問題点を有しているのかについて議論がなされた。その議論の中では、新学習指導要領の下での学習内容の精選の結果として小・中・高等学校の各学校段階間での教育内容の重複が極めて少なくなるよう学習内容が整備・配置されていることを認識し、次の学校段階で効果的な学習を行うために、それぞれの学校段階で児童・生徒に修得すべき学力とは何かを明確化する必要性が論じられた。また、地理教育で必要とされる「自ら学ぶ力」を確実に育成するための学校間連携のあり方や、初等中等教育における一貫的・系統的な学習指導の重要性も強調された。日本地理学会ではさらに、2004年度春季学術大会(於・東京経済大学)において「小・中・高一貫カリキュラムの方向性を問う」と題するシンポジウムが開催され、再度、各学校段階で児童・生徒に修得すべき学力とは何かが具体的な教育実践の事例を踏まえて議論されるとともに、多様な学校間での一貫的カリキュラム案が提案された。ここでも、各学校段階で育成すべき地理的スキルの内容を具体的に明示する必要性が再三強調された。また、活動主義への傾斜の結果生じているとされる、地理教育において習得すべき基礎的知識や概念が軽視され世界観・世界像がエゴセントリックでステレオタイプに陥っている児童・生徒が増加しているという報告は傾聴に値する。このほか、これらのシンポジウムに先立つ2003年度の日本地理学会春季学術大会(於・東京大学)におけるシンポジウム「日本地理学会のグランドビジョン策定に向けて」でも、地理教育の振興策についての報告がなされているし、他学会では地理科学学会秋季学術大会において「ジオグラフィカル・スキル_-_地理教育の世界的新潮流を探る_-_」と題したシンポジウムも開催されている。3.小・中学校教員養成の課題高等学校の地歴科において地理が選択科目となっている現状は、義務教育で地理教育を終えた社会人を急増させている。換言すれば小・中学校段階における地理教育の役割が増大しているといえる。しかしながら、小・中学校での地理教育実践における指導上の困難や課題も少なからず報告されている。また、こうした、小・中学校での地理教育実践上の困難さの程度は、教員の有する地理的知識・技能・考察力の多少によって大きく異なる。これは、高等学校の地歴科で地理を教えている教員の多くが地理学を専門的に学習した経験を有するのと対照的であろう。地歴科創設以降の高校で教育を受けた小・中学校の教員には、地理に関しては中学校卒業レベルの学力に加え、大学でごくわずかの地理学関連科目の単位を修得したという教員も少なくないと思われる。しかしながら、大学で地理的資質を有した小・中学校教員養成を行う際の課題も多い。地理を教える教員として不可欠な地理的知識・技能・考察力とは何かの共通認識は得られていないし、それらを修得させるための適正なプログラムも整えられているとはいい難い。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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