日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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ドイツ・バイエルン州におけるルーラリティによる社会的持続性の創生
アルゴイ地域ウンターヨッホの事例
*小原 規宏
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p. 9

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抄録
_I_ 研究の目的現在,EUでは,アジェンダ2000において明記されたルーラリティをキーワードに,地域の主体性を重視した農村開発が行われている.ルーラリティは,最近,農村地理学の分野においても重要で新しいテーマとなっている.ルーラリティは,曖昧な概念であるが,それは,社会文化的な現象として定義される.ルーラリティの意味は,しばしば,農村地域の性格と関連付けられ,その農村地域の性格の中では,農村のコミュニティが生じている.これらの地域では,環境的,経済的な側面が,農業生産と関連した性格とコミュニティの状態を表している.農業生産は多くの先進国において,衰退しているので,一般的には,ルーラリティは都市化の進展とともに低下している.しかしながら,ルーラリティは,農村地域のいくらかの基本的な要素を再編することで維持され,新たに生み出されている.それゆえ,ルーラリティは,農業生産,土地利用,農地、農家,そしてそのコミュニティから成る.これらの要素の相互関係は,ルーラリティの発展のために重要な働きをしている(Halfacree 1995;Liepins 2000).ルーラリティという言葉は,学術的な研究においては,曖昧なものであるが,多くの研究者の間で共通しているルーラリティを説明することができる3つの主な特徴が存在している(Lane 1994).そこで,本研究では,地域が主体となった農村開発が多く行われているドイツを対象として,それらの指標を用いて,ルーラリティが維持されている地域を選び出し,ルーラリティが持続することによっていかなる農村の再編が起こっているのかを明らかにする._II_ 研究対象地域上記の指標を用いて対象地域を選定してみると,ドイツ・バイエルン州南部ヒンデラングにおいてルーラリティが持続している村が多く,特にウンターヨッホでその傾向が強いことが明らかになった.ウンターヨッホは,バイエルン州南西部に位置するゲマインデ・ヒンデラングに属する村の1つである.アルゴイアルプスの1支谷に位置し、標高は1013mである.2000年現在,総世帯数28戸のうち19戸が農業と観光業などを組み合わせた多就業経営を行っている._III_ ウンターヨッホにおけるルーラリティによる社会的持続性 ウンターヨッホでは,1980年代になると観光を中心とした農村の再編が行われた.ウンターヨッホでは,古くから農業の複合経営の伝統に基づく農業と農外就業を組み合わせた多就業経営が行われてきたが,1980年代に入ると,EUの共通農業政策,及び1980年代の観光業を中心とした再編に伴い,農業を集約化させる農家や観光業を重視する農家がみられるようになった.これによって,多就業経営の組み合わせが多様化していったものの,農業と観光業を中心とした多就業経営は維持され,ルーラリティを構成する農地や森林は維持された.1990年代入ると,アクショングループと呼ばれる地域住民と第三者的な機関を主体としたボトムアップ型の再編が行われるようになり,ウンターヨッホでも1990年代後半から再編が進められた.この際,ウンターヨッホの住民が選択したのが有機農業を中心とした再編であり,有機の認証団体を農村の再編に参加させた.これは,1990年に発生したBSE問題,およびEUの通貨統合に伴い物価が上昇することが懸念され,都市部の小売店が差別化を図るために有機農産物を取り扱うようになったことによる影響からであった.ウンターヨッホでは,有機の認証を受けるために,生産規模を適正化させなければならなくなり,放棄されていたアルムが再利用されるようになった.アルムの再利用に伴って経営耕地面積が拡大したことで,慣行農法を行なう経営体も農業経営の規模拡大が可能となり,生産規模の適正化,労働集約的な農業経営を行なうことが可能となった.また,有機農産物は,都市への出荷を主としたもので,認証団体が都市とウンターヨッホをつなぐ役割を果たしており,観光業を重視する経営体にとっても利益をもたらしている.このように,ウンターヨッホでは,その組み合わせは多様化しているものの,各経営体が多就業という形態によって,ルーラリティを構成する要素に何らかの関係を持つことで,再編に際しての合意形成がスムーズに行われ,ルーラリティが維持されてきた.また,逆に,ルーラリティが維持されることで,村民と都市住民や行政とのネットワークが形成され,コミュニティが維持されている.そして,本研究では,ルーラリティが維持されることによって,農村コミュニティも維持されるとともに,農村の再編によってコミュニティの性格も変化していることが明らかになった.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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