日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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アンテナショップの及ぼす効果と課題
「双三・三次きん菜館」を事例に
*佐伯 祐二北村 修二
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p. 93

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抄録

1.はじめに
 近年,農産物直売所(以下,直売所)は飛躍的に増加し,その新たな取り組みとして,都市出張販売型の直売所が展開されている。そこで本研究では,常設の都市出張販売型直売所といえる,アンテナショップ「双三・三次きん菜館」(以下,「きん菜館」)を事例に,生産者と消費者の聞き取り調査を行い,それぞれに及ぼす影響と課題を、主に消費者の意識を中心に明らかにする。
2.「きん菜館」の概要
 広島市郊外に位置する「きん菜館」は,2001年にオープンし,広島県双三郡旧6町村および旧三次市(平成16年4月合併)で収穫された農産物を消費者に直接販売する店舗である。「きん菜館」は他の直売所同様,市場を通さないため,農産物の小売価格は一般に安価であるが,農家の手取りは高く,かつ新鮮な野菜を消費者に提供している。
3.「きん菜館」の影響と課題
 消費者への聞き取り調査の結果,全体の18.4%を占める週2回以上の利用者は「きん菜館」を中心としておよそ半径4km圏内の居住者であるということ,そして,「きん菜館」を「近い」と判断する人もまた,半径4km圏内の居住者であることが判り,出店時に考慮された商圏設定の妥当性が示された。また,「こだわり品が出来た」や「食に関する会話が増えた」などの項目において利用回数が増すほど選択率が増加する傾向が見られ,利用回数が利用者意識の向上に寄与していることが明らかになった(第1図)。
 さらに,買い物行動の始発点として「きん菜館」を利用する消費者(28.0%)を始発点利用者とした場合,同様に消費者意識の向上が確認された。
 また,故郷を懐かしむ声,さらには,友人同士で作ったグループで生産者個人との契約購入を始める消費者のような,発展的な交流もみられた。しかし一方で,産品の安全性や生産者の商売人化を問題とする消費者も存在した。
 生産者への聞き取り調査からは,運営主体のJA三次から毎日送られるFAXが生産者の生きがいに大きな役割を果たしていることがわかった。一方で,売れ残りの産品を直接確認できないため,売れ残り理由がわからないなどアンテナショップゆえの欠点や,消費者意識の高まりによる産品の高品質化を余儀なくされている点も指摘された。
4.おわりに
 アンテナショップが,消費者および生産者にもたらした影響は,食に関する意識の変化であり,価格や品質および安全管理面において要求水準が今後一層高まる傾向にあると言える。消費者に対しては,アンテナショップ独自の確固たるコンセプトの提示とその理解を求め,生産者に対しては,情報格差の改善とより充実した情報の提供をしていく必要があるといえる。

文献:飯坂正弘(2001a):農産物直売所の現状と課題(1),農業および園芸,76(6),pp.641-647.
飯坂正弘(2001b):農産物直売所の現状と課題(2),農業および園芸,76(7),pp.749-755.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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