日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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天山山脈ウルムチ河源流のNo. 6氷河の小氷期モレーンの形成プロセス
1983-2003年の変化から考える
*岩田 修二黒田 真二郎カダル=ケズル 該当せず
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p. 104

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抄録

目 的:天山山脈の北面,ウルムチ川源頭No. 6氷河の末端部と小氷期モレーンの測量をおこない最近20年間の氷河末端とアイスコアモレーンの地形変化を地図化し,モレーンの形成プロセスを明らかにした.
調 査:2003年7月-8月の1週間,氷河末端近くにキャンプして氷河末端と周辺のモレーン地形を測量・調査した.測量は光波測距儀と平板測量によって1:1000地形図を作成した.1983年6-8月の岩田・陳による詳細な測量の20年後の再測量である.本研究は中国科学院新彊生態地理研究所との共同研究である.
No. 6氷河とモレーン:No. 6氷河は小規模な寒冷氷河で,北側の氷舌は岩屑被覆のない谷氷河で,南側は部分的に岩屑被覆がある円錐型氷河である.その末端にある,小氷期に形成されたと考えられているモレーンには,1983年には厚い透明氷が表面岩屑の下にあった.モレーンの前面は岩石氷河の形態によく似ている.
結果(20年間の変化):測量結果を図1に示す. 1_北側の氷舌の前面位置は100m以上後退した.南側の氷河は前面位置がはっきりしないが同程度後退しているように見える.2_ モレーンの前面の位置は変化していない.図1のコンターの差から,3_ 氷河表面低下量は北側の氷舌が30-40 m,南側の氷舌では15-20 m.4_ モレーン表面の20年間の低下量は最大20 m,最小は0 mであった.5_ 氷河前面からの流路が伸長し,その末端の凹陥地は大きく深くなった.1983年に透明氷が観察できた凹陥地は一部は崩壊して浅くなり一部は深くなった. 6_ モレーンの北東側の低下量が 0-1mの部分でも沈下によると考えられる割れ目や微地形がみられた.7_ モレーンの表面構成礫は南東側を除くと細粒である.細粒表面礫の起源は融水による運搬堆積とbasal tillである.
考察と結論的所見:1)No.6氷河の前面にあるモレーンは,全体がアイス=コア=モレーンである.しかし,2) モレーンは岩石氷河ではない.3) No. 6氷河前面でのモレーンの形成(堆積)プロセスは: 1. dumping: clasts and silty clay, 2.lodgment: clasts and silty clay, 3.basal meltout, 4.fluvial sedimentation (outwash), 5.アイス=コアの融解による変形と再堆積,6. debris flow, 7.alluvial cone sedimentation on moraine slopesが挙げられる.4) このような多様なプロセスからモレーンの多くの部分がティル的以外のファシスとなる.
 モレーンの堆積層相の形成には,モレーン形成中や形成後のfluvial processesや, gravitational processes (debris flowなど) , 氷河融解による沈下や傾動による変形 が重要である.このモレーンがアイス=コア=モレーンあるいは岩石被覆氷河になった理由は,現在の氷舌が前進したときもたらした岩屑によっている.

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