日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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気候湿潤度からみた小笠原諸島父島における水文気候環境の過去30年の変化
*飯島 慈裕岩下 広和吉田 圭一郎岡 秀一
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p. 124

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抄録
1.はじめに
亜熱帯域に位置する大洋島である小笠原諸島では,特徴的な植生の成立過程の要因として,水文気候環境が重要な意味を持つ.吉田ほか(2002)は,小笠原の代表的な植生の一つとされる乾性低木林の立地環境について,土壌水分が極端に減少する梅雨明け後の夏季乾燥期が乾性低木林の成立に大きく影響していることを示した.しかし,植生の成立過程を考える上では,現状の水文気候環境と植物の関係を明らかにすることに加えて,長期間の水文気候環境の変動を理解する必要がある.
本研究は,1970年以降の父島測候所の観測データを用いて近藤・徐(1997)のポテンシャル蒸発量を算出し,父島における湿潤・乾燥期間の季節変化と経年的な傾向について考察した.
 
2.調査地ならびに方法
1970年1月1日_から_2001年12月31日の父島測候所の日別値の観測データを用いて,近藤・徐(1997)のポテンシャル蒸発量を日単位で算出した.ポテンシャル蒸発量とは仮想的な湿潤面での地表面温度が日平均の熱収支で決まる「平衡温度」にあるときの可能蒸発量であり,地域の気候条件をよく反映する.降水量とポテンシャル蒸発量との比(降水量/ポテンシャル蒸発量)は,気候湿潤度(Wetness Index)と定義され,湿潤・乾燥の指標となる.
使用したデータは日平均の気温,相対湿度,現地気圧,風速と日積算日射量,日降水量である.算出したポテンシャル蒸発量と気候湿潤度は旬別,月別にまとめた.

3.結果
父島のポテンシャル蒸発量は旬別値で2_から_6mm/dayの年変化をもち,12月下旬に最小,7月上旬に最大となる. 32年間のトレンドは年間の大半でポテンシャル蒸発量が増加する傾向を示した.特に7月上旬は増加の傾向が最大で,+0.03mm/day・yr(32年間で1mm/day程度の増加に相当)の有意な関係にあった.一方,梅雨期間の開始にあたる4月上旬と,台風期間の9月,10月には,有意ではないが減少する傾向であった.
32年間で平均した気候湿潤度の年変化を図1-aに示す.湿潤期間(1以上)は,5月下旬を中心とした梅雨期間と,10月下旬_から_1月上旬までの寒候期に限られている.夏季に乾燥・亜湿潤となる期間は6月中旬から9月中旬まで継続しており,7月上旬が最も気候湿潤度が小さく(0.37),平年の状況としても非常に乾燥した時期となっている.1月中旬から4月中旬にかけても継続して亜湿潤期間となっており,夏季乾燥期とならんだ乾燥時期となっている.
図1-bには,父島の乾燥状態の変動に着目して,旬別に乾燥期間(WI≦0.3)が現れた年数を解析期間の前半(1970年_から_85年)と後半(1986年_から_2001年)に分けて表した.後半の16年では乾燥と湿潤のコントラストが拡大する傾向にあった.最も目立つのは,梅雨明け直後の6月下旬が乾燥期間となる頻度が非常に大きくなっている点で,後半の16年では13年も出現していた.1月下旬_から_4月上旬にかけても乾燥期間の頻度が多くなる傾向にあった.そして,10月下旬以降の寒候期の湿潤時期でも乾燥の頻度が増加傾向となっていた.一方,4月の梅雨の開始時期と9月を中心とした台風期間では乾燥期間の頻度は減少しており,最近では梅雨・台風の寄与が増加する傾向が認められた.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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