日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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槍野地すべりの活動と由比川流域の地形発達
*栗下 勝臣目代 邦康菊地 隆男池田 明彦
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p. 131

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抄録
1.研究の視点
 静岡県庵原郡由比町を流れる由比川の流域は,西から桜野沢,久保山,大代,釜ヶ沢の大きく4つの支流域からなる.このうち,桜野沢と釜ヶ沢には,由比川との合流点付近に規模の大きな地すべりが存在する(第1図).このような地すべりの分布と流域の地形発達を関連付けて議論するため,桜野沢流域に存在する地すべり(以下、槍野地すべり)について地形・地質の調査を行った.
_II_.調査方法
 槍野地すべりの存在する桜野沢川流域の槍野地区を中心に,空中写真判読・現地踏査・地形計測・電気比抵抗探査(3地点)・トレンチ調査(2m×2m×2m)を行った.
_III_.結果
地形調査の結果,槍野地すべりの形態が明らかにされた.桜野沢川下流の谷底,標高140mのところに基盤(滝:UF)が確認され,これより下流側は峡谷となっている.峡谷の上流側は,遷急点(銚子口ノ滝)を介して谷幅約100mの谷底(以下,桜野沢谷底面)となる.また,由比川流域の河床縦断曲線を描くと,桜野沢川は凸型を呈し,河口から4.5km地点において由比川との比高はおよそ100mとなり,他の支川と明らかに形態を異にする(第2図).槍野地すべり周辺の地質は,浜石岳層群薩埵峠累層桜野礫岩層(砂岩・礫岩など)からなり,桜野沢川にほぼ沿って北北東_-_南南西方向に軸を持つ向斜構造が存在する(柴,1991).現地踏査では,基盤の走向を計測し,地すべり堆積物と基盤の層序を組み立た.その結果,すべり面を形成しやすい地質として第三系の砂岩シルト岩互層が存在していることが確かめられた.また,地すべりの滑る方向と直角方向に伸びる向斜軸の片翼,つまり槍野地すべりは流れ盤に位置しており,地すべりの分布と調和的であった.
桜野沢谷底面におけるトレンチ調査では,砂礫層の上位にマッシヴな泥質層という組み合わせが2組観察された.泥質層には植物小根の痕跡や炭化物が観察され,層相から後背湿地の堆積物と認定した.砂礫層(一部,砂層も含む)にはラミナが形成されており,これをチャネル堆積物とした.これらから,少なくとも地下約2mは氾濫原堆積物により構成されていることが明らかになった.また,電気比抵抗探査の結果,桜野沢谷底面(標高203m)における比抵抗値境界がUFと桜野沢谷底面の上流端(標高227m)を結ぶ曲線上に一致したため,基盤高度を標高156mと求めた.以上,現地調査・電気比抵抗探査・トレンチ調査から,桜野沢谷底面は河成堆積物からなり,堆積面であることが明らかになった.
 以上の結果および入山断層による変位も含め,槍野地すべりの活動と桜野沢川の河床縦断形の変化とを関連付けて地形発達を考察した。

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