日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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海外の一貫教育の流れ
*井田 仁康
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p. 14

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抄録
1. はじめに
 わが国においては,授業時間数の削減などにより,教育内容の大幅な変革が余儀なくされた。従来の学習のように,網羅的で各学校段階で繰り返される学習内容は批判され,「学び方を学ぶ」学習が進められてきた。しかし,一方で,小・中・高等学校を見通した教育内容になっているかというと,不十分である。すなわち,小・中・高等学校での一貫した教育内容の検討が必要となっているのである。
 小・中学校および高等学校の教科内容の一貫教育は,欧米だけでなく台湾などのアジア諸国でも始まっている。そこで,本稿では,特に台湾に注目して,地理の学習内容における小・中・高等学校の一貫教育を検討する。
2. 欧米における一貫教育
 アメリカ,イギリスといった欧米での地理教育は,わが国の研究者によっても分析が進んでいる。学年の呼び方をみても,初等教育,中等教育を通していることが多い。このことは,教育内容においても一貫して考えていることを意味する。
 欧米での研究などに基づくと,教育内容はスキルに基づいて学習の対象(内容)が規定されている。つまり,このようなスキルを育てるためには,どのような内容がふさわしいかという観点に立つもので,日本のように学ぶべき学習内容が,まずあるわけではない。したがって,小・中・高等学校の一貫性を考える際にも,学習内容で考えるのではなく,スキルのレベルアップにより,学年,学校段階のカリキュラムが考案されているといえよう。
 しかし,こうした欧米のカリキュラムを取り入れた,国・地域の成果を検討することが今の日本の教育にとって,より一層意義があると考えられる。
3. 台湾での一貫教育の進展
 台湾でも,従来の知識中心の学習内容から,概念・学び方を学ぶ教育内容へと移行した。アメリカのカリキュラムを基盤とした教育内容は,小・中学校の一貫性を踏まえた内容となっており,従来の事項を系統的に学ぶ学習から,スキル(課程目標,能力目標)を達成するような学習へと変わっている。この学習内容は2002年には暫定的網要のもとで実施されているが,さらに,高級中学(高等学校)をも組み入れた一貫教育への改訂が進められている。すなわち,台湾では,一貫教育を実施するにあたり,従来の学習内容の系統性を重視する学習から,スキルに基づいた教育内容へと大きな変革が行われたのである。
 さらに,高級中学では,すでに「学び方を学ぶ」学習が普及しており,GISをはじめ,先進的な学習内容も取り入れられている。少なくても地理の学習内容では,日本をかなりリードしている。わが国の地理教育に関する外国研究は,欧米の動向に目を向けていたが,その間に台湾などのアジア諸国・地域は教育の量,質とも充実させるようになった。
 台湾でみられるような急激な教育内容の改革には,台湾内でも批判がある。日本は,このように先んじた台湾などの動向みながら,教育の改革を進める必要があろう。しかし,いずれにしても,台湾などのアジア諸国の地理教育においつくためには,少なくても地理教育の内容を小・中・高等学校の一貫性という観点から見直し,検討していく必要があるだろう。
4. むすび
 本研究からは以下の3点が指摘できる。
_丸1_ 日本の地理教育は,欧米ばかりでなく,台湾など日本に先んじた国々にも注目する必要がある。
_丸2_ 教育内容の精選の観点から小・中・高等学校の地理の内容を一貫して検討しなければ,日本の地理教育の進展は望めない。
_丸3_ 学習内容の系統性から,スキルを中心にしたカリキュラムの作成を考える時期にきている。

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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