抄録
_I_ はじめに
一部の亜高山帯針葉樹林にみられる縞枯れ現象は各分野から研究が進められてきた.本研究では北八ヶ岳・前掛山において斜面と植物の立地環境に注目した.植物と斜面環境(特に土壌条件)について調査を行い,縞枯れが起きる場所と起きない場所とで何が異なるのかを明らかにし,それを規定している条件を解明することを目的とする.同時にそれが更新にどのような影響を及ぼし,パターンを変化させるのかについて考察を加えた
_II_ 調査方法
八ヶ岳の北端に位置する前掛山(2353.6m)において,時間的・空間的推移を把握するために過去の空中写真(1947・1962・1976・2002年)を判読して,縞枯れが起きる場所と起きない場所を判別した.また林分構造とその立地環境を調べるために,ライントランセクト,コドラートにおける林分および土壌断面調査,林床植生調査を実施した.さらに更新サイクルを同定するために年輪コアの採取と樹齢解析を行った.
_III_ 調査結果
過去の空中写真判読より,縞枯れ現象は尾根から南側斜面の一部に限定的にみられることがわかった.また4時期を比較してもその範囲にほぼ変化がないことから,縞枯れ現象の発現には場所の条件が関わっているといえる.また1959年の伊勢湾台風による大規模風倒木地帯は縞枯れが起きる範囲は明瞭に区別できた.
林分調査結果からは,林分構造と年輪解析結果より4つのタイプに区分できた.すなわち縞枯れが起きない尾根上や北側斜面の成熟林分,樹高階に偏りがみられる縞枯れが起きる林分,伊勢湾台風で一斉更新したと思われる林分,それに岩塊地に接し,特に厳しい環境条件に規定されている林分である.またライントランセクトにおける土壌断面調査を行った結果,土壌深および土壌堆積物の変化と林分構造の変化がよく対応していることが明らかになった(図1).
_IV_ まとめ
亜高山帯針葉樹林の縞枯れ現象がみられる北八ヶ岳・前掛山において,斜面と植物の立地環境の関係を調査した結果,以下のことがわかった.
1)土壌深や土壌堆積物の状態は亜高山帯針葉樹林の更新ならびに林床植生に大きな影響を与えている.土壌厚の変化と林分構造の変化がよく対応しており,土壌条件の空間配列に合わせて植生が変化している.
2)前掛山の亜高山帯林の更新パターンは土壌条件の配列に応じて区分でき,それぞれ異なる更新パターンを持っている.
3)縞枯れ現象は場所の条件,つまり土壌条件および周辺との位置関係,風などの環境条件が相互に作用し合い,更新パターンの一つとして維持されている.