日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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首都圏における土地利用の熱特性とその季節変化
*新名 朋子野上 道男
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p. 209

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抄録

1.研究目的

 大都市圏において発生するヒートアイランドやクールアイランド現象は、人口集中域の拡大によって広域化し,都市域内部の土地利用のパターンによって、複雑にモザイク状になっていることが予想される。新版の気象庁気候値メッシュデータ(気候値2000)でも、土地の特性を都市域の気候値推定の要素に加えている。日本人の多くは都市生活者であり、都市域の温度環境を知ることは重要である。

 広域都市圏の気候の実態を知るためには、リモートセンシングデータは好都合である。とくに衛星画像の昼・夜画像間の放射温度の「差」を用いることで、可視的な土地利用とその定常的な熱特性(不可視的)との関係を見ることができる。

 また、種々に土地利用された地表面の熱特性が都市域の気温形成に影響していることから、都市域の気温分布特性を把握するために、地表面の熱特性を知っておくことが必要である。そこで本研究では土地利用(区分)ごとに地表面放射温度差(今後Radiation Temperature Difference=RTDと呼ぶ)の値が異なる場合があることに着目し、東京首都圏における土地利用ごとのRTD値とその季節変化を明らかにする。



2.研究対象地域

 本研究では「細密数値情報(10mメッシュ土地利用)首都圏」1994年版に収録されている行政区域内を首都圏として扱う。この対象地域を含む、ランドサットTM band6(解像度:120m×120mメッシュ)における、1050×1091ピクセル(約126km×131km)の範囲を解析対象とした。

ランドサットTMデータは、昼夜間の放射温度差(RTD)の季節変化を見るために、夏と冬でそれぞれ昼夜の画像を用意した。尚、いずれの画像でも撮影時に降水や厚い雲はなかった。



3.結果

 RTD値の分布と土地利用分布との対応を明らかにするため、夏・冬のRTD画像と10mメッシュ値から作成した120mメッシュ土地利用画像を幾何学的に重ね合わせ、土地利用ごとにRTD値を集計し、平均値と標準偏差を計算した。

 土地利用ごとのRTD値の差異からみると、田や畑などの自然的な土地利用では土地の被覆状態の季節変化(耕作など)がRTD値に影響を与えていることが数値的に示された。人工的な土地利用においては冬のRTD値は小さく、夏よりもヒートアイランドが強くなっていることが明らかになった。また、RTDの標準偏差からみると、郊外に多く分布する土地利用についてRTD値の広がりが小さいことが分かった。

 都市気候の形成にかかわる土地利用としては,田や畑など自然的なものがまだ残る土地利用と,市街地・工場など高度に人工的な土地利用とが考えられる。しかし客観的な基準によって土地利用をみるために、クラスター分析を行ってみた。その結果として、自然的な土地利用については容易にまとまったクラスターとして抽出されたが、人工的な土地利用はなかなか同じクラスターになることはなかった。その理由としては、人工的な土地利用は細かいモザイク状になっており、RTD値がその土地利用特有の被覆状態よりもその土地利用が存在する場の影響を受けるためであるらしい。一方、自然的な土地利用では、その逆で近隣の場の影響よりも、その土地利用特有の被覆状態の方がRTD値を決め、またその値のバラツキも小さくなった(すなわち対応が鮮明である)と解釈された。

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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