日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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高等学校からみた地理教育一貫カリキュラムのあり方
*泉 貴久
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p. 27

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抄録
1.高等学校現場の現状と地理教育
 発表者が本校に勤務して10余年経つが、生徒たちの学力は年々低下の一途をたどっているように感じられる。地理教育においても、小中学校段階で習得すべき基本的地名の名称や位置を認知していないといった知識の欠如、あるいは、地図帳の索引を使って地名を発見することができないといった技能の欠如、さらには、地域認識がエゴセントリックでかつステレオタイプに陥っているといった態度の欠如した多くの生徒たちを日々目の当たりにしている。また、学習そのものに意味を見出せない意欲の希薄な生徒も散見されるが、こうした状況は高校生の学力形成基盤そのものが揺らいでいることを意味しており、いわゆる高校教育は危機的段階に達してしまったものとしてとらえることができるだろう。
 ところで、中等教育の後期段階に位置づけられる高校地理教育の最終目標は、「市民性の育成」に尽きると発表者は考えているが、それには基礎的知識を踏まえた上での思考力・判断力・表現力が備わっていることが大前提となる。だが、生徒たちの基礎学力が不備な場合、現場においては受験教育の氾濫とも相まって、それを埋め合わせるための知識注入型の授業に終始せざるを得なくなり、市民性育成に必要な課題追究型の授業はおざなりにされてしまう。結果的に、地理は「暗記科目」、「試験時のみに役立つ科目」とのレッテルを貼られ、生徒たちの学習意欲はますます減退し、履修者のさらなる減少へとつながっていくことになる。
2.学力低下の要因
本校生徒の学力低下の要因としてどのようなことが考えられるのか。一つには、入学試験の出題教科が、首都圏の他の私立高校と同様、国数英の三教科に限定されていることにより、多くの生徒が地理をはじめとする社会系諸科目への苦手意識の強いことがあげられる。二つ目には、小中学校の学習指導要領改訂に伴い、学習内容が三割削減されるに至ったが、それにより、網羅的だった地誌学習が事例方式へと変化し、しかも「学び方・調べ方学習」が過度に重視されたことにより、この段階で本来習得するべき基礎的知識や概念がおざなりにされてしまったことがあげられる。
むろん、小中学校の指導要領については、「学習プロセスの重視」、「社会的有用性の追究」、「学習方法の多様化」という観点から発表者は一定の評価を下している。だが、それと同時に、活動主義への傾斜による地理学習本来の目的からの逸脱、知識軽視による学習者の世界像の歪みといった副産物をも生み出す可能性をはらんでいることに注意を払う必要がある。
3.高等学校地理教育における学校間連携の必要性
 最近、中高一貫校が注目され、また、関連学会でも「小中高連携」をタイトルにしたシンポジウムがしばしば開催されているが、それは次の理由による。第一に、学校教育が生涯教育体系の一環に組み込まれ、子どもの発達を長いスパンの中で考えていく必要性が生じていること。このことと関連して第二に、中学卒業者のほとんどが高校へと進学していく中、高校現場では多種多様な学力を持った生徒を抱えることになり、より効果的な学習指導を行うために、生徒個々の学力形成に至るまでの背景を探るべく、学校間連携を模索せざるを得なくなっていることがあげられる。
4.高等学校の立場からの地理教育一貫カリキュラムのあり方
 以上述べた点を踏まえ、高校の立場からの小中高一貫カリキュラムのあり方について、おおまかな枠組みは次のように説明できる。小学校地理は、知識欲の旺盛な時期と重なり、身近な地域の学習と日本地誌学習を国際社会との関わりから展開することで、地域認識の育成に重点を置く。中学校地理は、世界像の拡大期、抽象的思考の芽生える時期と重なり、世界地誌学習とともに、系統地理学習を取り入れ、地域認識の育成とともに、地理的見方・考え方を駆使した概念獲得と問題発見能力の育成に重点を置く。高校地理は、年齢的にも成人に近く、批判的思考が旺盛な時期と重なり、系統地理的手法を用いた現代的諸課題を学習内容に設定し、社会参加を視野に入れた問題解決能力の育成に重点を置く。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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