日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

ハザードマップにリアリティーを持たせるには
メディアからみた課題
*山口 勝
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p. 34

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抄録

1.はじめに_-_取材経験から感じるハザードマップの問題点_-_
私は,いくつかのハザードマップを取材し(例えば,1997年横須賀市活断層マップ,1999年台湾地震(活断層法の提唱), 2000年有珠山噴火,2001年 三宅島,富士山噴火災害予測図など)「ハザードマップは、地域の災害環境を知り,防災に役立てるために有効」という立場から紹介してきた. 2000年の鳥取県西部地震の際には,内陸の活断層の知られていない場所で被害地震がおき,“従来の活断層マップだけでは,ハザードマップとして十分ではない”と言う東京大学地震研究所の島崎邦彦教授の意見をもとに、USGSの強震動ポテンシャルマップを紹介,日本でもこのような取り組みが必要とした.しかし,いざできた地震動予測図をみると,再来活動間隔が短い海溝型地震に対して,再来間隔が2-4桁長い活断層地震の影響が見えにくく,30年確率などの時間の概念が素人には理解しにくいなどの課題を感じる.地震動予測図を市民が理解し,活用するために何が必要なのか.
2.“市民に理解されるハザードマップ“は、防災力を生み出す
有珠山周辺の1市4町村では1995年共同でハザードマップを作成し公開した.その内壮瞥町は,1997年,町独自のハザードマップもつくり全戸に配布した.このマップは,避難所とその電話番号を明記し,日頃から見てもらえるよう冷蔵庫にもはれるサイズにするなどの工夫がしてあった.その結果,2000年の避難指示の際には,近隣自治体と違い,住民から役場に対して「どこに避難すればいいか」などの問合わせはなく,行政が住民からの問い合わせに追われるようなことはなかったという.さらに住民の多くが「避難は長期になる」と独自に判断,着替えを用意して避難所に向かったという.災害環境を知るための普段からの防災教育とともに,理解してもらえるハザードマップの存在が地域防災力につながった事例である.
3.地震動予測図はどうして理解しづらいのか?
火山ハザードマップや河川水害予測図は,過去の噴火や災害事例など具体例を元につくられたいわば災害履歴図やシナリオ型ハザードマップであるため,市民も理解しやすい.一方地震動予測図は,ある地域でおきる複数の地震による地盤の揺れを統合し,時間軸を発生確率として相対的に示しているため,災害のリアリティーを感じにくい(赤いメッシュ:30年確率で6-100%はどの程度切迫しているのか?どの程度危険なのか?この相対性は,行政が防災対策の優先順位をつけたり,保険料算定基準として利用したりするには便利なのだろうが).
4.ハザードマップにリアリティーを持たせるには
 では,この相対的な尺度に市民はどうすればリアリティーを感じられるようになるのだろうか?
一つは,地震動予測図は様々な要素(レイヤー)を統合しているので,その根拠となる要素一つ一つ(地盤強度,想定震源などなど)を提示し,どのような係数をかけて統合したのか,作成過程を追体験させることである.一見難しそうなことでも,根拠がわかれば理解につながるはずである.特に,統合することで見えにくくなってしまう活断層地震の影響は,マップを別立てにして併用することが望まれる.もう一つはハザードマップをシミュレーションとしてとらえ直すことである.シミュレーションは入力値が変われば結果も変わる.時間がたてば,あるいは,ひとたび地震が起きてしまえば,結果も変わる.いわば“使用前使用後”をみせることで,相対的尺度を市民も実感できるチャンスが訪れる.2003年春公開された北日本編では,7月26日に宮城県北部地震,9月26日には十勝沖地震が発生.特に十勝沖はM8の海溝型で想定していた地震であるため,シミュレーションの初期値が変わりシミュレーションをやり直す必要がある.理解促進のための,あるいはシミュレーション改良のための千載一遇のチャンスが訪れたのだ(推本は,既に発生確率を再計算し公表した.今後予測図も改訂公表することを望みたい).シミュレーション結果は,あくまでも一つの可能性にすぎず絶対ではないということを市民が理解し,その根拠と限界を知った上で利用するという「科学を社会に生かすためのリテラシー」を育てるチャンスでもある.以上は,科学番組を作る際の企画イメージであるが,このようなイメージが学校教育や防災教育においても,ポテンシャルマップから災害イメージのリアリティーを高める際のヒントになれば幸いである.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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