日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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ナミブ砂漠クイセブ川最下流部における水文環境と地形変化
*山縣 耕太郎伊東 正顕水野 一晴
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p. 91

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抄録

アフリカ大陸南西部大西洋岸に位置するナミブ砂漠は,東をグレートエスカープメントと呼ばれる急崖地形で内陸の高地と限られた南北約2000km,幅40_から_120kmの広がりを持つ極めて乾燥した砂漠地帯である.クイセブ川は,ナミブ砂漠を横切る主要な河川の一つであり,最下流部にクイセブデルタと呼ばれる広い堆積域を形成している.
ナミビアでは,他のアフリカ半乾燥地域と同様に砂漠化が深刻な問題になっている.クイセブ川流域においても,河川沿いの緑地帯の枯死や,ナラ植生の衰退などの現象が報告されている(水野,2003;伊東,2004).このような砂漠化の進行は,流域の地形にも影響を及ぼしている可能性が考えられる.本研究では,1960年代から現在までのクイセブ川流域における水文環境変化と,クイセブデルタにおける地形変化との関係について検討を行う.
クイセブ川は,十分に降水があった年にのみ流水が生じる一時河川である.この河川によって南方から移動してくる砂丘砂が下流へ運搬されるため,クイセブ川の南側は砂砂漠,北側は岩石砂漠となっている.クイセブ川の源流は,ナミビアの首都ウィンドフック西方のコマス高地にあり,上流部は,グレートエスカープメントを深く刻む峡谷の中を流れ,中下流域は,ナミブ砂漠に広く発達する高位段丘(山縣・水野,2003)を刻む浅い谷の中を流れている.さらに大西洋岸から約25kmの位置にあるローイバンクより下流では,広い堆積平野(クイセブデルタ)を形成している.
クイセブ川は,極めて乾燥したナミブ砂漠の中にありながら,中下流域の河道沿いには比較的浅所に伏流水が存在するため,緑地帯が形成されている.しかし,クイセブデルタに入ると地下水面が低下するためか,高木は見られなくなる.このため,中下流域の流路周辺で,森林に覆われているため空中写真によって地形を判読することが困難である.一方,クイセブデルタでは,地形や植生の変化をよく観察できる.そこで,クイセブデルタ地域について空中写真および衛星写真をもちいて,地形の経年的な変化を検討した.また,2001年から2003年にかけて現地における観察を行った.使用した写真は,1965年に撮影されたCORONA衛星写真と,1977年,1997年撮影の空中写真である.CORONA衛星写真は,読み込み解像度3200dpiのスキャナーを用いてポジフィルムからデジタル化して使用した.
クイセブ川は,ローイバンク付近で二手に分流して,北側の支流は,大西洋に面した港湾都市であるウォルビスベイにのびている.この支流は,ウォルビスベイへの洪水被害を防ぐために,1961年に堤防によって封鎖された.これ以来,ウォルビスベイ側の河床には砂丘が成長し続けている.1965年には平坦であった河床に,1975年には小マウンドが点在するようになり,1997年には小規模な線状砂丘に発達している.2003年の観察では,比高10m以上の無植生の砂丘群が,かつての河床を埋めていた.今後クイセブ川左岸に発達するような大規模な線状砂丘に発達していく可能性も考えられる.
また,1976年以降洪水発生頻度が減少しているため,本流側でも各所で砂丘の成長が見られる.洪水の減少理由としては,上流域に建設されている水源ダムの増加が考えられる.1972年当時に152であった源ダムの数は,1994年時点で361になっている.都市部の人口増加に伴う水需要の増大から,今後もダム数は増加していくものと考えられる.
地下水についても,クイセブ川下流部の観測点において地下水位が低下していることが報告されている.1998年と2000年の大雨で,地下水位はいったん持ち直したが,ダムの増加に伴い,今後も低下していく傾向が続く可能性は高い.
このような砂丘の発達,地下水位の低下に伴って,デルタ地域周辺の植生も変化している.洪水によって更新されたばかりの河床と,更新後時間がたった河床との比較から,砂丘の発達初期には植生が重要な役割を果たしていること,砂丘の発達に伴って植生が変化していくことが確認された.ナラ植生が衰退している理由も,洪水による地形の更新が行われず,砂丘が成長し続けているためであろう.また,地下水位の低下に伴って,ローイバンクより上流の緑地帯が衰亡していく可能性も高い.

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