日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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第三セクター軌道万葉線の課題と展望
*土’谷 敏治
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p. 102

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抄録

1.はじめに 公共交通機関の経営状況が悪化する中で,規制緩和政策にともなう交通事業者の退出の自由が認められたことを受けて,多数のバス路線はもとより,鉄道・軌道についても存廃問題が議論され,実際に廃止される路線がみられるようになった.その中で,富山県の加越能鉄道は,通称「万葉線」の軌道事業からの撤退を表明した.しかし,地元自治体の存続に向けての意志表示や市民の存続運動の結果廃止を免れ,第三セクター万葉線株式会社として再出発することになった. ところで,万葉線の第三セクター化の過程で,採算性の検討や今後の需要予測は行われてきたが,利用者側の実態調査,すなわち,利用者の属性,利用頻度,利用目的,利用者の特性などの調査は,ほとんど実施されていないのが現状である.また,詳細な旅客流動調査も行われておらず,運賃収入にもとづく乗客数の予測値が,唯一の利用実態を示すデータといって過言ではない.もちろん,経営の危機に瀕している事業者としては,利用状況の把握もままならない事態は理解できるが,旅客流動状況や利用者特性の把握は,当該事業者の現状を理解し,今後を展望するためには必要不可欠な情報であるといえる. 本報告では,既存の路面電車を第三セクター化して存続することに成功した万葉線株式会社を取り上げ,旅客流動調査,アンケート調査を実施して,その旅客輸送パターン,利用者の特性について分析を行った.2.調査の方法 調査は,できるだけ多くの調査日を設定して実施することが好ましいが,調査員の確保,調査対象利用者や事業者側の負担などから,限られた日に実施せざるをえない.今回は,平日と休日の各1日ずつの調査とし,前者は2004年11月2日(火),後者は11月3日(水)の文化の日に実施した. 両日の調査にあたっては,始発から終発までのすべての電車の乗客に対して,居住地,性別,年齢などの利用者の属性,利用目的,利用頻度,乗り継ぎ利用の有無などの利用者の特性,万葉線についての評価などのアンケート調査を実施するとともに,現金払い,通勤・通学定期,回数券などの運賃支払い区分別旅客流動調査を行った.その結果,870人からアンケート調査の回答がえられた.また,のべ乗車人員は,11月2日が2,426人,11月3日が1,518人であった.3.万葉線の旅客輸送パターン 万葉線は,高岡市と新湊市にまたがる12.8kmの路線を有しているが,法的には高岡駅前・六渡寺間の軌道線と,六渡寺・越ノ潟間の鉄道線からなっている.しかし,両者は路面電車タイプの車両で一体として運行されており,実質的な区別はない. 旅客流動調査の結果から,万葉線の旅客輸送パターンは,大きく分けて,高岡駅前を最大の発着地とする高岡市内の近距離輸送,新湊市役所前を中心とする新湊市内の近距離輸送,高岡・新湊両都市間の輸送からなっている.これらの旅客輸送パターンには,高岡市内,新湊市内に立地する高等学校への通学利用,高岡市内のショッピングセンターへの買い物利用による輸送が含まれる.通勤・通学客が少なくなる休日では,高岡駅前を発着地とする輸送の割合が高まる傾向がみられる. 運賃支払い区分では,平日の通勤・通学定期利用者は約31%,休日は約19%で,定期旅客の割合が低く,都市内部の公共交通機関の性格を有しているといえる.また,沿線に立地する幼稚園の遠足による団体利用があるなど,地域に密着した交通機関であることが窺われる.4.利用者の特性 利用者に対するアンケート調査の結果から,半数近くが高岡市在住者,約30%が新湊市在住者である.年齢別にみると,10歳代と60歳以上がそれぞれ約30%で,高校生の通学と高齢者の利用が中心であるという構造は,万葉線にもあてはまる.しかし,20_から_50歳代の利用者も40%近くを占める.このことは,通勤利用者率の高さにも反映されており,最大の利用目的である通学利用についで通勤利用が多く,両者の差は小さい.買い物利用,余暇活動による利用,通院がこれらにつづく利用目的であるが,通学や通勤利用の半分程度である. 万葉線についての評価では,運転本数の評価が高く,ついで運賃や乗務員の応対など,第三セクター化後の営業努力が比較的高い評価をえている.他方,設備面や終電時刻については,改善の希望が多く見うけられた.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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