抄録
帯磁率は古環境・古地理のプロキシとして期待される.砕屑物の帯磁率は一般に1)磁性鉱物の含有量,2)構成粒子の粒度分布,3)風化・続成作用により変化することが知られる.1)の磁性鉱物の含有量は後背地の火山イベント,テフラの挟在,堆積物の後背地質の違いによって変化する.後背地の地質が変化に富む場合,河川システムなどの堆積環境変化に対応した帯磁率の変動が予想される.濃尾平野において掘削された完新統を貫く合計8本のオールコアボーリング試料(Fig.1)について記載・粒度分析・帯磁率測定を行った.粒度分析にはレーザー回折散乱式粒度分析装置SALD3000S(島津製作所)を用い,帯磁率はZH instruments社の携帯型帯磁率計SM20を用いて測定した.濃尾平野の完新統は岩相等にもとづいて大きく5つのユニット(下位よりBG,LS/M,MM,US,TSM)に区分できる(Fig.1).帯磁率の変動パターンは堆積ユニット毎に特徴的で粒度分布との相関が示唆される.一方,類似した粒度分布を示す試料であっても堆積ユニット間,コア間で帯磁率が異なる.特にLS/Mはコア毎に帯磁率が大きく異なる.例としてKZNコアとOYDコアのLS/M,MMおよびUSにおける帯磁率と中央粒径値との関係を示す(Fig.3).OYDコアのLS/MとUSの中央粒径値は概ね等しいが,LS/Mにおける帯磁率のほとんどが0.2×10-3 SI Unit以下であるのに対し,USにおいては0.3_から_0.8×10-3 SI Unitを示す.一方,KZNにおける帯磁率はLSM,USともに0.3_から_1.5×10-3 SI Unitを示す.OYDコアに見られる帯磁率変化は,LS/MおよびUSの堆積当時の古地理・古水系を反映したものである可能性が高い.LS/Mは後氷期の海面上昇期に起伏が大きい沖積層基底を埋めるように堆積したと考えられている(山口ほか,2005).このとき,沖積層基底の谷の中心に向かって養老山地から土砂が運搬される.養老山地南部は新第三紀堆積岩類からなり,養老山地の中・北部(中_から_古生層)および木曽川水系(流紋岩・花崗岩等)とは異なる.これら養老山地南部から供給された堆積物によって帯磁率が低いLS/Mが形成されたと考えられる.KZNのLS/Mの帯磁率が高いのは,KZNの位置が木曽川の埋没谷底付近であったためにLS/M中に占める木曽川起源堆積物の割合が高くなったためと考えられる.USは木曽川を主とする河川の堆積作用によるデルタフロントの前進に伴って形成された(山口ほか,2003).そのため木曽川水系から運搬された堆積物がUSの大半を構成していると考えられる.このことがOYDとKZNのUSの帯磁率が近い値をとる理由であると考えられる
