日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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ネパールにおける夏季モンスーン開始期前後の降水量推移について
*福島 あずさ高橋 日出男
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p. 40

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抄録
_I_.はじめに
ヒマラヤ山脈の南側には,標高100m程度のタライ平原から約200kmの間に8000mにも及ぶ標高差が存在し,標高2000_から_3000mのマハバラート山脈などにより起伏に富んだ地形が展開している。ベンガル湾からの湿潤な気流がこれらの山脈斜面を上昇することにより多量の降水がもたらされることから,ここに位置するネパールは夏季モンスーンを考える上で重要な地域である。しかし,データの制約からネパールにおける降水現象の詳細は十分に把握されておらず,最近になって前野ほか(2004)などにより日降水量データを用いた気候学的な解析が行われるようになった。ネパールにおける夏季モンスーンの降水は,地形の影響とともに,モンスーントラフや亜熱帯ジェット気流の挙動に支配されていると考えられる。本研究では,前野ほか(2004)およびその後の日降水量データを用いて,ネパールにおける夏季モンスーン開始期前後の降水量推移に関する気候学的特徴を明らかにすることを目的とする。

_II_.データ
日降水量データについては,ネパール科学技術省水文気象局による1976_から_2002年の94地点のデータを用いた。また循環場の解析にあたっては,気象庁客観解析資料の1990年_から_1995年のデータを用いた。
_III_.結果と考察
まず半旬降水量の推移からモンスーン開始日を求め,他の地域との比較を行った(図1)。最も開始日が早いのは東部アルン川流域の4/21で,松本(2002)と比較するとインドシナ半島内陸部やインド北東部とほぼ同時期であり,インド半島の大部分より早く始まることになる。中山間地域では5月中に,タライは6/5ごろに開始し,東部中山間部から西側へ,さらに南側と北側へ向かって開始日が遅くなる傾向がある。
次に降水量季節推移の地域性を把握するために,基準化した半旬降水量にWard法によるクラスター分析を行い図2の7地域(1.西部タライ_から_中山間・東部ヒマラヤ,2.西部中山間,3.西部ヒマラヤ_I_,4.西部ヒマラヤ_II_,5.東部中山間,6.東部タライ,7.東部中山間アルン川流域)に区分した。
区分した地域毎に27年間の暦日平均降水量を求め,モンスーン開始期前後の降水量推移を比較した(図3)。山岳地域を除き,地域によって多少時期は異なものの6月上旬(150_から_160日以降)(B)に降水量が大きく増加し,それ以前においては数十日間にわたって降水量がゆるやかに増加する時期(A)が認められる。両時期(5月以降)における上層の東西風速分布を比較すると,Bにおいては亜熱帯ジェット気流がチベット高原北側に位置してるが,Aではヒマラヤ山脈南側にも分流した西風帯が存在しおり,Aはプレモンスー季に,Bはモンスーン季に相当すると判断される。先に求めたモンスーン開始日が,特に東部地域ほど早いのは,AとBの降水が区別されなかったためと考えられる。年々の日降水量推移によると,AはBに比べて日降水量は少ないが,いずれの時期にも準周期的な降水量の増減が認められる。今後は,それぞれの時期における降水発生要因の差異について,循環場の解析から明らかにしたい。

参考文献  松本淳 2002.東南アジアのモンスーン気候概説.気象研究ノート202:57-84.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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