日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

地理教育における最近の市町村合併の取り扱いについて
高等学校・地理の授業から
*伊藤 智章
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p. 62

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抄録

 2005年3月31日に、市町村合併特例法による特例措置が終了し、「平成の大合併」と言われた市町村の再編成が一段落した。住民から賛否の声を受けつつも、次々に行政界や市町村名が変更され、新たな市町村の誕生と、旧来の町村が消滅した現状をどう取り扱うかについての議論は十分に行われているとは言い難い。
 本報告は、以上の問題意識に立ち、高等学校の地理で行った授業例を紹介し、地理教育で市町村合併の問題を取り扱うことの重要性と、具体的な指導法について提案する。
 授業は、2005年4月から、6月にかけて、静岡県立長泉高等学校の3年生を対象として行った。GISソフトの「MANDARA」の操作を学ぶ傍ら、静岡県内で、ここ3年以内に合併した市町村を図示し、その地図の上に、財政に関する統計(財政力指数・税収額など)、人口に関する統計(人口増加率、高齢者人口比率など)から作成した地図を重ね合わせ、市町村合併を選択した市町村に共通する特性を明らかにした。
 結果として、合併を選択した市町村の多くは、財政力指数が低く、自主財源による行政運営が困難であること、合併には、財政規模が大きな市町村が周辺町村を吸収する形(浜松市・沼津市など)と、小規模な市町村同士が連合して、全く新しい名称の市町村が誕生させる合併(伊豆市・伊豆の国市があることが明らかになった。
 次に、広域合併が検討されている静岡県東部の市町村を対象とし、市町村間の関係の図示し、その必要性の有無と、仮に合併した場合に予想される問題について検討させたところ、沼津市と三島市および周辺市町村の間では、相互の人口移動が大きく、実質的に同一の都市圏にあることが分かった。
 生徒は、合併推進の根拠となる、生活圏の拡大と広域行政の必要性について理解する一方で、市町村毎の公共料金や、住民一人当たりの歳出額の増減など図示し、合併に伴うメリットとデメリットを提示した。地元の町会議員を招いて行った報告会では、生徒の報告に基づいて、活発な議論が展開された。
 今回の授業では、生徒に市町村合併問題を身近な問題として捉えさせることを目指した。結果として、統計を図示して重ねることで、論点が明確になり、活発な議論を展開することが出来た。
市町村合併の問題は、学習指導要領が言うところの「地図化して考える有意性」、「地理的見方・考え方の育成」を具現化する上で格好の教材である。また、地理教育の意義を世間に伝える上で、格好の事例となりうるだろう。幅広い議論と情報の提供、全国各地での実践の蓄積を期待したい。

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