抄録
1.はじめに 東京都立大学理学部地理学科は、2004年にJABEE(日本技術者教育認定機構)の「地球・資源」分野で初の教育プログラムの一つとして認定を受けた。この報告では、地理学には縁遠いと思われがちな技術者教育のプログラムとして当学科が認定を受けるに至った経緯と教育改善の取り組みを紹介する。2.JABEE受審の経緯 当学科がJABEEへの取り組みを始めたのは、2002年度からである。当時はJABEEも設立から間もない時期で、地理学界はもとより理学系の分野でも未だあまり知られていなかったため、手探りの状態で試行審査の準備を開始することになった。そうした状況下で当学科が受審を決めたねらいは、当時進行しつつあった大学改革の中で地理学科の独自性と存在感を確保することと並んで、年々厳しさを増す就職戦線で技術士補(修習技術士)の資格が学生の就職にとって有利になると判断されたことがあげられる。また、文理融合型のカリキュラムをもつ地理学科にとって、JABEEの認定基準の重要な要素となる学習教育目標や学習保証時間の中で、理工系だけでなく人文社会系の科目が相当なウェイトを占めていたことも好都合であった。3.教育改善への取り組み 2002年度の試行審査では、いくつかの審査項目で不備が指摘されたため、翌年からそれらの改善に向けて準備が進められた。とくに、受審に際して学生の達成度を証明する試験の答案やレポート類の保存、教育改善の取り組みの記録などが必要になるため、新たに教員の負担も増大した。またカリキュラム自体に大きな変更は加えなかったものの、理工系の必修科目が増えたために学生が履修できる科目の選択の幅が狭まったことは否めない。しかし、なんとか翌年の本審査にこぎつけることができたのは、当学科がもともと変革に柔軟に対応できる体制と規模を備えていたからかもしれない。 具体的な教育改善の取り組みとしては、シラバスの充実や学生による授業評価だけでなく、教員相互の授業参観・評価、卒論のテーマ公募などを実施した。これらはFD(Faculty Development)の一環として行ったもので、教員の意識改革や審査する側の教員自身にとっての指導法の改善に一定の効果があったようである。また、技術者倫理やデザイン能力といった、従来の地理学では顧みられることが少なかった側面に改めて眼を向けるよい機会となったことも確かである。