I.研究の目的 発表者は、これまで単一工業地域の日立、宇部、釜石、室蘭、複合工業地域の八幡、総合工業地域の尼崎、川崎・鶴見を中心に、日本の工業地域社会における内部構造の発達過程を究明してきた。本発表は、これらの事例研究を踏まえ、日本における工業地域社会の内部構造の発達過程(工業都市化)と発達メカニズムを解明した。
II.結果1.工業都市化の内部構造発達過程 単一工業地域においては、基本的に、事務所を中心に生産、商業・サ_-_ビス、居住の3機能からなる
一極型企業地域社会、企業地域社会の発展に伴って関連地域社会が生じ、工業地域社会はこの二つから構成された。多極型、やがて
地域的独占企業(一系列資本)に成長すると一核心型、一核心・多極型圏構造の工業都市となり、工業の衰退にともなって都市に変化した。
複合工業地域においては、単一工業地域の段階を経て、複合工業地域になると複数系列(又は巨大一系列)資本を中心にその他多数の異企業群による
二核心・多極型、主力企業が後退すると大都市の一部としての工業地区に変化した。
総合工業地域においては、単一・複合工業地域の段階を経て、総合工業地域の段階になると、消費財から生産財工業にいたる多業種(総合)にわたりかつ多数の系列資本と企業群から構成される
多核心・多極型となる。工業が後退すると巨大都市の機能の一部としての(総合)工業地域に変化する。
単一工業地域は河川立地、臨海立地、内陸立地のいずれかを基本とするが、複合工業地域はこれらの複数立地、総合工業地域は3つの立地を備えている。また、複合・総合工業地域になるほど、工業の基軸となるのは、鉄鋼業と石油化学工業・電力などの素材・エネルギ_-_産業であった。
単一・複合・総合工業地域における内部構造の発達過程モデルは発表時に示す。
2.工業都市化の内部構造発達メカニズム 単一工業地域にあっては、一極型の企業地域社会が、
生産機能の拡大に伴って、商業・サ_-_ビス機能と居住機能が関連地域社会と重なって外方に移転・拡大(重層のメカニズム)し、やがて事務所を中心に3機能が分化する。戦後の持家制度普及と退職者増大は郊外に住宅地化を促進させた。その結果、内陸・臨海立地、地形に関係なく、主力企業の事務所を中心に、生産地域、商業地域、住宅地域の圏構造を形づくった。
複合工業地域にあっては、単一工業地域のメカニズムに加えて、
先発企業の圏構造などの制約を受けた後発企業の圏構造は、歪んだ形で飛地状に展開した。市街地化が進むと、先発・後発の区別なく飛地状に圏域を拡大した。戦後の持家制度普及と退職者増大が郊外の住宅地化を進行させ、その結果、工業地域社会全体は、主力企業事務所を中心に、生産地域、商業地域、住宅地域に分化した。
総合工業地域にあっては、
単一・複合工業地域のメカニズムに加えて、多様な立地形態、多種の圏構造、都市的諸要素が重なり合うため、企業地域社会の3機能は一層複雑・広域化し、大企業は樹枝状、中小企業は飛地状に展開した。戦後の持家制度普及・退職者増大に巨大都市のベットタウン化が重なって、郊外の住宅地化を進行させた。その結果、工業地域社会は生産地域、商業地域、住宅地域に分化した。住宅地域には、内陸立地の工業地が含まれるため、工業・住宅の混在地区と住宅地区に分かれた。総合工業地域社会が高度化すると、商業地域には工業地域社会の商業地以外に、工業都市の中心商店街(都心)が形成した。
3.単一・複合・総合工業地域社会の原型 単一・複合・総合工業地域のいずれも、生産地域、商業地域、住宅地域の配列をなした。この配列は、企業発展に伴う
企業地域社会の3機能拡大が、関連地域社会や持家普及などと連関して展開したものである。企業地域社会の3機能からなる
一極型こそ、工業都市化における内部構造の原型といえよう。
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