日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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  • 荒木 一視
    p. 1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.目的 2004年1月12日に山口県阿東町で確認された高病原性鳥インフルエンザは,各方面に大きな衝撃を与えた。感染拡大の防止,人への感染の可能性などのほか,鶏肉や鶏卵の供給ついての懸念も少なくはない。病原菌の発生源を押さえるだけでは,安全で安定した食料供給体系を維持することはできないからである。流通経路を精査するとともに,代替の流通経路を構築し,代替の食品を確保,安定的に提供する方策を採らなければならない。むしろ,発生源の養鶏場とその周辺を封鎖することよりも,直接的な消費者への影響という観点からはそれにともなう代替の鶏肉,鶏卵の確保といったより「川下」の流通段階での影響の方が大きく,かつ広範囲である。本研究はこの事件を,衛生管理や防疫体制といった側面のみならず,安全な食料供給体系を維持するためにどのような流通体系を構築するかという側面から重要な意味を持つととらえ,安全な食料の供給体系の構築,運用という観点から検討を加える。2.方法 調査は山口市内に店舗展開するスーパーマーケットの鶏肉,鶏卵の担当者に対して,聞き取り調査を依頼する形でおこなった。山口市内の総合スーパー,食品スーパーあわせて15社に対し,電話で調査への協力依頼をおこない,承諾を得られた10社10店舗に,調査員が訪問し,調査票に即して聞き取りをおこなった。調査の主眼は,出荷停止にともなう代替調達先の確保や,価格変動に対する対策などについてであり,鳥インフルエンザ騒動という状況下でどのようにして鶏肉・鶏卵の安定供給の方策を採ったかに注目した。3.アンケート結果 アンケート結果の概略は以下の通りである。今回の事件の影響については,鶏肉部門では10社中10社が,鶏卵については同9社が影響があったと回答した。なお,事件の発生した農場から供給をうけていたのは10社中1社であった。事件に伴う販売量の減少は大きく,鶏肉の場合4社が50%の落ち込みを,鶏卵の場合でも2社が50%の落ち込みを回答している。また,落ち込みの期間としては,多くは1,2ヶ月程度であったが,半年以上にも及ぶとの回答もあった。事件直後にとった当座の対策としては,値下げや調達量の調整の他多くが安全性のアピールを回答し,長期的な調達戦略としても安全性の確保が指摘された。また,長期的な対応としては,価格や販売量の調整よりも,調達先の調整が優先課題であるとの回答が多く(7社)寄せられた。 具体的な調達先の変更としては,阿東町からの調達をやめ,宇部市からの調達に切り替える,山口県内からの調達を,広島県,あるいは鹿児島県からの調達に切り替えるなどの対応が認められた。調査時点では調達先の変更をすでに行っていたのは6社であったが,地元産品を看板しているため変更は考えていないとする1社,調達先の変更はグループ全体の事項なので個別店舗での対応はできないとする1社を除く8社では,将来的には調達先の多元化や,大型供給地への変更,安全性を配慮した供給地への絞り込みなど,調達先の変更を検討しているとのことであった。4.リスクは回避できるのか 鳥インフルエンザの発生を100%封じ込めることは困難である。むしろ,発生した際にも,混乱を最小限に回避できる安定した供給体系をどのようにして稼働させるのかということが需要である。その際,本来的には小規模で分散した産地からの供給がもっともリスクが少ないはずであるが,アンケートからは遠隔の大規模産地からの調達を検討しているものが少なくはなかった。また,安全管理や安全性を重視した調達先の確保という回答が多く寄せられたが,具体的な安全管理体制は不明であるし,スーパーサイドで鶏肉,鶏卵出荷業者の管理がどこまでできるのかも疑問である。このように発生源の特定と防疫という側面についてはリスク管理のノウハウが蓄積されたかもしれないが,食品流通という側面でのリスク管理は決して充分ではないと考える。 また,多くのスーパーがいたずらに不安をあおるようなマスコミの報道に大きな問題があったとの回答を寄せていることもあわせて指摘しておきたい。
  • 福井 幸太郎, 藤井 理行, 上田 豊, 朝日 克彦
    p. 2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
      近年,ネパールヒマラヤでは氷河の急速な後退や氷河湖の顕著な拡大が報告されており,これらの現象の背景には地球温暖化の影響があるとの指摘もある(例えば山田 2000).
     しかし,ネパールの高山地域では現時点で長期にわたる気象観測データがない.このため,ネパールヒマラヤでの気温上昇の実体は明らかになっていない(例えば上野 2001).
     そこで,筆者らはネパールヒマラヤ,クンブ地域で山岳永久凍土の下限高度の変化から最近30年間の年平均気温の変化を推定した.
    2. 方法
     山岳永久凍土の下限高度の決定には50 cm深地温の高度による減率の変化から推定する方法を用いた(Fujii and Higuchi 1976).季節凍土帯では,50 cm深地温の高度による減率は気温減率に近似する.これに対して,永久凍土帯では,地下に冷源として凍土が存在するため,50 cm深地温の高度による減率は気温減率以上に大きくなる(Fujii and Higuchi 1976).このため,減率が大きく変化する高度から永久凍土の下限高度を推定することが出来る.
     1973年8月にクンブ地域の平坦から南向き斜面では,標高4500から5300 mにかけて50 cm深地温の観測が20ヶ所以上で実施され,永久凍土の下限高度は5200 mであると推定された(Fujii and Higuchi 1976).今回は2004年10月に標高4200から5600 mの平坦から南向き斜面20ヶ所で50 cm深地温の観測を行い,永久凍土の下限高度の推定を行った.
    3. 結果
     2004年10月の標高5400から5500 m以下の50 cm深地温の減率は0.51゜C/100 mと気温減率に近いが,標高5400から5500 m以上のそれは2.5゜C/100 mと気温減率より著しく大きくなる.したがって,2004年の地温減率が大きく変化する標高は5400から5500 mであるといえる.1973年の50 cm深地温の減率が大きく変化する標高は5200 mであった.このことから地温の減率が大きく変化する標高は最近約30年間で200から300 m程上昇したといえる.
    4. 考察
     地温減率が大きく変化する標高を永久凍土下限高度とみなすと2004年の永久凍土下限高度は標高5400から5500 mであり,1973-2004年の約30年間でこの地域の永久凍土下限高度は200-300 m上昇したといえる.この地域の気温減率は0.42゜C/100 mであることから,1973-2004年の年平均気温の上昇は0.8-1.2゜Cであると計算される.最近30年間の全球での年平均気温の上昇は0.3゜C前後であるので本地域の年平均気温の上昇速度は全球平均のそれと比較してかなり急激である可能性がある.
  • 篠原 重則
    p. 3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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  • 福井 幸太郎, 山縣 耕太郎, 曽根 敏雄, 澤田 結基
    p. 4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
     日本の高山の永久凍土分布を考える場合,冬季の積雪分布が一義的に永久凍土の分布を規定しており(例えば福井 2004),永久凍土分布に与える植生の影響を見いだすことは難しい.しかし,潜在的には植生が永久凍土の分布に影響を与えている.例えば,高橋(1995)は大雪山中央部でハイマツ群落内の秋季の地温が非常に低く保たれていることを見いだした.
     カムチャッカ半島ではハイマツ群落やダケカンバ群落といった日本の高山と同じような植生が広く見られる.この地域の年降水量は300 mm程度と日本の高山地域より,はるかに少ないため,永久凍土分布に与える植生の影響を検出することが可能である.
     本研究ではカムチャッカ半島エッソ地域でハイマツ群落が永久凍土の分布に与える影響について調査を行った.
    2. 調査地域と方法
     調査は2004年9月中旬にカムチャッカ半島内陸部に位置するエッソ村の西約6 kmに位置するラテラルモレーン上で行った.エッソ村の標高は約500 m,年平均気温は約-2゜Cで不連続永久凍土帯に属する.
     調査はクリノメータを用いたモレーンの地形断面の測量,植生調査,12地点でのピット断面の記載と深度10 cm毎の地温の測定および熱特性計(DECAGON社製KD2)を用いた熱伝導率の測定を行った.
     3. 結果
     調査地のモレーンの北向き斜面にはミズゴケが広く分布する.頂面にはハイマツ群落が分布し,一部にコケ類がみられる.南向き斜面にはダケカンバが分布する.
     永久凍土の分布に影響を与えるピットの表層構成物質をみてみる.ミズゴケ分布地では厚さ20 cm以上のミズゴケのマットが存在する.ハイマツ林床では厚さ数cmのリター層と厚さ10 cm以上のコケモモやイソツツジの根系マットがみられる.ダケカンバの林床には厚さ数cm程度のリター層だけが存在する.
     地温はミズゴケ分布地とハイマツ群落内で低く,ダケカンバ林内で高くなるという傾向がみられた.また,ミズゴケ分布地とハイマツ群落内では深度30から50 cmで凍結面を確認出来た.
     リター層の熱伝導率は0.05から0.09W m-1゜C-1,根系マット層のそれは0.06から0.11W m-1゜C-1,ミズゴケ層のそれは0.06から0.15W m-1゜C-1と非常に低かった.これに対してローム層の熱伝導率は0.17から0.76W m-1゜C-1とリター層,根系マット層,ミズゴケ層のそれと比較して数倍に達する.
    4. 考察
     乾燥したミズゴケ層は高い断熱効果を持つため,夏季に凍結層を効果的に保存し,永久凍土が保持されやすい環境をつくり出す.このことは多くの研究者によって確認されている.今回リター層や根系マット層の熱伝導率を測定した結果,ミズゴケ層と同程度,もしくはそれ以下の熱伝導率であることが分かった.つまり,リター層と根系マット層の断熱効果はミズゴケのそれに匹敵するといえる.ハイマツ群落内では凍土層の存在を確認出来た.本地域では10月初旬から地面の季節的な凍結が進行するため,この凍土は永久凍土である可能性が高い.したがって,ハイマツ群落はリター層と根系マット層の高い断熱効果により夏季の融解から凍土を保護し,永久凍土が保持されやすい環境をつくりだしているといえる.
  • 植木 岳雪
    p. 5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    本研究の目的は,関東平野西縁の丘陵およびその構成層の編年精度を向上させることである.そのため,丘陵構成層とそれを覆うローム層の古地磁気測定を行った. 関東平野の西縁には,鮮新・更新統から構成される丘陵が平野に向かってはりだしている.そのうち,狭山丘陵,阿須山丘陵の東端部および高麗丘陵の東部は,それぞれ芋窪礫層,上部豊岡礫層および上鹿山礫層から構成され,その堆積面は狭山面,阿須山面および上鹿山面と呼ばれている(皆川・町田,1971;町田,1973).これらの地形面は,58?69万年前に噴出した貝塩上宝テフラ(KMT)に直上を覆われており,狭山面および阿須山面は海洋酸素同位体ステージ17?16に形成されたと考えられている(鈴木,2000). 古地磁気測定用のキューブ試料は,上鹿山礫層と芋窪礫層の最上部のフラッドローム層とそれを覆う風成ローム層から,合計8層準で採取した.各キューブ試料を,80 mTまでの交流消磁実験,あるいは650 °Cまでの熱消磁実験に供し,残留磁化の方向と安定性を調べた. いずれの層準から採取された試料に対しても,交流消磁実験と熱消磁実験で同様な消磁結果が得られた.そして,すべての層準が正帯磁であった.熱消磁実験では,粘性残留磁化の影響のない高温段階まで安定な磁化成分が見られることから,これらの正の磁化極性はブリュヌクロンの間に獲得された二次的なものではないと考えられる.このことから,上鹿山面および狭山面は,ブリュヌー松山クロン境界の78万年前からKMTの噴出した58?69万年前の間の中期更新世前期に形成されたことになり,前期更新世にさかのぼることはないと判断される.
  • 黒木 貴一, 磯 望, 後藤 健介, 宗 建郎
    p. 6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    既存の土地利用データとしては、宅地利用動向調査による10mメッシュ土地利用データが都市圏に整備され、国土数値情報の約100mのメッシュ土地利用データが全国整備されている。そのため様々な地域を対象とした土地利用分析には国土数値情報のデータに頼る以外にはない。また、明治時代以降の土地利用変化を連続的に知るには、5万分の1地形図から土地利用データを作成するのが最もよく、そのような試みは約2kmメッシュによる氷見山ほか(1991)や約250mメッシュによる黒木・松本(2005)などで行われた。いずれにしろメッシュが粗く、その精度は宅地利用動向調査による10mメッシュ土地利用データに及ばず、土地利用分布や変化に関する検討が詳細にはできない。本研究では、1/25,000地形図にある土地利用境界線を利用してGISにより土地利用図を作成し、それより10mメッシュデータとした。その所要時間と手法を整理し作成した土地利用データの特徴をまとめた。さらに土地利用データと他の地理情報との重ね合わせなどからデータ利用に関する予察を行った。
  • 木下 禮子
    p. 7
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1、目的 90年代以降、フリーターと呼ばれる若年非正規就労者の増加が著しい。小杉(2003)は、「フリーターが圧倒的に高卒以下の学歴の者のほうが多く、大都市に集中する傾向にあり、人口集中の結果の高校の階層化が、一部の高校にフリーターをたくさん析出する構造を作り出している」と指摘している。本校もそのような卒業生が多く、しかも1年も経たないうちに退職・退学したという情報が寄せられる。したがって「新卒無業」だけでなく「卒後無業」も加わって、相当数がフリーターになっていると推測できる。そこで卒業生に対して全数調査を行い、1年後の実態を把握する。その上で彼/彼女らのジョブリサーチに焦点を当て、フリーターになる過程でどのような要因が作用しているかを明らかにする。2、調査方法 2003年3月卒業の185人全員を対象に、進路別(就職・進学・未定)に質問項目を変えたアンケート用紙を用いて、2004年5月に第1次調査を、未回答者に対して8月に第2次調査を郵送法で行った。その後未回答者に対して電話による調査を行った。また1年後までに退学・退職した者、および未定者のうち1年後も非正規就労の者に対して、面接調査を行った。3、調査の結果(1)アンケート調査の結果 アンケート調査の対象者数および回答数は表のとおりである。郵送法による回答率には進路によって差があり、未定者については7人が宛先不明または電話番号変更で家庭状況の不安定性が垣間見える。専門学校は分野によって難易の差が大きく、退学者は医療系で「授業についていけなかった」場合と無試験入学できる「趣味系」の場合に集中した。就職者については34人中12人がすでにやめていた。また今後も続けると回答した者は半数にも満たず、3年以内に高卒就職者の5割がやめるという通説を上回る。退職・退学者と未定者は非正規就労者が多く、とりあえずアルバイトでつないで、もっとよい職(それも非正規雇用の場合が多い)が見つかり次第転職しようとしている。(2)インタビュー調査の結果1)ヤマメ型とサクラマス型3年生の10月末日時点で63.6%がアルバイトをしていた。在学中にそこそこのアルバイト先があった場合、未定者は卒業後もそのアルバイトを継続し、進学・就職者は卒業で一旦辞めても退学・退職すると元のアルバイト先に舞い戻ってくる。2)郊外完結型ジョブリサーチ本校の学区は横浜市郊外の泉・瀬谷・旭区。最寄駅のいずみ中央から横浜まで快速で約30分290円の距離にある。しかし卒業後も在学中同様、無料の求人情報誌・行動範囲内の求人貼紙・友人紹介を主な情報源としており、自宅周辺の求人情報にしか接していない。また応募に際し自宅に近いことを優先している。その理由は_丸1_交通費が支給されない_丸2_アルバイトを掛け持ちしている_丸3_職種が中心地志向ではないことが挙げられる。[付記]本研究は、(財)福武学術研究財団より研究助成を受けた。
  • 後藤 秀昭, 青山 繁雄
    p. 8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに 東北日本はプレートの収束帯に位置する島弧の典型例として地形学的,地質学的,地球物理学的な研究が数多くなされ,プレートテクトニクス理論を実証する重要なフィールドとなってきたが,地震活動に関しては観測機器による約100年間の情報と,西日本に比べ数少ない歴史文書を基にして研究が行われてきたに過ぎない。 西日本では南海トラフに沿って100?150年の間隔で巨大地震(プレート間地震)が発生してきたことが知られているが,東北日本では巨大なプレート間地震が起こってきたのかどうかわかっていない。東北から北海道にかけての太平洋岸は,地形学的な研究からは隆起している地域と推定されるが,過去100年間の測地観測からは沈降傾向を示しており,明瞭な齟齬がみられる(池田,1996)。これは,南海トラフに沿って発生してきたプレート間地震の発生前と同様の傾向であることから,将来,日本海溝に沿って巨大地震が発生する可能性が考えられる。 演者は,津波堆積物と相対的な海水準変動の調査を通して海溝に沿って発生する巨大地震の検証を目指している。プレート間地震の発生域に近く,海岸地形によって津波の波高が増幅されにくい常磐海岸を対象として,浜堤背後の旧ラグーンにおいてハンディージオスライサーを用いて地層を採取し,地層の観察や珪藻殻分析による堆積環境の復元を行うことで目的を遂行しようとしている。2.地形概観と調査地点 常磐海岸北部(福島県浜通り)は,南北に延びる双葉断層崖を境に山地部(阿武隈山地)と低地部にわけられ,低地部は,丘陵と東流する諸河川の段丘面・沖積低地からなる。沖積低地は,海岸付近で砂州によって閉じられたラグーンを埋めて堆積している。これらのラグーンは,北部の松川浦を除いて,明治期以降の干拓によって順次陸化され,農地にされてきた。干拓により陸化した農地は,浦の堆積物を陸上で採取し,観察できるという調査上の利点を持つ。 本発表では,松川浦の南に位置し,松川浦とは約600mの短い川でつながっていた上流の旧山信田浦干拓地(相馬市磯部山信田)と,それより約30km南に位置する旧井田川浦干拓地(相馬郡小高町井田川)での調査に関する予察的な報告を行う。3.調査結果の概要1)山信田 山信田浦では,海岸線に直交する向きに側線を設け,それに沿って海岸から約800?1900mの地点で,1?1.8mの試料を合計10本採取した。試料は,大部分が浦の堆積物である腐植質の粘土層からなり,最大15cmの砂層が4枚程度挟まっている。(これらの砂層を上位より,Yt1?Yt4とする。)Yt1?Yt4のいずれも,下位の地層との境界が明瞭な侵食面からなる。また,上位に向かって細粒化する傾向がみられる。試料によっては,Yt1?Yt4の砂層中に粘土からなるrip-up clastが認められる。Yt1?Yt4は,海岸から陸に向かって,層厚の系統的な変化は顕著でないが,次第に細粒化するという傾向が認められる。これらのことから,Yt1?Yt4は津波堆積物である可能性が高い。 珪藻殻分析を,海岸から1.2km内陸の地点で採取した試料を対象にして行った。分析したのは,Yt3を挟む上下0.7mの地層である。その結果,Yt3とそれより下位の粘土層では海水から汽水種が優占し,Yt3より上位の粘土層では,淡水種が優占する。また,汽水種は,Yt3とその下位の粘土層を境界にして,Yt3より下位の粘土層に比べ,上位で急減していることが明らかとなった。これらのことから,津波堆積物であるYt3が堆積後,急激な堆積環境の変化が生じたと考えられる。Yt3を堆積させた地震活動に伴い急激な隆起が生じた可能性がある。2)井田川 井田川では,海岸から約1?1.5kmの地点で,1.1?1.6mの試料を3本採取した。試料は,浦の堆積物である腐植質の粘土層とそれに挟まれる8?15cmの砂層からなる。3本の試料とも3枚の砂層が見られた。(上位よりIt1?It3とする。)It1?It3は下位の地層との境界は明瞭な侵食面であり,上部に向かって細粒化する共通の特徴を有している。また,It1およびIt2には貝殻片が横になって挟まれていた。各試料間の対比では,海岸から内陸に向かうに従い粒度が細かくなる傾向が,It1?It3のいずれも認められた。これらから,It1?It3は津波堆積物である可能性が高い。池田安隆(1996):活断層研究と日本列島の現在のテクトニクス,活断層研究,no.15,pp.93?99.※科学研究費補助金(若手研究(B)(2),課題番号:15700539,研究代表者:後藤秀昭)および東京大学地震研究所共同研究プログラム(特定共同研究(A))の援助を受けました。
  • 川田 佳明, 黒木 貴一
    p. 9
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    砂丘形成に関して、古土壌に着目し砂丘形成期の解明を行ったもの(豊島・赤木,1965;遠藤,1969など)から、砂丘形成の原因解明を試みたもの(藤,1975;竹部・成瀬,1998など)へと研究が移り変わってきた。そのため、環境保全を視野に入れたごく最近の地形変化に関しては、まだ十分に議論されていない。福岡市には九州有数の観光地である海の中道がある。下山ほか(1989)によれば、海の中道の砂丘は、鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)以降に堆積した海の中道砂層(新砂丘砂層)と、阿蘇4火砕流(Aso-4pfl)や阿多火山灰(Ata)を介在させる奈多砂層(古砂丘砂層)に区分されている。この砂丘の北岸の一部では、海岸侵食が盛んで海食崖の発達が著しく、また基幹道路やJR線等のある西部では飛砂が顕著で、その防止策が施されている。そこでこのような環境問題を解決するために、海の中道の地形変化の実態とその原因を検討した。
  • 森永 由紀, 篠田 雅人
    p. 10
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
    ユーラシア大陸東部の内陸に位置するモンゴル国は平均標高1580mの高原上にあり、典型的な大陸気候の特徴を呈する。乾燥・寒冷で、かつ気温の年較差は90℃(_-_45℃_から_+45℃)に及び、植物の生育期間は約4ヶ月と短い。このような厳しい自然環境下において、モンゴル高原では季節に応じて家畜とともに草原を移動する「遊牧」が数千年間行われてきた。モンゴル国では農牧業が就業人口の半数弱、GDPの3割以上を占め、農牧業生産の約90%を牧畜業が占めている。基幹産業として遊牧が現在も継続している国は世界にも類をみない。しかし、1999/2000年以降、3年連続して夏の干ばつと続くゾド(寒雪害)に見舞われて全家畜頭数のうち約3割が失われ、多くの遊牧民は貧困状態に陥り、健康・教育レベルの低下や都市への人口集中を招いた。干ばつ・ゾド対策は、モンゴル国にとって解決すべき火急の課題である。
    2. 遊牧にとっての干ばつ・ゾドとその予測
     モンゴルの遊牧家畜は、牧草のエネルギー価の高い暖侯期に体重を増やして秋に最も太ることにより厳しい寒侯季を乗りきるという年変化のサイクルをもつが、気象や草地の条件が悪い年には、牧草量が最低となる冬から春にかけての体重減少が平年を大きく上回り、家畜が大量に餓死する。大量死の引き金となる低温、多雪、嵐などの悪条件をモンゴルではゾド(dzud)と呼び、寒侯季の気象災害と位置付けられている。しかし家畜の大量死は、寒侯季だけでなく1年を通じた気象や牧草の条件が家畜の年変化のサイクルに影響して、例えば1)暖侯季に干ばつで十分な体力がつけられない、2)冬季が甚だしく寒冷あるいは積雪が多い、3)春季の突風が強い、などの結果が蓄積して徐々に起きるため、ゾドは「忍び寄る災害」と呼ぶことができる。モンゴル国の自然災害の予報に中心的役割を果たす気象水文研究所Insitute of Meteorology and Hydrology (IMH)には、自然災害の早期警戒システム(Early Warning System 以下EWSと略)の雛型ともいえる、干ばつ・ゾドの被害を軽減するための独自のモニタリングシステムが存在する(森永・篠田、2005)。ここで取得されているデータを利用して牧畜気象学的データベース(気象、土壌、植生、家畜に関するデータ)を作成、解析することより、EWSの構築に役立つ基礎的知見を明らかにするのが本研究の目的である。ここではその一環として、放牧ウシの体重の季節変化と環境要素の関係の解析例を紹介する。
    3. 放牧ウシの体重の変化と環境要素
    上記モニタリングシステムの一要素である牧畜気象観測は、IMHから遊牧民に委託して実施され、家畜の状態と気象観測をあわせて行う。百葉箱と雨量計をゲルとともに季節的に移動させながら1日3回の気象観測をはじめとして、植生、雌の家畜の状態(ウシは15頭、ヤギ・羊は各25頭)、冬営地では家畜の寝床の温度環境等の観測を実施している。森林草原のブルガン県にあるウシの観測ステーションの1992-2002年の雌ウシの体重および草丈(寒候季は枯草)を、最寄の固定気象観測点(48゜82’N,103゜52’E,1209m) の気温、降水量、土壌水分(日気温および降水量からバケツモデルで計算)と併せて解析を行った。毎月のウシの体重変化と、気象要素の解析からは、寒候季(10-4月)のウシの体重減少は、同時期の気温や降水量よりも、先立つ夏の気温と土壌水分とのほうと関係が強く、ウシが干ばつに対して弱いことが明らかになった(Morinaga et al.,2004)。将来的には夏の干ばつと冬のゾドの発生を一連の時系列的な現象ととらえるEWSを構築し、気象、牧草、家畜生理の現状および予報を随時発表することにより、早期に段階的な干ばつ・ゾドの予報を実現していきたい。本研究の結果は寒候季のウシの体重減少の予測に役立つことが期待できる。
    参考文献:
    1)森永由紀・篠田雅人2005. モンゴル国の自然災害 _-_気象水文研究所における干ばつとゾドの監視システム_-_.小長谷有紀編『環境ハンドブック』 国立民族学博物館(印刷中).
    2) Morinaga, Y., Bayarbaator, L., Erdentsetseg, D., and Shinoda, M. 2004. Zoo-meteorological study of cow weight in a forest steppe region of Mongolia. The Sixth International Workshop Proceeding on Climate Change in Arid and Semi-Arid Regions of Asia, Ulaanbaatar, Mongolia, 25-26 August 2004, 100-108.
  • 曽根 敏雄, 山縣 耕太郎, 大月 義徳, 福井 幸太郎, 澤田 結基
    p. 11
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    カムチャツカ半島の中央内陸部にあるエッソ村中心部は標高約500mであり、年平均気温は約-2℃程度である。このことから、本地域は永久凍土の分布限界付近と考えられ、斜面方位や植生、地表面の状態によって永久凍土の分布が左右されていると考えられる。これまでは、秋の地温状態から永久凍土の存在を推定してきたが、通年の地温観測は行なわれて来なかった。そこでビストラヤ川の支流のウクシチョン川流域において、斜面方位や植生状態の異なるいくつかの地点で地温観測を行ない、地温状況を把握した。地温は、季節的凍結融解層内から永久凍土層の上部の深度で、おんどとりJrを用いて1時間おきに測定した。 村の西側を流れるウクシチョン川の右岸(北向斜面)では、カラマツ・ハイマツ林が、左岸(南向き斜面)ではカンバ林が優占する。エッソ村に近い右岸のモレーンの斜面では、1995年に山火事が発生した。より上流域の山火事のの影響を受けていない場所では、カラマツは「酔いどれの森」の景観を呈している。 右岸のカラマツ林でリター層が厚い場所には永久凍土が存在すると考えられる。また山火事跡地でもミズゴケ層がある場合には永久凍土が存在すると考えられる。そしてミズゴケのある部分が周囲より1m弱高まった小丘状の地形も認められ、degradationalなパルサ(永久凍土丘)であると考えられる。しかし北向き斜面でも山火事によりリター層が薄く、またミズコケの被覆もない場合には、永久凍土は存在しないと考えられる。一方、南向き斜面のカンバ林では、リター層は薄く、地温は高めに推移した。地温観測結果からみて、永久凍土は存在しないと考えられる。 2004年冬季の地温が高めに推移したのは、積雪の影響と見られる。積雪期初期に大量の雪が積もったと考えられるが、開けた場所で影響が少ないことから、強風下で堆積した雪と考えられる。 以上より、1.永久凍土は主に右岸に分布する。2.リター層が厚い場合、及びミズゴケ層が厚い場所には、永久凍土が存在する。3.標高500-600m付近にある永久凍土は、地温は高めであり、山火事による地表の変化や温暖化、また年による積雪の違いの影響を受けやすい不安定な状態にある、と考えられる。
  • 林 紀代美
    p. 12
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    本報告では,北海道産シシャモ(以下、シシャモ)に関する漁業活動や加工販売を把握し,活動により発生する地域間のつながりや位置づけ,流通の広がりを考察する。シシャモは,胆振・日高・十勝・釧路支庁で,ししゃも桁網漁業により漁獲されている。水揚量は,十勝・釧路管内で多く,資源量の変動が大きい。漁獲は,遡上・産卵行動にあわせて例年10月上旬から11月下旬に,太平洋沿岸で時期をずらして操業される。資源保護の観点から,遡上が確認された時点で操業を終了する。シシャモは,漁業者から各漁港市場に集荷され,仲買人がセリ・入札により集荷する。漁期のずれ,加工地域の偏り,完熟卵を持つメスへの需要から,シシャモの道内流通(加工原料の供給・移動)や漁期内の価格変動が発生する。鵡川町は,加工が盛んで,技術の高さとシシャモの名称由来・神話を背景に,“シシャモの町”として高い知名度がある。鵡川漁協の市場で入札に参加するシシャモ仲買人は,ほぼ全員が自家で加工をしている。大手業者2社は,1社は道外の物産展での販売を主とし,他方は市場卸売業者への出荷を主としている。他の仲買人も含め,彼らは自家加工品を店舗販売や宅配している。他の漁獲地域では,当該地域での加工も行われるが,仲買人の活動は“送り屋”としての役割が中心で,主に鵡川町の加工業者,その他道南方面の業者らに原料供給をしている。しかし近年,例えば釧路市漁協は,他地域への供給だけでなく地元特産品として活用,販売しようと,加工拡大と販路開拓に着手している。同漁協の出荷は,道外の生協や市場卸売業者らへの販売が中心で,その他全国チェーンの居酒屋への販売実績,宅配もある。シシャモは,漁期が短く,水揚量もわずかであるため,地元消費が中心であったが,1980年代以降,マスコミの影響やグルメブーム,道内関係者の販路開拓により,関東を中心に本州各地への出荷も増加した。漁業者や仲買人・加工業者には,短期で高収入を得られるシシャモは魅力ある魚種である。しかし,道外流通の増加や高単価なことから,地元住民の消費が遠のく・困難な点は,地元の味を守り支援する基盤づくりや地元消費者の購買機会の確保においては課題でもある。
  • 岩間 英夫
    p. 13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    I.研究の目的

    発表者は、これまで単一工業地域の日立、宇部、釜石、室蘭、複合工業地域の八幡、総合工業地域の尼崎、川崎・鶴見を中心に、日本の工業地域社会における内部構造の発達過程を究明してきた。本発表は、これらの事例研究を踏まえ、日本における工業地域社会の内部構造の発達過程(工業都市化)と発達メカニズムを解明した。

    II.結果

    1.工業都市化の内部構造発達過程
    単一工業地域においては、基本的に、事務所を中心に生産、商業・サ_-_ビス、居住の3機能からなる一極型企業地域社会、企業地域社会の発展に伴って関連地域社会が生じ、工業地域社会はこの二つから構成された。多極型、やがて地域的独占企業(一系列資本)に成長すると一核心型、一核心・多極型圏構造の工業都市となり、工業の衰退にともなって都市に変化した。
    複合工業地域においては、単一工業地域の段階を経て、複合工業地域になると複数系列(又は巨大一系列)資本を中心にその他多数の異企業群による二核心・多極型、主力企業が後退すると大都市の一部としての工業地区に変化した。
    総合工業地域においては、単一・複合工業地域の段階を経て、総合工業地域の段階になると、消費財から生産財工業にいたる多業種(総合)にわたりかつ多数の系列資本と企業群から構成される多核心・多極型となる。工業が後退すると巨大都市の機能の一部としての(総合)工業地域に変化する。
    単一工業地域は河川立地、臨海立地、内陸立地のいずれかを基本とするが、複合工業地域はこれらの複数立地、総合工業地域は3つの立地を備えている。また、複合・総合工業地域になるほど、工業の基軸となるのは、鉄鋼業と石油化学工業・電力などの素材・エネルギ_-_産業であった。
    単一・複合・総合工業地域における内部構造の発達過程モデルは発表時に示す。

    2.工業都市化の内部構造発達メカニズム
    単一工業地域にあっては、一極型の企業地域社会が、生産機能の拡大に伴って、商業・サ_-_ビス機能と居住機能が関連地域社会と重なって外方に移転・拡大(重層のメカニズム)し、やがて事務所を中心に3機能が分化する。戦後の持家制度普及と退職者増大は郊外に住宅地化を促進させた。その結果、内陸・臨海立地、地形に関係なく、主力企業の事務所を中心に、生産地域、商業地域、住宅地域の圏構造を形づくった。
    複合工業地域にあっては、単一工業地域のメカニズムに加えて、先発企業の圏構造などの制約を受けた後発企業の圏構造は、歪んだ形で飛地状に展開した。市街地化が進むと、先発・後発の区別なく飛地状に圏域を拡大した。戦後の持家制度普及と退職者増大が郊外の住宅地化を進行させ、その結果、工業地域社会全体は、主力企業事務所を中心に、生産地域、商業地域、住宅地域に分化した。
    総合工業地域にあっては、単一・複合工業地域のメカニズムに加えて、多様な立地形態、多種の圏構造、都市的諸要素が重なり合うため、企業地域社会の3機能は一層複雑・広域化し、大企業は樹枝状、中小企業は飛地状に展開した。戦後の持家制度普及・退職者増大に巨大都市のベットタウン化が重なって、郊外の住宅地化を進行させた。その結果、工業地域社会は生産地域、商業地域、住宅地域に分化した。住宅地域には、内陸立地の工業地が含まれるため、工業・住宅の混在地区と住宅地区に分かれた。総合工業地域社会が高度化すると、商業地域には工業地域社会の商業地以外に、工業都市の中心商店街(都心)が形成した。

    3.単一・複合・総合工業地域社会の原型
    単一・複合・総合工業地域のいずれも、生産地域、商業地域、住宅地域の配列をなした。この配列は、企業発展に伴う企業地域社会の3機能拡大が、関連地域社会や持家普及などと連関して展開したものである。企業地域社会の3機能からなる一極型こそ、工業都市化における内部構造の原型といえよう。
  • 中川 清隆, 渥美 裕史, 榊原 保志
    p. 14
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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     自動車搭載パソコンで気圧計、超音波風速計SATおよび汎地球測位システムGPSを制御して、気圧、気温、および風向・風速を移動観測する新たなシステムを開発した。
     車軸に平行に固定された単管パイプ先端部にYUNG社製SAT Model-81000 をN方向と車の進行方向を一致させて垂直に取り付け、信号線を車内に引き込む。ルーフキャリアに設置した下面に多数の穴をあけた発泡スチロール箱中にビニールパイプの一方の先端を固定し、もう一方の先端を車内助手席に設置したVAISALA社製クラスA気圧計PTB220に繋ぐ。ルーフにEMPEX社製GPSアンテナを設置し、車内助手席に設置した同社製GPS受信機map21ex に繋ぐ。SATの出力は32Hz、その他の機器の出力は1Hzで、観測車搭載のノートパソコンにより読み取り、一切加工せずそのままHD内に保存する。
     観測後に実験室でHD内ファイルの記録を整理・解析する。時間・緯度・経度および観測車の移動方向・速度は、GPS出力を用いる。対車風ベクトルの観測車進行方向および側面方向成分を西風成分および南風成分に変換した後観測車の移動ベクトルを減じて対地風ベクトルとし、32Hz風ベクトルの1秒平均値を求める。YUNG-81000から出力される音速から求まる32Hz気温の1秒間平均値を求める。観測開始または終了地点等の標高既知地点の標高からの比高を気圧と気温の観測値から層厚公式により算出して標高を求める。標高、気圧および気温から海面更正気圧を求める。
     自動車搭載SATによる風向・風速の測定は、黒瀬ほか(2002)による検定観測の結果、風向誤差11°、風速誤差1.5m/sと結論づけられている。観測車のSAT直下にサーミスタ気温測定装置を設置し、平成16年11月14日13時_から_14時に信州大学教育学部から戸隠神社中社の間で時間同期させて実施した比較観測の結果、約10℃の温度範囲において決定係数は0.97を上回っており、SAT気温は移動観測に利用できると判断された。平成16年10月28日_から_30日に長野地方気象台玄関前における本システムによる測定値から求めた海面更正気圧を同気象台の1分値との比較したところ、気圧と気温の測定誤差のほかに、本研究の海面更正法が仮温度を使用していないことに起因する多少の過大系統誤差が存在するが、標高を高精度で決定できれば海面更正気圧の移動観測も非現実的ではないことが示唆された。
  • 日原 高志
    p. 15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに 学校現場での防災教育の実践例を,筆者の前任校東京都立墨田工業高校(1学年200名・標高1.5m)における1年「地理A」(必修2単位)および3年「選択地理」(選択2単位)の実践記録から紹介する.2.都立墨田工業高校における防災教育の実践例(1)授業開き:地下鉄の駅の差異「菊川駅/恵比寿駅」(1年4月) 授業開きは1年間の生徒の地理授業への「食いつき」を決める決定的な意味を持っていると考えている.ここでは興味を引きつつ,通年にわたって考えてほしいテーマを設定する.実践校では「0m地帯」をテーマとして,「地下鉄の駅から考える」(矢田ほか2002)(配当1時間)という実践を行った.スライドを用いながら,身近な景観の中に防災対策が隠されていることに気づかせ,地形断面図と重ねることにより分布の意味を考察するという地理的見方・考え方の重要性を理解させた.(2)地域調査:「0m地帯を歩く」(1年7月) 7月の補習期間に1年生全員対象の0m地帯の見学(配当4時間)をクラスごとに5日に分けて実施した(日原2004).実際の景観で実感的に0m地帯を理解させることで防災意識を高めることができた.(3)シミュレーション学習:「開発による洪水流出の変化」(1年9月) 日原(1996)が開発したシミュレーション教材「開発による洪水流出の変化」は,タンク・モデルによる洪水流出解析をPC利用によって生徒が作成することを通じて,多摩ニュータウン開発による乞田川の流出の変化を実感的に理解することができる(配当2時間).上流地域が開発により排水性の高い流域へ改変されると,下流地域への洪水集中が起こりやすくなる.洪水は流域の問題であることを理解させた.(4)洪水/水害,地震/震災の差異を理解させる授業(1年9月) 義務教育段階での防災意識は「地震だ⇒火を消せ」に代表される規範的なものであるが,後期中等教育以降では災害の構造を客観的に見る目を育てたい.そのためには自然災害の連鎖構造を理解させることが重要であると考えている(日原1993,1999).自然災害の連鎖構造は「_I_誘因⇒_II_自然素因⇒_III_加害力の作用⇒_IV_社会素因⇒_V_被害の発生⇒_VI_社会素因⇒_VII_災害の波及」という図式で捉えられる(水谷 1985)._V_や_VII_に至らないように,この矢印をどこかで断ち切ることが「防災」であることを理解させるために,9月最初の授業に「防災の日」にちなんだ特設的な「地震を考える」(配当2時間)を設定した.連鎖構造を理解させるためには,地震の場合,地形の階層的理解が不可欠である.「学校周辺の地形は○○である」=暗記の地理に慣れてきた生徒は単一の答えを信じている.しかし,現実には,大地形=変動帯,中地形=関東平野,小地形=沖積面,微地形=埋め立て造成地と,地形環境はMulti-scaleに構成されている._I_誘因は大地形・中地形の問題であり,_II_自然素因には小地形・微地形が効いてくる.この実践からは,まず,科学的に安全な地盤地域への居住(転居)という「防災」が浮上する.しかし,経済的に自立しえない高校生段階では,非現実的であると共に,ややもすると厭世的になりかねない.そこで,社会素因を考えさせる.義務教育時代に断片的な知識として覚えてきた震動時の行動,身の回りの家具の固定,防災グッズの準備等は_IV_にあたる.さらに,重要なのは_VI_であり,ここでは「助け合える,協調的な地域社会の構築」がひとつの鍵になり,その実現は高校生も日常生活を通じて十分担っていける.(5)文化祭でのビデオ「江東区の0m地帯」制作・発表(3年4-10月) 1年必修「地理A」の知識を発展させて,3年選択「地理」では10月の文化祭に参加するビデオ作品「江東区の0m地帯」の制作を行わせた(日原1998).生徒が脚本を作成し,景観を撮影して編集する.脚本確定に至る討論が防災教育として大きな意義を有していた.完成作品は文化祭で上映するとともに,近隣の小学校への配布を行った.3.防災教育の課題 これまでの実践から,学校教育における防災教育の課題として以下の点を指摘する. 1 地理に関する学習指導要領において「防災教育」が正当に位置づけられることが不可欠である. 2 生活地域と学区域がほぼ一致する義務教育段階と異なり,学校周辺と自宅周辺の自然環境が異なる場合が多い高校以上においては,現象の扱いに配慮が必要である. 3 2も含めて,発達段階を考慮した小中高一貫防災教育カリキュラムの構築が重要である.
  • 山川 修治
    p. 16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに近年,集中豪雨の頻度が高まってきていると指摘される。集中豪雨の地域性に何か変化はないだろうか。2004年はまさに大水害の年であったが,その背景には何があるのだろうか。梅雨季から盛夏季にかけての梅雨前線・秋雨前線とそれに伴う暖湿気流の振る舞い,および史上最多の10個上陸の記録をつくった台風を中心に据えて,近年の類似年を検討しつつ特徴を述べる。2.集中豪雨の地域性をもたらした要因近年とくに日本海側地域における集中豪雨が増加しているが,それはなぜだろうか。端的にいって,日本海側に前線が停滞しやすくなっている(山川, 2002)。従来,日本海に停滞前線が現われるのは,梅雨末期,つまり梅雨明けを控えた1週間ほどであった。しかし,ここ10数年においては,梅雨季の後半に入って間もなく,日本海から北日本を通る停滞前線が出現しやすくなっている。その傾向は8月にも認められる。その成因として,1)北太平洋高気圧の梅雨季における早い北偏と,2)同高気圧の盛夏季における南への後退があげられる。2)の原因としては,3)オホーツク海高気圧の出現頻度が高い年の発現,4)寒冷渦の出現頻度増加(8月)が挙げられる。3)関連で5年周期変動も指摘されている(Kanno, 2004)。さらに3)の原因としては,地球温暖化のため東シベリアの気温の上昇が顕著だが,周辺海洋ではそれほど変化がなく,そのため,極東域で南東季節風が強化,高気圧性の循環が卓越し,オホーツク海高気圧の発達を促進していることが推察される。暖湿気流(湿舌)にも特色がみられる。2004年7月13日の新潟・福島豪雨,同月18日の福井豪雨の両事例とも,豪雨地域に進入する線状の積乱雲(Cb-line)が非常に鮮明だった。そのCb-lineに沿って顕著な暖湿気団(相当温位:約345K)が流入した。その水蒸気源は,一部はインド洋(ベンガル湾)から入り,また一部は南シナ海,東シナ海,および黒潮大蛇行へ移行中の西太平洋からも合流した。加えて,日本海でも海面水温(SST)が高く,水蒸気を供給した。下層ジェット(WSW20m/s強)が吹くとともに,それに直角方向の対流現象も生じ,日本海からの蒸発を促したと推測される。3.猛烈台風の襲来の要因2004年における台風の総発生数は29個と,平年より2つ多いだけだが,発達したものが多かった。猛烈に発達した台風の頻発は,日本南方,西太平洋における200hPa(圏界面付近)の明瞭な気温低下,および,高いSSTの相互作用の結果とみなすことができる。さらに,熱帯太平洋中部の高SSTが熱帯収束帯(ITCZ)を活発化させたこと,北太平洋高気圧の張りの西縁部がまさに日本列島付近にあり,その縁辺流が南方の台風を日本列島へ向かわせた。太陽活動と有意な正相関の認められる海域が日本付近に多いが,高SSTは2000-01年極大期の余波とみなすことができよう。放射平衡の結果として現われる圏界面付近の低温化は,今後もトレンドとして進行する可能性が高く,猛烈台風形成要因として見逃せない。台風0423号は特筆に値する。超大型で強風圏は半径650kmに達した後,日本列島を襲った。台風が土佐清水に上陸後,中京地区を東北東進中,中心から100-200km北側の北陸方面(いわゆる「可航半円」内)で激しい暴風雨被害が発生した。その原因として,1)台風上空の12.1-12.5km(200hPa)に強風圏にほぼ対応する暖域があり,Cbスパイラルバンドの雲頂高度もほぼ同高度に及んでいたとみられ,奥羽山脈を東から西へ横断してもCbはあまり衰えなかったこと,2)大陸からー61℃(200hPa;上記暖域核との気温差18℃)の寒気団の南下もあり,気圧および気温の勾配が急激な状態となったことが挙げられる。豊岡・舞鶴などにおける洪水のため,台風に伴う人的被害としては台風8210号(8月2日,梅雨前線が残るなか渥美半島に上陸;死者行方不明:95名)に匹敵する惨事となった。2004年との共通点としては,1)1982年も「長崎豪雨」などの集中豪雨が相次いだ後での追い討ち豪雨による土砂災害だった。2)ともに成層圏QBOは典型的な東風フェイズで,熱帯対流圏の鉛直シアは小さく,東へ張り出すチベット高気圧の東縁部に沿って台風が北上しやすかった。3)ともに黒潮大蛇行年。4)ともに太陽活動はピークの3-4年後の衰退期にあたり,ユーラシア大陸上の寒冷渦が強化された(同期特有の現象)。相違点としては,1982年はエルニーニョ年であるのに対し,2004年は上記のようなSST分布であったが,ともに日本への湿舌は極めて強いという結果となった。4.まとめ2004年は複合的な要因が重なり,前線活動と台風による豪雨災害が頻発した。それには,高いSSTの影響が大きいが,QBO東風フェイズ,太陽活動(SSTおよび寒冷渦へ作用)も影響したほか,地球温暖化の直接・間接的に関与していると考えられる。
  • 藤本 潔, 川瀬 久美子, 大平 明夫, 石塚 成宏, 志知 幸治, 安達 寛
    p. 17
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに
    沖積低地は後氷期の急激な海面上昇時に形成された内湾を徐々に埋積することによって形成された堆積地形である。本研究では、矢作川下流低地を事例として完新世の地形発達に伴い貯留された土砂量および炭素量を、各層序毎に絶対量(質量)として明らかにすることを目的とする。
    沖積平野の埋積土砂量については、これまで「体積」として議論されることはあったものの、「質量」として捕らえられることはなかった。沖積層は、砂層、粘土層、泥炭層など多様な地層から構成される上、孔隙や間隙水を含んでおり、蓄積土砂量を各層序毎に定量的に比較するためには、これらを除いた質量として把握する必要がある。そのためには、不攪乱コアを深深度まで採取し、各層序の体積と共に、その容積重も明らかにしなければならない。各層序の体積は、ボーリング資料等で推定された各層序分布状況に基き、GIS3D解析ソフトを用いて推定する。
    沖積低地は氷期・間氷期サイクルの中でみると、後氷期における一時的な物質蓄積の場として機能しており、地球規模の物質循環の中で何らかの重要な役割を担っているものと考えられる。しかし、沖積平野研究は、未だに地形発達史研究に留まっており、地球規模での物質循環の中での役割についての評価は何らなされていない。沖積平野の地形発達過程を地球環境変動に伴う受動的な変化として捕らえるばかりでなく、その過程で発揮されてきた炭素蓄積機能を評価することにより、地球環境変動に対して能動的に影響を与える環境要素として再評価することが可能となる。なお、本研究は平成13_から_15年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(1)、課題番号:13308004、研究代表者:藤本 潔)によって実施した。
    研究方法
    1)既存ボーリング資料を収集する。
    2)地表面高度、上部砂層上限高度、中部粘土層上限高度、中部粘土層下限高度、および下部砂層下限高度のデータベースをExcel上に作成する。
    3)ArcView 3D Analystを用い、地表面および各層序境界のグリッドサーフェスモデルを作成し、切り盛り解析によって各層序の体積計算を行う。
    4)2本の30m不撹乱コアから得られた各層序の容積重および炭素含有率を用い、各層序中の蓄積土砂量および蓄積炭素量を質量として算出する。
    結果
    計算対象面積92.1km2における各層序の体積は、後背湿地堆積物からなる最上部層が1.96×1083、上部砂層が7.16×1083、中部粘土層が6.73×1083、下部砂層が4.69×1083で、全土砂体積に占める割合は、それぞれ9.5%、34.9%、32.8%、22.9%であるのに対し、質量から見た堆積土砂量は、それぞれ9.2%、38.9%、25.8%、26.1%と、細粒堆積物からなる最上部層および中部粘土層で体積比より小さく、上部砂層および下部砂層で大きくなる。
    蓄積炭素量は、それぞれ21.1%、5.7%、54.7%、18.5%で、体積比と比較すると、最上部層および中部粘土層で大きく、上部砂層および下部砂層で小さくなる。計算対象範囲内の蓄積炭素量は2.60×107tと見積もられた。これは人間活動による年間化石炭素放出量(5.7×109t)の約0.5%に達する。このことから、地球上の全沖積平野の堆積物中には、地球環境に何らかの影響を与えるに十分な量の炭素が閉じ込められている可能性が指摘できる。
  • 多田 統一
    p. 18
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
     都定通研の活動を通して地理教育の問題点と今後の展望について報告する。1 基礎知識・基礎学力の充実 ・地図作業を通した地名学習の重要性 ・国語科(地名)、数学科(地図)との連携2 身近な地域学習 ・生きた教材の開発 ・学校行事(遠足、修学旅行)との連携3 学習指導の方法 ・プリント学習、作業学習、発表学習4 評価・評定 ・定期考査、提出物、学習態度、出席率 ・生徒による授業評価、生徒個人カルテの導入 ・授業観察、外部評価5 今後の展望 ・教育改革(三部制、定通併修、三修制)への対応 ・総合学習やボランテアとの連携 ・コミュニケーション能力の育成 ・教育実習生の受け入れ、初任者研修 ・校内研修、研究会活動 
  • 山下 亜紀郎
    p. 19
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     本発表の目的は、流域規模での河川水利の定量的・空間的特性や、地形・土地利用・人口などの地域条件が対照的である、那珂川流域と鬼怒・小貝川流域における農業水利事情の相違性を、事例研究を通じて明らかにすることである。事例としたのは、那珂川流域の西の原地区と、鬼怒・小貝川流域の鬼怒川南部地区であり、両地区の農業水利体系の現状とその時系列的な変遷について、現地での資料収集や聞取り調査に基づいて分析した。
    2.両流域における河川水利の定量的・空間的特性
     まず、水利権のデータに基づき、両流域における流域規模での河川水利の定量的・空間的特性について考察した。
     その結果、両流域を比較すると、水利権の件数ではほとんど差はないが、総取水量は、鬼怒・小貝川流域が那珂川流域の約3倍である。取水口の分布とそれらの取水量を個別にみると、那珂川流域では本流から取水される農業用水が多いものの、箒川、荒川、涸沼川をはじめとする支流域も農業用水源として重要な役割を果たしている。支流域の中で最も総取水量が多いのは箒川流域である。鬼怒・小貝川流域における農業用水は、本流から取水されるものの割合が高く、支流域としては大谷川や五行川などの限られた河川に取水口の分布が偏っている。鬼怒川本流にきわめて大規模な頭首工が3か所あり、小貝川本流には関東三大堰とよばれる取水施設がある。これら本流に設けられた大規模な取水施設が、当流域の広大な水田地帯へ農業用水を供給している。
     以上のことをまとめると、那珂川流域では、上・中流域で農業用の河川水利用が多いものの、本流への依存度は低く、支流河川が水源としてよく利用されている。鬼怒・小貝川流域では、中・下流域で農業用水利用が多く、本流への依存度はきわめて高い。
    3.西の原地区の農業水利体系
     那珂川中流域に位置する西の原地区は、那珂川支流の箒川を水源とする西の原用水の受益区域である。
     西の原地区の農業水利体系を大きく変化させたのが、1966年から1974年にかけて実施された栃木県営西の原用水改良事業であった。当事業以前は、西の原地区の北部は、箒川や権津川を水源とする小規模な用水によって灌漑されていた。一方、南部では、山地斜面からの湧水や降水に依存する天水灌漑やため池灌漑が主流であり、水利事情は非常に不安定であった。
     栃木県営西の原用水改良事業は、老朽化が甚だしかった北部の旧用水路の改良と、南部の農業水利事情の改善を目的として行われた。箒川に新たに西の原頭首工が建設され、用水路は南部にまで延伸された。これによって南部の水利事情は飛躍的に改善された。
    4.鬼怒川南部地区の農業水利体系
     鬼怒川南部地区は、鬼怒川で実施された三大国営農業水利事業の受益区域のうち、最も下流に位置する。
     鬼怒川南部地区農業水利事業は1965年に着工され、1975年に竣工した。当事業以前は、7つの土地改良区がそれぞれ自然流入による小規模な取水口を利用していたが、当事業によって農業水利体系は、勝瓜頭首工を頂点とする幹線用水路網に一元化された。しかしながら、当事業によって用水路網の末端に位置することになった江連用水土地改良区などでは、かえって取水ピーク時の用水不足が恒常化することになった。そのため、当土地改良区内には、水不足時に地下水や農業排水を汲み上げるための簡易揚水機場が数多く設置されており、それらへの依存度は、国営事業竣工後、現在に至るまで一貫して高くなっている。さらに、幹線用水路網の最末端に位置する水海道市中三坂地区では、用水路による河川灌漑を放棄し、地下水を水源とするパイプラインによる灌漑に完全に移行した事例もみられる。
    5.まとめ
     那珂川流域は、流域全体の水需要量に対して供給可能量に余裕があり、河川水利の本流への依存度が低く、支流域単位の水需給関係が成立している。西の原地区は、そのような水利条件に恵まれた流域に位置し、本流に依存することなしに十分な用水を確保し、新規に受益区域を拡大することができた。
     鬼怒・小貝川流域は、従来から農業水利が過密状態にあり、本流への依存度が非常に高かった。大規模国営事業は、農業用水を一括取水し、広大な受益区域へ合理的に配分することで、農業水利の安定化を図ったものであった。しかしながら、流域条件に恵まれず、流域全体の水需要量に対する供給可能量が逼迫している状況下で、当事業は、かえって末端の水利事情を悪化させる結果となった。
  • 須貝 俊彦
    p. 20
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
     2004年に相次いで日本列島を襲った前線性豪雨と台風は、山崩れ・土石流・洪水氾濫・高潮を連鎖発生させて、中小河川流域を中心に31道府県で227名の死者・不明者を出した。自然力による物質移動の連鎖系を人工構造物によって断ち切り、生活空間への物質流入を防止することの限界が露呈した。物質の移動域を予測し、域外へ住民が速やかに避難できる仕組みを構築することが急務である。他方、10個の台風上陸に象徴された昨年の「異常気象」は地球温暖化の影響という見方も出てきた。今後の研究を待たねばならないが、人間活動が地球規模で災害危険度を高めつつある可能性がある。21世紀の災害対策には、将来の自然力の変動と土地固有の自然特性を適切に評価し、合理性のある土地利用を実現しうる長期戦略が不可欠である。そのために、発達史地形学の視点を取り入れた全国を網羅する広義のハザードマップが果たすべき役割は大きい。 
  • 戸所  隆
    p. 21
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 地方都市ではモータリゼーションによって社会構造・土地利用構造その他が大きく変化し、車社会を念頭に置いた災害時の避難行動や復旧・復興計画が不可欠になっている。中越地域はかかる視点から、地域構造の再編を行いつつ、復興する必要がある。分権化社会の構築と市町村合併による市域の拡大の中で、災害に強いまちづくりのあり方を「大都市化・分都市化の都市構造」の視点から論じたい。2.阪神淡路と中越の震災避難行動の違い 災害時の自家用車利用は、大都市では多くの場合、問題行為となる。しかし、人口密度の低い新潟県中越地震の被災地域では、自力避難時にも避難後の生活にも、自家用車が多く使用された。自家用車の使用頻度は、阪神淡路大震災と比較して非常に多く、その功罪が問われる。 阪神淡路大震災では、体育館などにおける避難者密度が中越よりも高く、避難者同士のトラブルも多く見られた。神戸市役所や芦屋市役所など公的機関の執務室まで被災者で埋まり、職員はその中での業務を強いられた。屋内生活のできない人々は、有り合わせの資材で公園などに自力でテント小屋を造り生活した。しかし、中越ではそうした人は少なく、多くが自家用車を避難場所として使用した。3.エコノミー・クラス症候群と自家用車利用の是非 避難場所での住民同士のトラブルは、阪神淡路大震災に比べ、今回は少なかったようである。地方都市・中山間地域ゆえ顔見知りの人々が多く、限界状況にあっても自制心が働くためであろう。また、自宅で寝泊まりできなくとも、外に停めた自家用車内で寝泊まりすれば、自宅の財産の保全や整理もしやすい。そのことが、混雑しプライバシーの保たれない体育館などを避け、密室となる自家用車生活を選択したと思われる。 しかし、そうした車内生活者の中から、エコノミー・クラス症候群など、地震を直接の原因としない死亡者が多く発生した。自家用車の有無やマンション暮らしのような高密度な生活に慣れている大都市住民と慣れていない中山間地域住民では、その避難行動に大きな違いが生じる。それに対応した避難所の設定が必要となる。特に中山間地域での自動車による避難の是非とそのあり方は、今後の検討課題である。 なお、1964年の新潟地震の際比べ、阪神淡路・中越とも地震発生当初の交通規制が弱かったように感じられる。一般車輌の通行規制のあり方も大きな課題である。4.災害に強い大都市化・分都市化型まちづくり 今回の震災では、民家ばかりでなく避難場所となる体育館などの公的施設の損傷が大きかった。豪雪地帯の雪に耐える堅固な建物も、横揺れに弱ければ損壊した。災害から身を守るには、災害危険地域での建築を避け、建物強度を高め、危機管理意識を持つことが求められる。 日本列島はどこでも様々な災害と背中合わせにあることを再認識し、避難所となる公的施設の更なる耐震性強化が必要であろう。 市町村合併による市域の拡大は、同一自治体でも地域的に同時被災しない可能性がでてくる。少子高齢化社会では安全で利便性の高いまちづくりを少ない財政負担で行わねばならない。それには安全で基盤整備の良い地域に、顔の見えるコンパクトな市街地(分都市化)を形成し、分都市間を公共交通でネットワークすることで大都市的力量を発揮させる都市構造へと転換することが有効である。しかし、車社会で土地利用規制が弱ければ、市街化は危険地域を含めて無秩序に拡大する。それには土地利用・都市計画・環境における規制強化が不可欠となる。5.首都機能移転で災害対応力の強い分権型国土構造を 地域社会の大都市・分都市型構造への転換と同様に、水平ネットワーク型国土構造に転換し、分権社会の構築が緊要の課題である。もはや東京の壊滅的打撃と日本の安全の確保には、首都機能移転以外有効な方法はないであろう。
  • 山縣 耕太郎, 鈴木 郁夫, 志村 喬
    p. 22
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに大規模な災害は,それぞれが独自の様相を呈するが,今回の新潟県中越地震(新潟県中越大震災)においても,あらたな災害の特徴が表出した.こうした災害の特徴は,中越地域の地域特性と強く結びついていると考えられる.ここでいう地域特性は,地震現象を含む自然的特性と,人文・社会的特性に大別することができる.中越地域に存在する様々な自然的特性と人文・社会的特性が相互に作用して,新潟県中越地震災害を形作ったといえるであろう.本報告では,中越地域の地域特性と災害との関わりを整理することによって,今回の災害の概要を提示したい.自然的特性2004年10月23日午後5時56分に発生した新潟県中越地震は,震源の深さ13km,マグニチュード6.8,最大震度は川口町で震度7を記録した.その後も活発な余震活動が継続し,被災者に大きな精神的ストレスを与えた.直下型地震で強い揺れが生じたため,震源付近では,甚大な斜面災害,および建物や,構造物への被害が発生している.一方で,多雪地域の耐雪建築構造が幸いして,全体的に見ると家屋被害は比較的小さかった.今回,斜面災害が集中した山地は,新第三紀の堆積岩が,第四紀に急速に隆起して形成されたものである.不安定な地形と,軟弱な地質が素因となり,さらに同年夏の豪雨を含めた先行降雨や,切り土,盛り土などの人為的な工事が影響して斜面災害が多発したものと考えられる.また,この地域は日本有数の地すべり地域であり,今回の地震でも地すべりが多発し,多数の土砂ダム(天然ダム)が形成された.中越地域は多雪地域であるため,今後も積雪による家屋の倒壊や,融雪による土砂災害の発生が懸念されている.人文・社会的特性被災地域の大部分は,いわゆる「中山間地」であるとともに豪雪地帯に指定され,人文・社会的には不利な条件を有した地域といえる.農村コミュニティの機能が維持されつつも人口減少・高齢化が進んでいる地域社会の実態と,自然的基盤に大きく依存した農業中心の産業実態を,人文・社会的特性としてあげることができる.全村避難となった山古志村の場合,人口は,2000年までの10年間で22.5%減少し,65歳以上人口(2000年)は34.6_%_(全国:17.3_%_;新潟県:21.3%),第一次産業の就業者率は28.7_%_(全国:5.0_%_,新潟県:7.3%)となっている.今回の地震による犠牲者40名のうち55_%_の22名が高齢者であった.これらの人文・社会的特性は,地震直後のコミュニティ内での救助活動や避難方法などで有効に機能した場面が見られた.しかし,今後の復興局面では,高齢者の自立や産業基盤である農地の復旧などに大きな課題を提起している.また,中越地域は,上越新幹線・関越自動車道が通る広域的交通の要であるとともに,全国的な工業生産システムに組み込まれた地域でもあった.このため,より広域的なスケールでの影響も表れている.こうした人文・社会的特性は,中越地域の地理的な位置,自然条件と強く結びついている.したがって,災害の全体像を把握するためには,自然,人文の両面を俯瞰する地理的な視点が不可欠である.災害はまだ終わっていない.中山間地で高齢者人口率の高い被災地域では,災害の影響が長く継続する可能性が高い.復興の行程もまだ始まったばかりである.今後も地理的な立場からのアプローチが必要とされるであろう.今回の地震は,インターネットや,高機能な携帯電話が一般化した高度情報化社会での出来事であった.その中で地図を中心とした地理情報の伝達性も大幅に向上し,様々な場面で活用された.一方で,面的な情報が適切に伝達されなかったために風評被害が問題化するなど,災害時に地理情報を適切に発信,活用していく上での課題も明らかになった.
  • Sato Naoki, Takahashi Masaaki
    p. 23
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    Relation between the formation of the Marcus convergence zone and upper cold lows
  • 村中 亮夫
    p. 24
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    I.はじめに
     環境を適切に管理・保全するために,環境問題を扱う各学問領域の研究成果に基づいた,様々な提言がなされている.地理学においても気候変動や砂漠化,生態系や居住アメニティの破壊,健康リスクの増加など,多様な主題に関心が向けられてきた.そこでは,環境変化のメカニズムの解明や環境破壊の実態把握,環境政策の評価・立案,などに資する取り組みがなされている.これらの取り組みは,各研究の目的に応じて,【ステップ1】:問題の現状把握・メカニズムの解明・対応策の検討,【ステップ2】:対応策の立案と評価・事後評価,【ステップ3】:政策の策定・決定・実施,のように,環境問題に対する各政策段階に対応している.
     これまで地理学においては,対策検討資料を提示する観点から,主に環境問題の現状やメカニズムの分析が推進されてきた.しかし,問題対策の立案や評価を通じて,政策決定に直接関わる視点に乏しかった.この問題に対して,社会科学的分析を通じた,環境計画の立案や評価の必要性も指摘されるようになった.特にHanink(1995)は,環境保全により生まれる便益評価の,空間分析的視点の重要性を指摘した.本報告では環境管理の立案や評価を意図した便益評価研究について,空間分析的研究を紹介・整理し,研究の到達点と今後の課題を提示することを目的とする.
    II.便益の空間的特徴と問題点
     環境を保全することにより生まれる便益は,環境を保全しない状態に比べ,環境を保全した状態に対して個人が感じる満足感を貨幣単位で計測することにより得られる.この個人の値は受益者全体で集計されることで,社会全体の便益とみなされる.この社会的便益は,環境を保全することに対して,社会全体で最大限支払っても良いと思う金額(支払意思額:WTP)で表現できる.
     このようにWTPによって定義される便益は,保全対象となる環境資源の立地地点と,受益者の居住地との空間的関係性によって変動する可能性がある.この問題について,Hanink(1995)は環境資源保全に対するWTPの,距離減衰効果に関する一般モデルを提示した.これは,ピンチ(1990)が指摘した,公共サービスの距離減衰効果に対応する.
     環境保全の便益は環境保全の費用と対比され(費用便益分析),環境保全の妥当性が検討されるが,便益が距離減衰効果を受けるなど空間的に変動することによって,環境保全によって高い純便益を生み出す地域と低い純便益しか生み出さない地域が生まれる.これは,一般的に環境保全にかかる費用は中央・地方政府の財源によって賄われており,その財源は基本的に同一行政区域内で空間的に変動しない同一課税基準に依存していると考えられるためである.環境保全により生まれる純便益の,地域格差の問題が生まれる可能性を示唆できる.
    III.便益評価の空間分析
     環境保全の便益計測手法は,いくつかの手法が開発されている.大別すると,顕示選好法と表明選考法とに区分できる.前者は信頼性が高いとされるが,評価対象や内容が制限される.一方で,後者は信頼性に疑問が残るものの,評価対象や内容が制限されない.顕示選好法ではヘドニック法や旅行費用法,表明選好法では仮想市場評価法やコンジョイント分析が一般に知られている.
     これらの手法を用いて環境保全の便益を空間分析的に計測するには,いくつかの手法が考えられる.ひとつに,各評価手法における評価関数に,独立変数として環境資源からの距離変数や地域ダミー変数を投入する手法がある.この手法からは,距離減衰関数の形状や減衰効果の度合い,地域効果の有無を計測することが可能である.他方で,計測された環境資源の便益を地図化する手法がある.この手法では,環境資源の分布状況や受益範囲を視覚化することで,便益の空間的特徴を理解することが可能である.
     ここで得られた評価関数や評価結果は,環境問題に対する各政策段階において,環境保全により生まれる,(1)便益の空間的問題点を明らかにすること,(2)便益評価の迅速性や精度を高めることに寄与する.今後は様々な空間分析モデルの適用を試み評価精度を高めると同時に,評価の精度・迅速性を高めるために評価結果の空間データ整備を推進していく必要があると考えられる.
  • 田上 善夫
    p. 25
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    _I_.はじめに 地方霊場には,特定の寺院,神社,霊山などとの結びつきがみられる。中でも寺院宗派は地方霊場開創とかかわりが深い。霊地にゆかりの観音や不動は真言系をはじめ天台系や禅系の寺院で祀られ,八十八ヶ所では弘法大師の旧蹟が巡られ,全国各地の霊場札所は真言系寺院が過半を占めて禅系また天台系が続いている。もともと諸神仏の鎮まる霊地に,それを祀る社寺が置かれ,地方霊場が開創され,それを人々が巡っており,地方霊場は地域の自然や文化の基盤の上にあるといえる。さらに,近世の都市整備過程での寺地・寺町の形成は,宗派寺院の移動により,都市部の霊場を開創・変容させている。地方霊場にかかわる要因は多様であるが,ここでは主に寺院宗派の分布について,その霊場とのかかわりの検討を試みる。_II_.寺院の調査 これまでにもおよそ都道府県単位での天台,真言,浄土,禅,日蓮系などの分布が明らかにされている。中央日本には全国で約200ある宗派の本山/事務所の8割があり,とくに京都と東京を中心にして,宗派は多様な分布をしている。そのため中央日本の個別の寺院について,その位置を示す。また宗派は創始された後に流派に分かれて変遷し,さらに宗派ごとに異なる地域に分布するものも多い。ここでは大戦後の分派の状況にもとづいて,宗派を63にまとめて分布を把握する。各寺院,その宗派,所在地は『全国寺院大鑑』(法蔵館,1991)による。_III_.寺院宗派の分布 地方霊場とかかわりの深い真言系では,高野山真言宗がとくに西日本に多く,豊山派は関東の利根川流域を中心にし,智山派が関東平野内部と房総南部・東部に分布する(図)。天台系は,天台宗が愛知以西と関東に,天台真盛宗が福井・滋賀・三重に分布する。禅系は,臨済宗妙心寺派が広域に分布し,岐阜に中心がある。建長寺派などは関東,東福寺派などは近畿を中心にする。曹洞宗はこの地域ではとくに太平洋側に多い。浄土系は,浄土宗が京阪奈を中心に多く,関東にも分布する。西山派は三河以西である。一方で,地方霊場とほとんどかかわりをもたない真宗では,北陸あるいは愛知から西に多く分布するが,本願寺派は大阪,大谷派は名古屋に中心がある。また,高田派は三重に,木辺派は滋賀に中心がある。日蓮系は,日蓮宗が房総と東海道と山梨に多く,法華宗とともに都市部に多い。奈良仏教系は,奈良周辺に分布する。_IV_.地方霊場と寺院宗派のかかわり およそ地方霊場は真言系,天台系,禅系の多い地域にみられる一方,浄土系でも真宗,また日蓮系の多い地域では少ない。この特定宗派の多少とは,他宗派との相対的な割合そのものではなく,地方霊場とかかわる宗派があれば,地方霊場は分布している。もとより地方霊場開創に関して寺院宗派分布は要因の一つであり,また寺院宗派分布自体が自然的基盤の上にある。さらに個々の地方霊場は異なる宗派から構成されており,寺院さらに宗派とはやや異質なものである。これらは,地方霊場の開創はさらに地域の複合的性格によることを示している。
  • 竹内 裕希子
    p. 26
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに ハザードマップは住民が防災情報を得ることを手助けする方法として有効である。住民がハザードマップを使用して防災行動を行うためには、まず、ハザードマップの存在を認知する必要があり、さらにハザードマップに記載されている情報を十分に理解し、防災行動へつなげることが必要である。ハザードマップに記載されている情報には浸水予測図以外に、避難場所や避難のタイミングなどを説明した「避難活用情報」と災害のメカニズムや過去の災害などを説明した「災害学習情報」が盛り込まれている。水害が発生する過程では、地形条件や土地利用条件の素因と降雨条件の誘因を理解する必要がある。ハザードマップは地形条件や土地利用条件などの素因を十分に反映しているが、誘因となる降雨条件に関しては仮定条件を多く含んでいる。降雨条件の降雨規模や頻度、破堤箇所などの不確実性を理解することが、ハザードマップの記載情報を正しく理解する上で重要である。水害ハザードマップの認知と活用状況、理解の程度に関して2000年東海豪雨災害被災地域でアンケート調査を行ったので報告する。2.調査地域概要および方法 名古屋市並び西枇杷島町では2000年9月11日に甚大な水害が発生し、災害後、ハザードマップを作成し2002年に住民へ配布した。この水害ハザードマップに記載されている想定浸水区域の居住者3000世帯を対象にアンケート調査を行った。対象地区:名古屋市西部(北区,西区,中村区,中川区)西枇杷島町調査対象:一人以上の普通世帯の世帯員調査世帯数と内訳:3000世帯(各区町600世帯ずつ)抽出方法:洪水ハザードマップ浸水危険区域内の住民基本台帳からの2段無作為抽出法調査方法:郵送による配布・回収調査期間:平成16年3月_から_4月回収率:28%(N=840)項目:属性に関する7項目、ハザードマップに関する9項目、確率に関する2項目3.結果・考察 名古屋市の場合、ハザードマップの認知は回答者の43%であった。43%のうちハザードマップを所有していたのは、65%であった。これは全体の18%である。西枇杷島町の場合、ハザードマップの認知は回答者の73%であった。73%のうちハザードマップを所有していたのは、88%であり、全体の54%であった。ハザードマップの注目箇所は、名古屋市の場合、ハザードマップを所有していると回答した117人中83名が浸水予測図と回答したのに対し、ハザードマップの作成背景や使用の際の注意点などに注目した人は41人であった。西枇杷島町でも同様の傾向がみられ、浸水予測図に注目したのは112人中86人であったのに対し、作成背景などは45人であった。 浸水予測図の理解に欠かせない確率に関して、200年に1回の確率降雨が今後30年間に発生する確率(正解は14%)と50年間に発生する確率(正解は22%)の2つの質問では、名古屋市の場合、今後30年間の発生確率の正解者は10%で、50年間の発生確率の正解者は13%であった。西枇杷島町の場合は、今後30年間の発生確率の正解者は5%で、50年間の発生確率の正解者は15%であった。 ハザードマップの認知は、名古屋市で43%、西枇杷島町で73%と違いがみられた。これは、市町規模の違いが反映されたと考えられる。所有は名古屋市で全体の18%、西枇杷島町で全体の54%であり、全住民に配布されたハザードマップでありながら、所有率の低さが伺えた。これらの原因は、市の広報誌として配布されたため、防災に関連した重要な地図であるという認識を持たれなかったことが考えられる。このことから、ハザードマップの配布方法を再検討することが必要であると考えられる。 ハザードマップには多くの情報が記載されているが、その注目箇所は浸水予測図に集中していた。ハザードマップを配布するだけではなく、住民に解説することが必要であると考えられる。また、住民の多くが注目をした浸水実績図の理解に欠かせない確率に関する理解は、十分でないことがわかった。このことから、最も注目している浸水実績図でさえも理解がされていないことが伺えた。4.まとめ 水害ハザードマップは、現在の水害リスクを軽減させるだけでなく、長い視点でみれば、居住地の選択やゾーニングにも利用されるべきである。そのためには、ハザードマップの作成・配布だけでなく、ハザードマップを読み解かせる場を設け、十分に記載情報を理解することが重要である。これらの視点に立ったワークショップの開催などで、ハザードマップの理解を支援していく必要がある。
  • 斎藤 丈士
    p. 27
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    農業基本法に代表される戦後日本の農業構造政策の展開により,各農業部門で経営の大規模化が進行していった。他部門と異なり大規模化が進んでいないといわれている稲作部門ではあったが,農用地利用増進法(現:農業経営基盤強化促進法)が施行された1980年以降,全国的傾向として賃借権の設定による農地流動が推進されてきた。農地改革以降50数年を経て,各農家の経営耕地がどういう属性を持つ農家に集積していったのか,特に1980年代以降の農地流動化の推進により,農家間の格差が拡大していく中で,現在も専業的に経営を行っている農業者の特性とはいかなるものなのか。今後米政策改革が推進される過程で,いわゆる「中核的担い手」への経営集積を図る動きがみられることから,現在に至るまでの大規模農家の規模拡大プロセスと農家の特性を検討することは,今後のわが国の稲作農業の方向性を考える上で重要な研究視点のひとつであるといえる。本研究では,わが国を代表する稲作農業地帯である山形県の庄内地方における大規模稲作経営農家の形成過程に関して,庄内農業の中心地として発展してきた藤島町を事例に,1980年代以降に同町で進んだ農家の規模拡大プロセスを検討する。 併せて,同時期に形成された大規模農家の経営者が有する特性についても検討する。調査地区は,複数の大規模農家を抱え町内でも農業が盛んである東渡前・西渡前の両地区とした。

    2.研究対象地域・山形県藤島町の概況
    藤島町は,庄内平野の中央部に位置する平地農業地帯で,2002年の水稲収穫量は,16,800t(県内6位)である。同町内には広域農協の本所(JA庄内たがわ),庄内地方唯一の農業高校である県立庄内農業高等学校,山形県の現在の水稲主力品種である「はえぬき」を開発した県農業試験場庄内支場,庄内農業普及改良センター,JA全農庄内の米倉庫群があり,「庄内農業の中心地」として発展してきた。現在の町の農業施策は,エコタウンプロジェクトと構造政策の2本立てとなっている。2002年に「人と環境にやさしいまちづくり条例」を制定し,エコタウンプロジェクトを立ち上げた。さらに2004年4月からは町単独の「藤島町農産物認証事業(有機)」を開始した。これと併せて,町では認定農業者(現在256人)への農地集積を進めていて,米政策改革に対応するために地区ごとに地域営農改善計画(集落ビジョン)の策定を行い,農家の経営基盤の強化を図っている。

    3. 東渡前・西渡前地区の農業経営の現況
     東渡前・西渡前地区の農家の多くは旧小作層に属しており,戦後の農地改革による払い下げの際に多数の自作農が形成された。同地区では田植機が導入される1960年代前半頃まで,集団作業によって農作業に従事してきたが,農業機械の導入が進む過程で,個人所有による機械化一貫体系が成立した。農用地利用増進法が施行された1980年以降,全町での傾向と同様に農地流動化を進めてきた。1970年代に3haから4haに位置していた現在の上位層は,地区内外の農地を取得もしくは賃借権の設定によって,経営規模を拡大していった。この過程で水田面積を大幅に拡大した農家(水田面積10ha以上)は,東渡前地区で4戸(農家数21戸),西渡前地区で1戸(同18戸)あり,現在稲作を主体として専業的に農業を行っている層がこれに該当する。こうした層では,「はえぬき」より高い収益が見込めるものの,適地ではないため栽培が難しいとされる「コシヒカリ」の栽培や,有機米の生産,省力化目的での直播栽培導入,卸への直接販売やネット直販といった経営を取り入れている。このほか,野菜(ねぎ・トマト)や花卉(菊・啓翁桜)の栽培が経営の中心となっている農家もあり,経営規模に応じた農業経営が展開されている。

    4.大規模稲作農家の規模拡大プロセスと経営者の特性
    水田面積10ha以上の大規模経営層における本分家関係をみると,本家にあたる農家もあれば,経営者の先代で分家し本家を上回る経営規模になった農家もあり,現経営者の世代が1970年代後半に経営を継承した後,階層分化が進行したとみられる。このほか,経営者に共通する点として,庄内農業高校の卒業生であることが認められる。町内の認定農業者の半数以上が同校卒業生であり,農業高校への進学は営農に対して少なからぬ意味を持つと考えられる。農家によっては,経営者(同校OB)の子弟も同校に通う場合もみられた。 経営者に対する社会的な評価をみた場合,地域の農業マスコミが主催する良質米競技会にて複数回優勝した経営者や,全国規模の食味分析鑑定コンクールでの受賞暦がある経営者もあり,その技術水準は高いとみられる。 本発表では,経営者個人への聞き取り調査の結果を基に,所属する組織や団体との関係,経営の課題について報告する。
  • 中條 曉仁
    p. 28
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
     中山間地域では高齢化が顕著に進行しており,高齢化率30%を超える地域も多数出現している。地域住民にとって高齢化に伴う福祉・介護問題は,身近で深刻な課題となっている。中山間地域における高齢社会化の流れは,今後の日本全体における高齢化に先行するものといえる。 農山村の高齢者に対するサポート資源については,これまで世帯におけるサポートの提供を前提としたステレオタイプ的な議論がなされてきた。すなわち,農山村では高齢者を含む多世代同居比率が高く,しかも相互扶助が依然として強固に維持されているため,高齢者福祉サービス(フォーマルなサポート)を利用するよりも,家族によるインフォーマルなサポートのほうが現実的であるというものである。しかし,近年の中山間地域では世帯規模の縮小に伴う高齢世帯の増加と,世帯において介護を担う女性の農外就労によって,同居家族によるサポートの提供が困難な状況にあると考えられる。さらに世帯におけるサポートの提供は,サポート資源である家族員の生活にも影響を与えると思われる。例えば,中山間地域における農業の存続に関して,農業は基本的に世帯内で完結されるため,老親に介護の必要が生じる際には世帯内に緊張が生じ,それまでの経営形態に調整が求められるようになる。また,女性世帯員への介護負担の偏りが,彼女たちの就労にも影響を及ぼしかねない。今後の高齢化の進展によっては,より顕著な形でそれらに対する影響が現れるものと推測される。このように,高齢者のみならず介護の担い手がかかえる問題にも目を配りながら,サポートニーズを考察する必要があるだろう。本報告では,家族介護力の弱体化という問題に言及しながら,サポート資源(サポートの提供主体)の有効性について検討したい。具体的には,1.将来的にサポートが必要になった場合,高齢者がどのようなサポート資源を求めるのかについて,高齢者のニーズを測定する。2.高齢者を取り巻く地域社会や世帯の構造面での変質が,高齢者のサポートニーズに対してどのような影響を及ぼしているのかを検討したい。
  • 弘中 秀治
    p. 29
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1. T9918号高潮災害とNPO法人防災ネットワークうべの設立 平成11年(1999年)台風18号は、高潮により宇部市に重軽傷者11人、家屋全壊13棟、半壊567棟、床上浸水249棟という大きな被害をもたらしました。道路では多くの街路樹が倒れ、海岸の護岸が破壊され、山口宇部空港や山口大学医学部附属病院が水没したのをはじめ、多くの家や車が浸水しました。それと同時に、電話が輻輳し停電が続く混乱の中で、住民の様々な通報が行政機関に殺到し、行政の対応能力を完全に超えていました。この時に、住民による相互の助け合いや自主的なボランティア活動が行われたことは、高く評価されています。しかし、住民の防災意識は必ずしも高くなく、その支援活動も特定の地域や個人の活動に限られ、組織化されたものではありませんでした。 こうした背景から、市民の防災知識と防災意識の向上に努め、防災ボランティアのネットワークを育て、地域における防災力の向上と、災害発生時の支援活動等に寄与することを目的として、ボランティア団体、日赤、社会福祉協議会、海上災害対策会社、大学、マスコミ、水道局、消防本部、市役所、建築士、救急救命士、気象予報士など各種機関や多種多様な人々が集まり、平成12年7月特定非営利活動法人(NPO法人)防災ネットワークうべ(以下、BNUという)は設立されました。 (http://www.earth.csse.yamaguchi-u.ac.jp/bnu/)
    2. 宇部市の取組みとNPOとの協働 宇部市は、新たに台風・高潮予測情報を導入し、宇部市防災市民メーリングリスト(平成17年からは不定期メールマガジン形式の「宇部市防災メール」に変更)を開設し、市民への防災情報の提供に力を入れるとともに、NPO法人であるBNUとの協働に取り組み始めました。(http://www.city.ube.yamaguchi.jp/benri/bousai_ml.html)具体的には、これまで市による出前講座や広報誌による方法だけではなかなか成果の上がらなかった防災意識啓発についてBNUのユニークで新しい発想を取り入れ、より広い層を対象としたコミュニティFM放送局による防災啓発番組を毎週始めました。(http://www.earth.csse.yamaguchi-u.ac.jp/bnu/act/kirara2004/kirara2004.html)また宇部市では自主防災組織率が0.8%と低迷していたため、自主防災組織育成にBNUの新しい手法を取り入れました。平成16年11月には32.0%と少しずつではありますが、着実に成果を上げてきているところです。その手法は、小学校区単位の地域住民とともに地図を基に浸水マップ(ハザードマップ)を作成し、実際に地域内調査(フィールドワーク)をして危険箇所や防災資源などを写真に撮り、地図にまとめて手作りの防災マップを作成します。それを基にして災害図上訓練(DIG)を行い理解を深め、市の総合防災訓練において、防災マップを作成した地域住民の代表が、地域住民に対してその成果を発表するものです。行政が一方的に防災マップを作成し住民に配布するのではなく、地域住民が地域住民に対して発表するというところに、その場限りに終わるのではなく、次に繋がる効果があると感じています。 市は、このようにBNUの自主性や自立性を尊重しながら事業目的のマッチングを図り、役割分担を明確にして協働事業を推進しており、全国的にも行政とNPO法人との有効な協働関係の事例として高い評価を受けています。(http://www.earth.csse.yamaguchi-u.ac.jp/bnu/act/jisyubo2004/jisyubo2004.htm)
    3. 地域防災情報の地理情報システム(GIS)化とその課題 宇部市は、平成16年度事業として地域防災情報デジタル地図化事業に取り組んでいます。これは、防災情報のGIS化のことですが、災害危険区域や避難場所などの地域防災計画に掲載されているデータを地図化することにより、誰にでもわかりやすいものとし、防災啓発や災害予防対策、及び災害応急対策に活用していきたいと期待しているところです。 また今後の課題としては、山口県作成の土砂災害危険箇所マップはありますが、洪水・高潮・津波のハザードマップはまだ作成されていませんので、今回の地域防災情報デジタル地図化事業により、今後の各種ハザードマップへの展開は比較的容易になるため、積極的に取り組んで行きたいと考えています。将来的にはWebへの展開や統合型GISも今後の課題として研究して行きたいと考えています。
  • 山口  勝
    p. 30
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに新潟県中越地震直後の震災番組(2日後のクローズアップ現代と1週間後のNHKスペシャル)で、主に地震と土砂災害のメカニズムの部分の制作に携わった。災害報道には、災害の事実を伝えるだけでなく、2次的な災害を防ぎ、次の災害に備える視点が求められる。その番組制作過程で“地理学の視点”の大切さを感じた。「自然と人々の暮らしを見つめる学」としての地理学の視点である。2. 「余震はいつまでつづくのか?」被災者の不安に地震のメカニズムから答えられたか?_から_クローズアップ現代_から_地震を起こした断層は、既知の活断層か?断層は地表に現れているのか?まず、この科学的関心から取材を始めた。いち早く現地入りし、地理学の視点で断層調査を行った名古屋大学鈴木康弘教授・東洋大学渡辺満久教授から“小平尾断層で、地表変位の証拠を確認”の報を頂いたのは、番組放送の3時間前。どこよりも早くスクープとして報道することができた。さらに、震度6強(後に震度7も)が、約1時間で3回も起き、その後も強い余震がつづいた新潟県中越地震。「なぜこんなに強い余震が多いのか?いつまで余震はつづくのか?」被災者の不安・関心はそこに向かった。市民感覚から言えば、今回の地震は、”強い余震が多い特殊な地震“である。それに答える地震メカニズムが期待された。しかし、専門家にあたっても、なかなかこれという答えがみつからなかった。多くの地震学者は「震源が浅いのだから、深い地震では感じないような余震まで地上で大きい揺れとして感じる。内陸地震の余震のパターンとしては、決して特殊ではない」と答えた。確かに正しそうだ。しかし市民感覚とは乖離している。視聴者のなぜには答えているのか?また、ある地震学者は「これまで断層活動がなかった場所で初めて滑ったので、摩擦が大きくずれにくかったので、その分、余震が多いのでは」と答えた。今回の地震が特殊であるという立場からのコメントである。しかし、地形・地質学的には、新潟県中越地方はもっとも有名な活褶曲帯であり、地表に現れた活断層だけではなく、地下に多数の断層が存在している。決して”これまで断層活動がなかった場所“ではない。むしろ地殻変動が激しい場所である。さらに取材を進めた結果「震源が浅いために余震の揺れを強く、多く感じる。さらにこの地域は地下構造が断層や褶曲があって複雑で、堆積物も柔らかいため、余震が誘発されやすい。今後も強い余震に注意する必要がある」という、この地域の地形・地質の特殊性をふまえたコメントを地震の専門家にお願いした。報道は、短時間で各分野の専門家の情報を理解、評価し、素人の視点で判断していく仕事だが、今回の判断は正しいかったのだろうか?3.「自然風土との共生を破壊した災害」_から_NHKスペシャル_から_ 「春の棚田、錦鯉、そして牛の角つき」。番組は山古志村の美しい風景とそこに暮らす人々のシーンから始まった。今回の地震では,地すべりや崖崩れなど“地震による土砂・地盤災害”が被害を大きくした。それまで暮らしを支え守ってきた棚田やため池が、各所で崩れ村は孤立した。土砂が川を堰き止め,集落も灌水した。自然地理学的には、“構造性地滑り地帯”として知られてきた地域である。第三紀の未固結な泥岩や砂岩が互層をなし、断層や褶曲の影響で地層が切り立っている。春の雪解け時期には地滑りがおきる。この自然環境・風土に対して、人々は地すべり地に棚田をつり、あぜ塗りや水路を管理することで地下に浸透する水分を調整して地すべり災害を防いできた。こしひかりの棚田も,錦鯉の池も、豪雪と地すべりという自然環境・風土に対して人々の知恵と営みが生んだ共生の風景なのである。まさに、人文・自然地理学融合のフィールドと言っても良い地域である。番組の土砂災害メカニズパートでは、この地形・地質に、直前の台風で、たっぷりと水が供給され地震で大地が揺すられることで、土砂崩壊が起きやすくなったという、再現実験を行った。しかし、科学的解説と再現実験だけでは番組が、流れなかった。冒頭の映像にあるような、人文地理的視点のシーンを挿入して初めて番組全体が流れたのだ。災害をメカニズムだけでなく、風土や人々の暮らしとの関係でとらえる「地理学の視点」、いわば災害地理学の視点は、番組づくりだけでなく、長期的な防災対策や街づくり、国づくりへのヒントを含んでいると感じる。
  • 成宮 博之, 斉藤 仁, 中山 大地, 松山 洋, 鈴木 啓助
    p. 31
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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  • 二通 里江子
    p. 32
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.背景本研究の背景として、世界遺産制度における諸問題があげられる。第17回(1972年)ユネスコ総会で採択された「世界の文化及び自然遺産の保護に関する条約(通称、世界遺産条約)」は、過去の文明の実相を解明する手掛かりとなる遺跡や貴重な自然等の保護を通じて多様な文化における相互の尊重を目的とする。世界遺産リストには文化的多様性の反映が必要不可欠とする理念がある。その一方で、異文化間の「固有価値(池上、2001)」は比較不可能である。したがって、制度は文化の水平化を目指しながら、リストへの登録は固有価値の序列化といった矛盾を伴う。稲葉(2004)は、制度が文化的多様性とは何かという問題と、世界遺産リストとは何かという問題に直面している点を指摘している。それに対して、世界遺産委員会では次の対策を行っている。数の増加に対し、初めて申請する国を除外した各国年間1件の申請に限定している。また、地域的偏在に対しては、基準の拡張によって無形文化の登録を促進する、"Global Strategy"(以下、「戦略」)を1994年以降行っている。しかし、問題は解決されていない。2.目的・意義本研究の目的は、世界遺産リストにおける偏在の原因を風景論の観点から明確化することである。ユネスコの認識は、偏在の原因として「風土(和辻、1935)」の違いから生じる有形文化と無形文化に依拠している。しかし、地域の固有価値を世界遺産として評価する場合、すべての文化に普遍的側面がある一方で、その価値は比較不可能である。また、世界遺産の登録に対するユネスコの理想と国家の目的は分離する。したがって、偏在の原因はユネスコの認識とは異なると考えるため、理論的分析が必要である。本研究の意義は、ユネスコに対する政策提言である。「戦略」は、文化的多様性を促進してはいない。「戦略」における対象基準の拡張は、多様な価値の反映を可能にする一方で、あらゆる文化の遺産をすべて登録することは制度の意味を無に帰する問題がある。したがってユネスコは、全体として登録数を増加させることなく、制度の目的を達成することが求められている。そのため、制度の理論的背景を問い直す議論の必要があると考えられる。しかし、対処療法的な議論は多くなされている一方で、理論的側面から制度の問題点を明らかする研究はほとんどみられない。本研究は、世界遺産制度の方向転換を示唆する研究として位置付けられる。3.結論「価値」の評価不可能性と比較不可能性及び、偏在と国家主権の関係から偏在の原因を論じた結果、偏在は国家主権を前提とした制度に内在化されていることを結論した。まず、偏在の仕組み及び理想の分布と事実上の分布が一致しないことを示した。客観的指標として偏在を明示することは不可能であることを示し、「戦略」において明確な目標を設定することが困難な点について述べた。その上で、遺産を風景として再定義し、「アイデンティティの指標と保障(Berque, 1990)」という二つの側面をもつ風景として遺産を議論した。その結果として、リストには「指標」より「保障」が過大に表象されることが偏在の原因の1つであることを示した。したがって、「戦略」は目的を達成しない可能性を指摘した。参考文献池上惇(2001):文化と固有価値の経済学,文化経済学,2(4)、pp.1-14稲葉信子(2004):「ユネスコ世界遺産条約が目指すもの‐運営の実際と限界‐」『国際交流』第一法規、26(2)、pp.49-55.Throsby, D., (1999): Cultural capital. Journal of Cultural Economics, 23. pp. 3-12.Berque, A., (1990):『日本の風景・西欧の景観』講談社.和辻哲郎(1935):『風土』岩波書店.
  • 榊原 保志, 佐藤 友典
    p. 33
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,人工気象室における都市と郊外のスケールモデル実験と野外観測資料の解析により,都市の表面形状が晴天静夜のヒートアイランドに与える影響を調べた.スケールモデル実験では都市モデルと郊外モデルとの表面温度差は日没直後に大きくなった後,徐々に減少した.そして長波放射収支量の違いの指標である天空率の大きいところでは気温差に与える影響は小さいことが分かった.長野県白馬村における野外観測資料による同様な解析においても,気温減少量の都市と郊外の差は日没後時間とともに増大し4時間後に最大になり,やがて徐々に小さくなった.しかし,これまでヒートアイランドの調査があった日本の諸都市の結果においてヒートアイランド強度の最大値と天空率の関係は見いだせなかった.
  • 赤桐 毅一
    p. 34
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1:はじめに 2001年に水防法が改正され、洪水予報河川が指定され、河川管理者は浸水想定区域図を作成し市町村に通知し、市町村長は、これに、避難に必要な情報を載せて住民に周知することになり、2004年10月25日現在で少なくとも361市町村が公表した。しかし、対象河川は全国で約2000あり、整備には多くの課題がある。ここでは、現況、技術的な状況、普及のための課題等を述べる。2:洪水ハザードマップ類分類比較: ハザードマップは多様であり、更に一般的な言い方や個別の定義がある。「ハザードマップ」も「洪水ハザードマップ」も一般名詞とすると、その下に、国土地理院の土地条件図(洪水土地条件図、洪水危険地図)と河川局指導の洪水ハザードマップ(洪水避難地図:避難目的)があることになる。 河川局指導の洪水ハザードマップについては、改正された水防法に基づき指導して、市町村が作成するものであり、内容は「洪水ハザードマップ作成要領解説と作成事例 (財)河川情報センター(2002)」の中に国土交通省作成の洪水ハザードマップ作成要領、関連法令等が載っている。それらを基準として作成されている洪水ハザードマップの名称は、国土交通省の商品名(固有名詞)といってよい。 平成15年3月のこのシンポジウムで上記の国交省河川局の基準で述べた際、(筆者も永く関わった)土地条件図を含めて比較説明した。土地条件図類の多くはこれとは当然別である。両者は、定義、基準、特徴が異なる。土地条件図類は、土地の定性的特徴に基づいて作成され、一部を除き、避難場所情報を載せてない。主な情報は地形学的見地による地形分類、地盤高、過去の浸水情報等であり、地形学の知識で作成される。 洪水ハザードマップ(河川局指導のもの)は洪水避難地図であり、定量的な氾濫シミュレーションや過去の浸水情報を載せ、避難場所などの避難情報を載せて避難に主眼をおき、人命の損失を防ぐことを目的とし、河川工学の知識で作成される。 この二つは水害を減らすという目的では同じであるが、特徴が異り、それぞれ別の発展の歴史を持ち、両者は直接の目的が異なり、見かけと実際の使い方が異なる。本報告では洪水避難地図としての洪水ハザードマップについて報告する。3:河川局指導の洪水ハザードマップの要件 この地図は、「(1)浸水情報、(2)避難情報、必要な関連情報、等を載せて、住民が洪水時或いはそのおそれのある時に浸水を予想される地域からの避難を円滑にできるために必要な情報を載せた地図」であり、さらに「(3)市町村が作成し、(4)公表を前提とする」ことを条件としている。4:洪水ハザードマップの課題4_-_1:作成技術:紙の洪水ハザードマップ、インタネットによる公表、動く洪水ハザードマップ、作成用半自動化ソフトの進歩、繰返し提供するシステム。内水氾濫および都市河川の水害に関する浸水想定区域図作成、3次元洪水ハザードマップ、リアルタイム洪水ハザードマップなど4_-_2:作成に関わる問題:(作成の普及):制度、作成費用、自治体の反応(理解不足。義務でない。財政厳しい。中小河川希望。分り易く。市町村直営で作成。改訂容易、GISデータ。流域単位で広域作成。4_-_3:周知に関わる問題、課題(住民への周知):全戸配布、住民説明会、インタネット、繰返し配布、広報活用。避難訓練。学校教育。携帯電話、水防活動、いつでもどこでも誰でも無料で。5:今後の方向: 洪水ハザードマップの作成は、2005年1月現在「おすすめ」であるが、この義務化、補助金制度。技術的にも制度的にも上述の課題を解決する事が必要。6:最も必要なこと: 市町村の熱意。作成し易くする制度。住民へのPRの繰返し。7:追記:新潟7.13水害も新潟県中越地震も調査した。N市のS川流域:洪水ハザードマップ公表済、調査範囲では住民が知らず、全戸配布でない場合に周知方法に課題が残った。地震により震災ダムが形成、応急策が講じられた。出水すれば洪水。1968年第2十勝沖地震:下北半島での多数のため池が崩壊氾濫。海岸低地に被害を与えた1959年の伊勢湾台風や最近の高松などの高潮、1703元禄地震による九十九里の大津波、1992年インドネシアフローレス島等の大津波など、低地の地形の差異により被害が全く異なった。洪水避難地図である洪水ハザードマップと洪水危険地図である土地条件図を適切に組み合わせて利用することが居住まで考える時に最も効果的である。
  • 菊地 俊夫, 山本 充, 小原 規宏
    p. 35
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    研究目的 JAS法に「有機農産物等の検査認証制度」が2001年に導入され、その生産や流通の安全性に基づいて不適切な「有機」表示を排除し、有機農産物生産の支援策が講じられてきた。しかし、有機農産物の生産農家と生産量は、2003年においていずれも全体の1%以下の水準にある。有機農産物のなかで比較的需要の高い生鮮野菜でも、その生産量はJAS法の施行以来増加し続け2003年に約28,000トンに達したが、野菜全体の国内生産量の約0.2%を占めるにすぎない。このように、有機農産物の生産が伸び悩んでいる現状を踏まえ、本報告は有機野菜のフードシステムの実態とその空間構造を東京大都市圏の事例を中心に明らかにすることを目的とした。加えて、本研究は有機野菜のフードシステムの持続性を検討し、その問題点にも言及する。研究対象 有機野菜のフードシステムは、農家、集荷・出荷施設、流通業(者)、小分け業(者)、小売販売店を中枢的施設にして構成され、生産_-_集荷_-_流通_-_小分け_-_小売販売_-_消費者の一連の流れで捉えることができる。また、中枢的施設の中で農家、集荷・出荷施設、流通業(者)、小分け業(者)はJAS法によって有機農産物を取り扱うための認証を受ける必要があり、そのことが有機野菜のフードシステムを慣行栽培野菜のそれと差別化させるものになっている。本報告は、東京大都市圏の大手スーパーチェーンQIやSなどで販売されている有機野菜を生産している千葉県富里町の成田生産組合を事例にした。成田生産組合は15戸の農家で構成され、1971年に任意組合として発足して以来(1985年に農事組合法人になる)、有機農産物の生産を続けており、日本における有機農業の先駆的存在にある。有機野菜の生産者 成田生産組合の15戸の農家は富里町を中心に下総台地に分散して分布し、そのことは有機農業が点的に展開していることを物語っている。各農家は1971年から10年間で、所有農地すべてを有機圃場にしてきた。それぞれの有機圃場は1haから3haで、4カ所から8カ所に分散している。各農家は周辺の慣行農地と区分管理や輪作体系による土づくり、あるいは年間農作業の平準化などを意識しながら、有機圃場での野菜栽培を組織化し、有機JASの認証を受けている。有機野菜の流通 成田生産組合で生産された有機野菜は、すべて有機農産物流通業者Aの集荷・出荷施設に集められる。この施設は富里町に立地し、有機農産物を取り扱うための有機JASの認証を受けている。ここに集められる有機野菜は、成田生産組合だけでなく、全国の契約農家からのものも少なくない。これは、有機野菜の収穫時期の地域差を利用して、特定の有機野菜をできるだけ長期間にわたって東京大都市圏の消費者に届けるためである。また、この施設では小売店の店頭に並べるための小分け作業も行われており、小分けされた有機野菜は東京大都市圏の特約販売店に出荷される。有機野菜の販売業者 流通業者Aから出荷された有機野菜は、大手スーパーチェーンのQIやSなどで販売されている。有機野菜が販売されているQIの分布をみると、東京の山の手などの住宅地にかたよりがあり、有機野菜に対する有機野菜の需要が限定されていることがわかる。また、QIの店舗ごとにも有機野菜の需要に地域差があり、流通業者Aはそれらの地域差を考慮し調整しながら有機野菜を出荷している。有機野菜のフードシステム 有機野菜は栽培農家と集荷施設、あるいは出荷施設や流通業者へは単一チャンネルで流通し、その結びつきは有機JASの認証制度によって強固なものになっている。しかし、単一チャンネル流通は生産_-_集荷の選択肢を限定し持続的でない。他方、販売店は多くの流通業者から有機農産物を集め、有機野菜は多チャンネルで流通し、持続的なものになっている。
  • 鈴木 康夫, ちょん むはたる
    p. 36
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    本発表では、深化する阿蘇地域の草原危機の実態を報告するとともに、畜産振興と草原再生のための取組みが、今後、どのような場所で展開されるべきかについて検討を試みる。阿蘇地域では草原の保全が大きな社会問題になっている。草原は半自然草地と改良草地に大別されるが、とりわけ問題視されているのは前者の方である。半自然草地は地元では原野と呼ばれ、その荒廃の背景には、本質的には畜産の不振が影響している。
  • 岡本 耕平, 大西 宏治, 廣内 大助
    p. 37
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 名古屋市は2003年に天白川洪水ハザードマップおよび庄内川・新川洪水ハザードマップを流域の全世帯に配布した。これらの河川の流域は2000年9月の東海豪雨によって内水・外水氾濫が発生し、広範囲にわたって多大な被害を被った。 発表者らは、天白川流域の市民団体および行政当局と共同で「生涯学習のための災害・防災学習カリキュラム開発委員会」を組織し、地域防災力の向上をめざした市民参加型のまちづくり活動を行ってきた。活動の一環として2004年12月には、公開講座『地図から災害を考える、地図を生かす。』を開催した。本発表では、この公開講座の概要を報告するとともに、こうした活動などから得た知見をもとに、洪水ハザードマップを地域防災力の向上に生かす際の問題点を抽出し、改善の方策を探る。2. 公開講座『地図から災害を考える、地図を生かす。』の概要 公開講座では、海津正倫・名大教授による「生活空間の土地条件と水害」と題する講演の後、市民を対象とした3つのワークショップを行った。<1> 新旧の地形図を比較して、水害危険度を考える<2> ハザードマップの中に自宅を見つける<3> Myハザードマップを作り、活用する3. ハザードマップ活用の問題点と課題 問題点の第1は、多くの人がハザードマップの存在を知らないということである。先のワークショップの参加者は概して防災への関心が高かったにもかかわらず、ハザードマップが配布されていたことを知らない人が多数いた。また、配布されたことは知っていても、手にした経験がないという人も少なからずいた。  第2に、ハザードマップが読めない、あるいは読みにくい、という問題である。行政が作るハザードマップには、少数の公共施設しか記されておらず、位置関係を把握しにくい。その解決策の一つが、コンビニや友人宅など、自分なりのランドマークをハザードマップに書き加えることである。また、拡大コピーして見やすい縮尺にしてもよい。さらに、こうしたナヴィゲーション用のランドマークのみならず、例えば、豪雨時に危険になりそうな側溝の位置や、避難できそうな中層以上の建物の位置を書き加えると、Myハザードマップとして、より有用なものになる。そして、こうした情報を学区などの地域で共有できれば、地域防災力は高まるであろう。 第3に、ハザードマップの活用方法がわからないという問題である。洪水ハザードマップには、浸水想定域のほか、避難の仕方や地下鉄駅の浸水可能性など、様々な情報が記されているが、これらが読まれることは希である。これらの情報を生かす方法の一つが、ワークショップでも試みたDIGである。DIGを行うことによって、平面の地図から得られる情報(プラン)が原寸大の光景(シーン)と結びついて、災害時の行動をよりリアルに想定できる。しかし、DIGを効果的に行うためには、ある程度のスキルが必要である。参加者からは「ここで教わったことを地域に持ち帰って皆に教えるにはどうしたらよいか」という声が聞かれた。市民のための防災教育カリキュラムの開発と、そのテキスト化が必要である。 第4は、ハザードマップの限界にかかわる問題である。1)水害や地震など、異なる災害のハザードマップが別々に存在する。2)洪水ハザードマップは、特定の河川を対象につくられる。したがって、図幅内で浸水想定域に含まれない地域がすべて安全だとは限らない。3)洪水ハザードマップは、あくまで作成時点の状況を示したものである。例えば、天白川では、上流の日進市の土地利用が今後大きく変化する可能性があるが、そうなれば、ハザードの可能性も大きく変化する。 第4の問題点に対処するためには、地形図学習を含めた、より一般的な地図教育が市民になされる必要がある。ワークショップで示されたように、市民は地形図学習を嫌ってはいない。結局、地域防災力の向上にとって重要なのは、地図学習をいかに市民に身近なものとするかである。
  • 安倉 良二
    p. 38
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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     本研究は,愛媛県東予地域の中心都市である今治市における中心商業地の変容について,郊外地域における大型店の立地に伴う商業集積の再編を前提に述べることを目的とする。
     今治市の郊外地域における小売活動は,1990年代後半に大型ショッピングセンターが相次いで出店したことにより,急速にさかんになった。今治市では,大規模小売店舗法(大店法)の運用が厳しかった1970年代後半から1980年代にかけて,大店法の調整対象外の売場面積300_m2_以上の店舗に対しても商工会議所による出店指導が行われ,郊外型店舗の出店は事実上,規制されていた。しかし,大店法の運用が緩和された1990年代以降は,それらの規制がなくなったのをはじめ,ショッピングセンターの立地に適した工場跡地の発生や道路交通網の整備が進んだ結果,中心商業地の衰退を伴う商業集積の再編がなされた。
     他方,中心商業地の大型店をみると,1970年代前半に立地した大手スーパーの閉鎖やフランチャイズ契約の解除に伴う空きスペースの問題がみられた。だが,2003年には閉鎖された大手スーパーの跡地に食料品スーパーが新たに出店し,中心商業地の住民がもつ消費需要に対応した動きとして注目される。また,中心商店街においても空き店舗の増加が顕著である。しかしながら,2000年以降,中心商店街では空き店舗の市民ギャラリーや民芸品店への転用をはじめ,商店街ホームページの作成,共同の販促事業といった商業活性化に取り組んでいる。これとは別に居住面からの再生を目指す動きもあり,中心商業地における「まちづくり」の方向性は多様化している。
  • 村山 良之
    p. 39
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. 近年の日本における地震による建物被害の特徴 住家を中心に地震被災地域内の建物被害をみると、各戸ごとの構造やメンテナンスによる被害程度の違いに加えて、建築年数(建築基準強化の歴史と建築物劣化を反映)が古いほど被害程度が大きい(被害が多い)という傾向が一般的に認められる。さらに、建物被害は土地条件によって強く影響されることも広くみられ、とくに近年の地震においては、建物自体の堅牢度が全体的に向上したこと等もあり、地震動のみによるよりも、建物敷地の崩壊、亀裂、不等沈下等の地盤破壊に伴って被災する建物が多いことが目立つ。これらは、地形(とその改変)および地形で示されるごく表層の地質が重要であることを示している。 また、地震事例(被災地域)間の違いをみると、例えば地域特有の建物構造も、被害程度と関連する。近年立てつづけに大きな地震を経験している北海道では、地震の規模や震度の割に建物被害程度が小さい(被害が少ない)。小さい開口部(広い壁)、鉄板拭き等の軽い屋根、凍上対策のための深い布基礎等により、一般の住家がきわめて強いとされている。一方、1995年阪神・淡路大震災では、瓦屋根の、蟻害や腐朽を有する戦前からの住家がひどく被災した。またそのような住家の密集地区が都市内に存在した。2. 新潟県中越地震災害の特徴: 建物被害と土地条件を中心に 発表者が調査した小千谷市以北についてまとめる*。_丸1_ (山地・丘陵地に限らず)傾斜地において、小規模な崩壊や不等沈下にともなって被災したものが多い。ごく小規模な地形改変地の盛土が沈下または地すべりが生じたと考えられる。例:小千谷市中心部の段丘崖や谷壁斜面。小千谷市西部_から_西南部のわずかな比高の段丘崖。石積み擁壁の崩壊等。_丸2_ 丘陵地等に開発された住宅団地では、盛土部または切土盛土境界部に被害が集中した。ただし団地によって被害程度の差が大きい。被害程度:高町団地>>長岡NT>>長峰団地・ 長岡市高町団地断層に挟まれた狭い段丘。中央部を切って周辺部に盛土(1978宮城県沖地震で被災した当時の泉市黒松団地と同様の地形改変様式)。盛土厚は最大でも10m程度、団地縁辺部の盛土部で、沈下や崩壊が発生、建物にも大きな被害が及んだ。一部の崩壊箇所では、盛土だけでなく、地山まで達した可能性がある。団地中央部の切土部では、建物被害はほとんど認められず、アスファルトの小亀裂すらない。・ 長岡市長岡ニュータウン丘陵(段丘)を大規模に地形改変。全体として被害は少ない。ただし、青葉台の切盛境界部?で段差を伴う亀裂による建物被災事例あり。切土部(のごく小規模な盛土?)で沈下事例あり。陽光台の盛土部で液状化が広範に発生し、複数住家が傾斜。・ 長岡市長峰団地段丘および断層の撓曲崖。被害見えず。ブロック積み擁壁の一部に亀裂のみ。_丸3_ 地形(表層地質)と被害分布・ もっとも震源に近い小千谷市では、低地と台地の被害程度の差は明瞭ではない。・ これより離れた長岡市では、低地で被害が少なく、丘陵地等の地形改変地の一部で被害が大きい。震動よりも地盤破壊による被災が多いことが明瞭(上記_丸2_のとおり)。・ さらに震源から離れた中之島町では、低地内の集落間で被害程度の差がありそうだ。震動と地盤との関係が推察される。_丸4_ 小千谷市内等で、電柱の傾斜、マンホール浮き上がり、道路の沈下など、液状化による被害が多い。ただし道路での発生が多く、建物にまで影響しているかは不明である。_丸5_ 被災地域に多い雪対策としての高い基礎を有する住家は、地盤破壊に対して強いと考えられる。ただし基礎と建物の接合部には、震動によるとくに大きな力が加わる。一方、鉄板拭きの軽い屋根と太い柱は、震動に対して有利と思われる。 新潟県中越地震は、山地や雪国の地震災害というこれまであまり注目されてこなかった課題を顕在化させた一方で、上記のように、近年の日本においてしばしば経験されてきたのと同様の被害も発生させた。土地条件を考慮した土地利用が重要である。(* 調査は、平野信一氏、吉田明弘氏とともに実施した。)
  • 溝口 常俊
    p. 40
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに ムスリムの国でマイノリティのヒンドゥーは如何に生活しているのだろうか。2004年夏、ヒンドゥーの壺作り(パル)の村に入って、全世帯の家族構成、職業、既婚女性の出身地と嫁ぎ先などを聞き取ってきた。中庭での壺作り、神像作りに精を出すパルをみて、「壺作りは雨期に仕事をしない」という中根千枝説は否定され、また、お金がないから「土葬」なのよ、という一言でヒンドゥーは「火葬」と信じ切っていた常識が崩されてしまった。溝口、柘植、土屋は2000年3月にバングラデシュのタンガイル県に入り、現地のNGO組織Gram Bangla において住民参加型の農村開発を学び、井戸掘りの手伝いをおこなった。その後、柘植は単身で漁民カーストの生業調査を行い、その成果を名古屋大学環境学研究科に修士論文(2004)として提出した。土屋と溝口は福武財団の援助を受け2004年8、9月にタンガイル県ミルジャプール郡においてムスリムとヒンドゥーの日常レベルでの交流関係をテーマに調査を行った。3人の今回の報告はこうして生み出された成果の一部である。ミルジャプール郡におけるヒンドゥーカースト バングラデシュにおいてヒンドゥーは少数であるが、ミルジャプール郡には比較的その数が多く、中でも郡都ミルジャプールとその周辺の村々に多い。ポストカムリ村にはパル、アンドラ村にはラズボンシ(漁師カースト)が多く生活している。その他ミルジャプール郡で採取できたカースト名はタクール(司祭)、カパリ(農業)、シル(床屋)、ゴーシュ(牧牛)、ストラダール(大工)など十数に及んだ。 壺作りカーストの生業壺作りは基本的に朝から晩まで壺作りに専念する。ジョムナ川デルタの粘土を仕入れ、土練りを行い、大車輪型のろくろを手動で廻し整形する。女性、老人たちも中庭で小型ろくろやヘラで各種の壺を作る。雨が降り出したら露天干ししていた壺を小屋の中にしまい、やんだらまた庭に出す。雨期でも火入れは行い、焼成温度が低ければ黒い、高ければ赤い素焼きの壺ができあがる。できあがった壺は主人が定期市や個人宅に売りにでかける。壺の他に多様な土器を作る。ヒンドゥー教の神々、燭台、井戸枠、トイレ枠、子供用おもちゃなどである。特にヒンドゥー教の神像作りの家は作品を雨期空けのプジャに間に合わせるべく制作に余念がなかった。ところが、この土器作りというカースト固有の生業に最近大きな変化がみられるようになった。雑貨商、鍛冶職、お菓子売り、薬局努めなどである。そんな中で最大の変化は海外出稼ぎ帰還者がサリーのプリント工場を自宅の隣に建設したことである。壺作りカーストの通婚 ヒンドゥーの結婚はそのカースト(ジャーティ)の枠にしばられて、異なったカーストとの通婚はタブーとされてきた。パルはパルとしか結婚できないのである。このカースト内婚という社会規範が一体どれほど守られているのだろうか。壺作りの村で悉皆調査した結果を以下に示してみよう。 ポストカムリ村の壺作りカースト全48家族において、嫁入り総数61人中58人が同じ壺作りカーストの出身であった。かなりの高率である。しかし、3人の嫁が他のカースト(2人はコルモカール:鍛冶職、1人はボニック:雑貨商)から嫁いで来ていたことは、カーストの壁は完璧ではなかったという意味で大いに注目しておきたい。 さて、嫁を同じカーストから選ばねばならないとすると、相手を捜すのは至難のわざとなり、勢い婚姻圏は広くなる。61人中、村内婚はわずか3人に過ぎなく、ミルジャプール郡内の他村から39人、郡外からが18人で、郡外の内7名がダッカ、シルエット、ボグラなどかなりの遠方から嫁いできていた。 花嫁達(女性一般)の日常生活上の行動範囲はバリ(屋敷地居住地区)内に限られている。食事作り、子育て、壺作り、そしておしゃべりとテレビ観賞が、毎日その狭い空間で繰り返されている。徒歩15分のところにあるミルジャプール商店街、定期市へ出かけることすらほとんどない。出産のための里帰り、親戚の冠婚葬祭への出席が数少ない外出である。
  • 高柳 長直
    p. 41
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに 経済のグローバル化に伴い,世界の食料をめぐる空間構造は大きく変動してきた。こうした点に対し,欧米の経済地理学などでは,フードレジーム論が着目されてきた。現代は,自由貿易体制が強化される中での多国籍企業の支配構造を中心とする第3次フードレジームへの移行期であるといわれている。世界の農業貿易においては,従来の穀物,冷凍肉,加工食品だけではなく,より単価の高いFFVなどが発展途上国から先進国のエリート消費に向けて輸出され,NACsと位置づけられる国々も登場し,先進国と途上国の新たな支配_-_従属関係や途上国における労働過程の再編といったことが明らかにされつつある。 しかしながら,そのような貿易流動はどのような位置づけにあるのか,あるいは世界全体では,野菜・果物貿易はどのような空間的パターンを表出しているかという疑問に答える研究は,管見の限りほとんどみられない。そこで,本研究ではグローバルスケールにおける野菜・果物貿易流動の全体像と空間パターンを明らかにしていく。2.資料と方法 分析の資料としては,FAOSTATおよびWATMを用いた。最初に,野菜・果物貿易が世界の農業貿易に占める位置づけを概観して,品目別・国別の野菜・果物貿易流動を把握する。次に,品目ごとの数量を合計した野菜および果物(ナッツ類を含む)の相互作用行列を作成して,輸入国が因子得点,輸出国が因子負荷量になるQ技法による因子分析を行い,流動パターンの分析と解釈を行う。3.野菜・果物貿易の拡大と空間パターン 野菜・果物の貿易金額は急速に増加して,穀物を追い越し,農業貿易の中で最も重要な部門となった。FFVが農業貿易の中で重要な役割を果たすようになったということや,熱帯のエキゾチックな果物貿易が近年増加していることが統計的にも確認された。また,アフリカなどでこの20年間に野菜・果物貿易を大幅に増加させた国々もみられる。 ただし,中南米から北米へ,あるいはアフリカからヨーロッパへという途上国から先進国への流動が形成されつつあることは確かであるが,ヨーロッパ内部の流動は依然として圧倒的に大きい。また,因子分析の結果から,東南アジアおよびオセアニア地域,インド亜大陸を中心とした流動,中東地域を中心とした流動も検出された。 発展途上国から先進国への流動は,果物の方が野菜よりも顕著である。アフリカとヨーロッパ,中南米と北米という関係の緊密性が明らかとなった。因子負荷量は輸出国側にとっての輸入国の相対的な重要性を示しており,アフリカやラテンアメリカの場合,旧宗主国であるイギリスやフランスとの結合関係が依然として強い国々もみられる。すなわち,物理的空間における近接性よりも歴史的に形成された社会的近接性が果物貿易流動を規定している側面が強い。 野菜の場合,アフリカから西ヨーロッパへの輸出量は約60万tにとどまっている。また,アフリカから西ヨーロッパへの輸出量と西ヨーロッパからアフリカへの輸出量はほぼ等しく,必ずしも一方的な流れではないことにも留意する必要がある。米国の場合は,グアテマラなど中米諸国からも13_から_25万tの野菜輸入はみられるが,全体の76%はメキシコとカナダからの輸入で占められており,中南米から北米へという流動というよりも,NAFTA内の流動と捉えた方が正確である。 一般的に,果物の場合はデザートや間食として消費されるので比較的嗜好の地域性が弱いが,野菜の場合は調理されて副食として消費されるので,地域において伝統的に形成されてきた食文化が輸入を規定する傾向が強くなり,品目ごとに多様な貿易パターンを示すものと考えられる。 したがって,世界の野菜・果物貿易を発展途上国_-_先進国間の貿易として捉えるのは,あまりに一元的である。量的には先進国どうしの流動が大半を占めており,しかも,野菜の場合は,南北貿易の構造は量的には部分的な段階にとどまっている。また,豆類やナッツ類などは,発展途上国間で大量に流動している。発展途上国は経済成長に伴って,輸入国としても重要性を増しつつあり,世界の野菜・果物貿易は多元化しつつあるといえよう。
  • 柘植 奈緒子
    p. 42
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに 本研究は,イスラム国として知られるバングラデシュの村落において,ヒンドゥーであるラズボンシ(Rajbanshi:漁師カースト)が,いかに生業を選択し生活を維持しているか,そして彼らとムスリム,さらに他のカースト集団とはどのような社会関係を築いているかを探ることを目的としている.対象地域であるアンドラ村は,バングラデシュのほぼ中央部に位置するタンガイル県ミルジャプール郡に属しており,ヒンドゥーが人口の7割以上を占める. 生業に関しては,ラズボンシの全世帯において何らかの生業を営む男性に対し,家族構成,キャリア,収入等の悉皆調査,市場での参与観察を行った.社会関係については数世帯のサンプル調査で一日の行動やイベント時の様子を詳しく採取するとともに,村のリーダーへの聞き取りを行った.生業ラズボンシの職業構成をみると,カーストの「伝統的」職業である漁師や魚売りなどを生業としている世帯員が多い.世帯員の誰かが魚を扱う仕事をしている世帯は81%であり,この地域の他のカーストと比べても「伝統的」職業への従事率は非常に高い.漁師などの仕事は重労働であるうえに低収入であるが,若い世代の漁師や魚売りが再生産されている.理由として,農業関係の労働市場は供給過剰で進出しにくいこと,地域で安定した魚の需要があることから,学歴が低く,資本のないラズボンシにとって,漁師や魚売りは重要な働き口となっていることが挙げられる.一方で,若い世帯員にはより高収入が期待できる海外出稼ぎや宝石商などを志向する傾向が見られる.これはラズボンシに限らず,他の低位カーストにも同様の傾向が認められる.社会関係ラズボンシが村落で生活する上で重要な単位の一つが,グシュティとよばれる父系親族集団である.男性の経済活動を除いて,日常生活の行動は,グシュティやバリ(屋敷地)の範囲内で完結している.そしてグシュティは経済的な相互扶助関係を築いている.これは投資や急な出費で現金が必要なときに気軽に借金を申し込める関係を意味する.次に,ヒンドゥーの宗教行事であるプジャや,冠婚葬祭などのイベントでは,ラズボンシのカースト集団であるラズボンシ・ショマジュが重要な単位となる.結婚における制約や,プジャの準備・運営における協力体制には,ラズボンシ世帯でのまとまりが意識される.ただし,それは必ずしも排他的な集団というわけではなく,村のムスリムや他カーストを食事に招くなど,カーストの壁を崩すような行為も見られる.最後に,村落で問題が発生したときにはビチャールと呼ばれる村会議によって解決が図られる.アンドラ村のグラム・ショマジュ(村社会)が紛争調停機能の単位として働くのである.そこではマタボールという村のリーダーが重要な役割を果たしている.ムスリムのマタボールの権威をラズボンシや他のヒンドゥが認める一方,ムスリム住民はヒンドゥのマタボールの権威を認めている.特定の集団に権力が集中しないように,様々な集団から,複数のマタボールが選ばれることによって,宗教間もしくはカースト間の対立を起こさないように,調整されている.まとめラズボンシと魚との結びつきは依然として強いように見えるが,漁師や魚売りという生業は,カーストの「伝統的」職業としての意味は薄れており,村落インフォーマルセクターとして位置づけられる.アンドラ村における,ラズボンシをとりまく社会関係は,重層的な構造をしている.彼らは日常生活では父系親族集団グシュティ,冠婚葬祭時にはカーストとしてのラズボンシ・ショマジュ,村の政治的判断はアンドラ・ショマジュといったように,様々な場面に応じて異なる社会単位を意識する.このことはカーストとしてのアイデンティティを維持しつつ,他集団との緊張関係を緩和する機能を果たしている.
  • 土屋 純
    p. 43
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに 本研究では、バングラデシュ社会におけるムスリムとヒンドゥーの関係について、地方都市の商店街を事例として検討する。特に、商業という経済活動の中でムスリムとヒンドゥーはどのように住み分けているのか、ヒンドゥーが経営する商売内容とカーストとはどのような関係にあるのかについて検討し、バングラデシュ社会の中でヒンドゥーはどのような役割を果たしているのかについて明らかにしたい。対象とする商店街は、タンガイル県ミルジャプール郡の郡都であるミルジャプールに立地している。ミルジャプールは郡の中心都市であり、商業の中心地であるとともに交通の要所でもあり、宝石商が集積している都市として有名である。 調査は主に2つの方法で実施した。1つは、商店街の全商店への悉皆調査であり、各商店の業種、商店主の宗教(イスラム教かヒンドゥー教か)、ヒンドゥーの場合にはカーストについて調査した。2つは、主にヒンドゥーによって経営されている宝石商の数店舗について詳しい聞き取り調査を実施した。聞き取りの内容は、経営年数、一日の平均売上高、従業員数、従業員のカースト、経営者のライフヒストリーなどである。調査内容 まず、全商店への悉皆調査の結果について、商店街を地理的に見ると、全般にムスリムが経営する商店が多いが、商店街の合間をヒンドゥーが経営する商店が立地しており、はっきりと住み分けされているわけではない。ただ、モスクの周辺ではムスリムの商店で占められ、ヒンドゥー寺院の周辺ではヒンドゥーの商店が多く集積していた。このように、ムスリムとヒンドゥーは、必ずしもお互いに近接立地を嫌っているわけではない。 業種構成についてみてみると、ヒンドゥーによって経営されている商店の割合が高いのは、宝石商、理髪店、菓子店などであり、ヒンドゥーがほとんど見られないのは、衣料品店、靴店、薬局などである。このように、ヒンドゥーで職人カーストの場合には、その技術を生かして商売をしていることがわかる。たとえば、宝石商の店主は金属加工を職業とするカーストである「コルモカール」によってほとんど占められているし、理髪店は理容を職業とするカーストである「シル」によってほとんど占められている。次に、宝石店に対する詳しい聞き取り調査についてみてみる。宝石店は、金や銀を素材としてアクセサリーを製造販売している。宝石店は、その大半がヒンドゥーによって経営されていて、ムスリムを顧客としてアクセサリーを販売するため、他のヒンドゥーの商売に比べて現金収入が多くなっている。規模の大きな商店では、5人以上の加工職人を雇用しているものも存在する。店内にはヒンドゥーの神様が描かれたポスターが貼られ、自らがヒンドゥーであることを示している。店主のカーストはほとんどコルモカールであるが、職人のカーストは比較的多様であり、貧しい農村地域から弟子入りする場合が多くなっている。加えて、ムスリムが経営する宝石店が2つ存在した。その1つの商店では、ムスリムだけでなくヒンドゥーも職人として雇用していた。考察 以上の調査結果から、以下のようなことが考えられる。_丸1_ムスリムが大半を占める社会の中で、職人カーストはその技術を生かして積極的に商業を展開していること。_丸2_概してヒンドゥーは社会的に弱い立場であるが、必ずしも経済的に恵まれていないわけではないこと。_丸3_ムスリムは、ヒンドゥーが所有している職人的な技術が社会に役に立つことを熟知しており、ヒンドゥーに一定の役割を提供していること。このように、商店街の中で見られるムスリムとヒンドゥーとの関係は比較的安定しており、お互いの特徴が生かされていることが明らかとなった。
  • 小林 浩二
    p. 44
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    _I_.はじめに 1990年の東欧革命以降の中央ヨーロッパ(ここでは、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー)の変化のなかで、最も顕著なもののひとつは地域格差が拡大したことである。大都市、主な観光地域、西側諸国と国境を接する地域では、発展が著しいのに対して、農村や工業地域では発展が芳しくなく、問題も深刻化している。このように、農村は後進地域になっているが、ひとくちに農村といっても、大都市に近接した農村と大都市から離れた農村では大きな差異がみられる。本発表では、こうした状況を踏まえて、スロヴァキアの2つの農村を対象に、地域住民の生活実態と定住条件について若干の考察を試みることにしたい。地域住民の生活実態と定住条件とは、具体的には、人口移動、生活環境、定住のために必要な条件及び定住指向である。 研究対象地域は、首都ブラティスラヴァの南東郊に位置するドゥナイスカー・ルジュナ Dunajska Luznaとスロヴァキアのほぼ中央部に位置する純農村であるハイ Hajである。人口は、前者が2,832人(1997年)、後者が485人(年)である。研究方法としては、2003年から2004年にかけて、両地域を対象にアンケート調査を実施した(ドゥナイスカー・ルジュナ、ハイそれぞれ100世帯にアンケート調査を配布した。ドゥナイスカー・ルジュナでは82世帯から、ハイでは93世帯から回答を得た)。併せて、関係諸機関で聞き取り調査、景観・土地利用調査をおこなった。_II_.結果 現在の居住地以外の地域で生まれた人の割合をみると、ドナイスカ・ルジュナの方がハイより高くなっている。また、、転居(1年以上他の行政体に居住)した人の割合、転居したことのある人のうち、複数回転居した人の割合も、ドナイスカ・ルジュナの方がハイより高くなっている。このように、他の地域との結びつきは、ドゥナイスカ・ルジュナの方がハイより強い。一方、数年内に転居する計画があるかどうかについてみると、転居する計画のある人の割合は、ハイの方がドゥナイスカ・ルジュナより高い。今日の農村の経済状況を反映したものであろう。 また、生活環境の満足度、すなわち、就業機会、教育、医療サービス、高齢者福祉、保育所・幼稚圏、公共輸送、道路の整備、スポーツ・レクリエーション施設、娯楽、住宅、自然環境についての満足度をみると、ドゥナイスカ・ルジュナでは、すべての項目で満足度は平均より高くなっており、とりわけ、保育所・幼稚園、住宅で高い。一方、ハイでは、高い満足度を示す項目は、自然環境、保育所・幼稚園であり、逆に雇用機会、教育、医療サービスで低い。さらに、2つの農村を比較してみると、自然環境を除くすべての項目でハイよりドゥナイスカ・ルジュナの方が高くなっている。ドゥナイスカ・ルジュナとハイの生活環境には、かなりの差異が認められる。 定住するために必要な条件は何かを聞いてみると、ドゥナイスカ・ルジュナ、ハイとも多くの人が、住宅、自然環境、就業機会、道路の整備をあげている。これらの諸点を整備することが、農村に定住するための基本点な条件だといえよう。また、定住するために必要な条件として、ドゥナイスカ・ルジュナでは教育を、ハイでは、医療サービスをあげる人が比較的多くなっているが、これは、それぞれの農村社会の属性を示すものといえよう。 さらに、定住指向についてみると、ドゥナイスカ・ルジュナ、ハイとも、6割程度の人がそれぞれの地域「住み続けたい」と回答している一方で、3割程度の人が「わからない」と答えている。「住み続けたくない」を合わせると、4割に達している。住民の要望を着実に実施していくことが要請されているといえよう。
  • 近藤 昭彦
    p. 45
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに 植生地理学は地球上の植生がどのように分布しているかを記述するものである。これは植生分布の定常的な捉え方であるが、近年は様々な要因による変動が問題になってきている。衛星データはランドサット1号以降30年以上の蓄積があり、グローバルデータセットとしてもNOAA/AVHRR(National Oceanic & Atmospheric Administration/Advanced Very High Resolution Radiometer)による1981年以降の20年間の蓄積がある。これらのデータの中に植生変動のシグナルが記録されているはずであるが、その抽出には地理学的センスが必要とされよう。植生変動はグローバルスケールで徐々にやってくるのではなく、地域性に応じて特定の地域に先行して現れると考えられるからである。なお、ここでは農業や砂漠化も植生変動に含めている。 まず、NOAA/AVHRRによる複数の指標から変動を抽出した。次に、個々の地域について気候要因と人間要因の両側面から変動の要因解析を試みた。複数の事例を紹介するが、今後の作業として、_丸1_グローバルスケールで環境変動を抽出、_丸2_地域研究の蓄積とグローバルの中での位置付け、_丸3_比較研究、の流れが重要であると考えている。2.グローバルな植生変動の抽出 アメリカの気象衛星NOAAに搭載されたAVHRRセンサーから作成されたPAL(Pathfinder AVHRR Land data sets)データは1982年以降年間のデータが利用可能であり、空間分解能0.1°、時間分解能10日で調製されている。 植生変動を抽出するための変動指標として、i)年間のNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)積算値(ΣNDVI)、ii)年間の最大NDVI(NDVImax)、iii)ΣNDVIの標準偏差(NDVIstd)、iv)年間の最大観測輝度温度(Tmax)、v)Ts-NDVI平面上の季節トラジェクトリの傾き、を用いて1982年から2000年のトレンドを求めた(近藤、2004)。3.変動指標の解釈 これまでに多くの研究で北方林の植生活動の活発化が温暖化に伴う生育期間の伸長で説明されている(例えば、Myneni et al.,1997)。これは気象データを用いた解析的な研究が可能であったためと考えられる。しかし、ここで得られた変動マップには北方林以外にも多くの地域でトレンドが認められる。これらの地域では気候要因だけでなく、人間要因による変動も重要であり、ここに植生変動解析に地理学の視点を取り入れる意味がある。 なお、ΣNDVIとNDVImaxのトレンドの比較からバイオーム自体の変化が示唆される地域があるが、ここでは詳細は省略する。4.事例研究 講演ではいくつかの地域の植生変動について解析を行った結果を報告する。・黄河中・下流域の灌漑農業地域・燕山山地の植林・北方林の衰退・モンスーンアジアの稲作の変化 以上の事例から、気候要因のみでなく人間要因による植生変動も重要であることを示す。5.おわりに 植生変動には気候要因だけでなく、人間要因も関わっているため地域的な問題としても現れる。よって、その理解には総合的な視点が必要である。まず先の_丸1_の段階としてグローバルスケールの変動を抽出した。次に_丸2_の段階として地域の植生変動を解釈を複数の事例について試み、その結果をグローバルの中に位置付けた。今後、_丸2_の段階を蓄積することにより、_丸3_が可能となり、衛星植生変動学を確立させることができるのではないかと考えている。引用文献Myneni, R. B., Keeling, C. D., Tucker, C. J., Asrar, G., and Nemani, R. R.(1997): Increased plant growth in the northern high latitudes from 1981-1991. Nature, 386, 698-702.近藤昭彦(2004):グローバルリモートセンシングによる植生・土地被覆変動の抽出とその要因解析.水文・水資源学会誌、17(5)、459-467
  • 伊藤 修一
    p. 46
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    _I_ はじめに 地理学における女性就業に関する研究では,一般に,郊外居住の既婚女性が家事や子どもの世話と就業の二重の役割を担うために,「空間的足かせ」によって自宅周辺での仕事に就かざるを得ないとされてきた.その上,条件のよい仕事は郊外の自宅周辺には少なく,希望する仕事との間に「空間的なミスマッチ」を生じているとされてきた.それは既婚女性が短距離通勤者となり,雇用のミスマッチに陥った一因を示している.特に女性のジョブサーチの過程においては,人づての情報は広告や職業安定所に並んで重要な役割を果たしており,最近では,既婚女性の就業継続には別居の親からの支援が有効であるという研究結果もある.よって,こうした「空間的足かせ」や「空間的ミスマッチ」のメカニズムを解明するためには,既婚女性がどのようなパーソナル・ネットワークを持ち,それをどう利用しているかを明らかにする必要がある.本研究では,社会的資源としてのパーソナル・ネットワークの規模と空間的な広がりを明らかにし,その役割について考察する._II_ 研究方法と研究対象地域 分析には,2003年に実施したアンケート調査で得られた,206世帯の夫婦それぞれの回答結果を用い,16世帯からのインタビュー調査結果で補完した.妻の就業状態によるパーソナル・ネットワークの規模と空間的広がりの差異を分析し,彼女らのジョブサーチと育児支援に対する影響を検討した.千葉ニュータウンは当初,東京都心までのアクセスが悪かったこともあり,人口急増期が東京圏内でも遅く,1990年代前半になって夫婦と子どもからなる世帯が多く流入し,その世帯率が東京圏内の市区町村の中で最も高くなった.一方で,この地域の女性就業率は1995年に最も低くなったが,2000年には事業所の増加もあって上昇しはじめている.ただし,都市計画上ニュータウン内に立地できる事業所の種類は限られており,サービス業や小売業の事業所が集中している._III_ ジョブサーチと育児支援に対するパーソナル・ネットワークの役割 対象となった妻のうち107人が就業している.このうち35人が正規雇用者で,通勤距離は平均14.0kmであるのに対して,非正規雇用の72人の平均通勤距離は5.3kmと短い.正規雇用者のうち25人は,前住地から継続して就業しているのに対して,非正規雇用者のうち49人は現住地で再就業しており,移動距離も正規雇用者よりも長い.こうした職に就く際に,正規・非正規雇用者ともに,子どもを介した友人などの,他の世帯の人も現職に就く際の有力な情報源となっている.ただし,他の世帯の人を通じて就職した非正規雇用者の通勤距離は,正規雇用者の平均12.1kmと比べて,3.4kmと短く,それはニュータウンを東西に貫通する北総・公団線の駅間距離と対応している.「他の世帯の人」には,主に子どもを介した友人など,近隣の居住者が含まれている.実際,妻には「日ごろから何かと頼りにし,親しくしている人(以降,親友と略称)」が平均14人程度いるが,このうち,正規雇用者は市町村内に平均4.3人の親友がいるのに対して,非正規雇用者は8.5人と多い.正規雇用者の親友のうち5人は「職場の同僚」であるのに対して,非就業者の親友のうち5人は「(仕事以外の)組織の友人」というように,それぞれの日常生活を明確に反映したものとなっている.親友の中で,妻が世帯外で「就職や転職に関する相談相手」や「子どもの世話を依頼できる人」は,妻自身の親に並んで子どもを介した友人が多い.さらに非就業者のうち13人は,雇用のミスマッチを非就業の理由に挙げており,市区町村内での就業を希望しているものの,非正規雇用者ほど他の世帯の人からの情報を得ていない.これは,就業者と比べて居住年数が短いことと関係が深く,情報を得られる経路が十分に形成されていないことを示唆している.また,正規雇用者が市町村内の友人が少ない一因には,勤務時間が長く,非正規雇用者や非就業者と日常接触する機会が少ないことがある.そのため,正規雇用者からの求人情報はこの地域内に伝達されにくい.一方,育児支援に関しては,育児は自分で行うという意思が強いこともあって,多くは親にも子どもを預かってもらう機会がない.ただし,世帯内で子どもの世話をできない緊急時には,子どもを介した近隣の友人が重要な役割を期待されている.このように妻のパーソナル・ネットワークからみると,これまで議論されてきた「空間的足かせ」仮説は,既婚女性が,近隣に偏った日常生活の中で,利用可能な求人情報や人々との接触を利用するという戦略を採った結果として理解することができる.
  • 成瀬 厚, 杉山 和明, 香川 雄一
    p. 47
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    I はじめに
    近年,日本の地理学学会誌に様々な言語資料を中心的な分析対象とする研究が増加している。それらは方法的に類似していても,分野や主題が異なるために相互参照されることなく,方法論的に未熟な状態が続いている。また一方で,日本の地理学における展望論文の多くは主題によるものであると同時に外国や周辺分野の動向の紹介にとどまっている。本稿は方法論の観点から,そして身近な日本の地理学者による研究を詳細に吟味することを目的としている。
    II 日本の地理学における言説分析
    この章では,広く言語資料を取り扱う研究を広義の言説分析と呼ぶこととし,日本の地理学者による研究を概観する。日本の地理学において,新聞記事のような言語資料を論文の主要な分析対象として使用した先駆的研究は1990年前後に登場する。1990年代以降の研究は,メディア・テクスト分析,社会史的分析,民族誌的分析,政治経済的分析,計量分析に対する質的調査・分析,などと多岐にわたる方法で言語資料が用いられている。資料としても,大量に流通するメディア資料から,多くの人が目にすることの少ない議会録,あるいは歴史資料などの書かれた言葉から,インタビューやインフォーマントの語りなど話し言葉にまで及んでいる。
    III 言説とは何か?
    この章ではまず,言説discourse概念で有名なフーコーを中心とする議論を概観する。「二重化された表象」というフーコーによる定義から,言説という概念が決して言語資料の総体のみを意味するのではなく,多数のテクストや語りが特定の方向付け=意味付けを獲得し,類似してくる作用を意味していることを確認する。続いて,日本の社会学における言説分析に関するちょっとした論争を紹介することを通して,言説分析の長所と短所を確認する。最後に,英語圏の地理学における言説概念の導入を辿ると同時に,都市研究の文脈で言説分析研究を整理しているLees(2004)の議論を参照する。
    IV ツールとしての言説分析
    最後に再び議論を日本の地理学研究に戻し,IIで整理した3つの分野から特徴的な論文数編に対してより詳細に検討を加える。まずは社会地理学的研究から原口(2003)を取り上げる。この論文では,新聞記事や会議録などの言語資料を用い,様々な社会集団の意識や意見,主張などを,それぞれの集団の特徴,あるいは集団間の関係としてマッピングしている。この研究は,同じ地域に関わるいくつかの社会集団のアイデンティティを問い直すというよりは,言説分析を通して常識的なアイデンティティを強化している。しかも,それは同時にメディア形態の特質も常識的なものを強化している。続いて民族誌的研究として,フィールドワークにおける人々の語りを分析した今里(1999)を取り上げる。この論文では,そもそも分析対象として使用する言語資料が「言説」と呼ぶに適しているかという問題も含まれる。しかし,最大の問題は,その言語資料の生成過程の隠蔽である。言説分析というと,その言葉が所与のものとして存在しているような印象があるが,この民族誌的研究の場合に,その言葉は調査者と被調査者の間の政治的関係によって生成されたものである。このような「語り」を分析する場合にはそのような政治性に配慮する必要があろう。
  • 大和田 春樹
    p. 48
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに中国の黄土高原は,標高1000_から_1500mの高原地域であり,かつ半乾燥地域に相当する(福井, 1961; 福井, 1965; 田村, 1991).黄土高原の降水は,そのほとんどが7_から_9月に集中し(Domros and Peng, 1988),短時間に集中的に発生することが多い(大森・賈, 1990).また,年降水量は北部で約300mm,南部で約600mmであるが,年変動が激しい特徴を併せ持つ(福井, 1961; 福井, 1965; 田村, 1991).しかし,黄土高原は中国でも有数の小麦生産地域であり,夏季の限られた降水量は農業的見地からも重要である.今後,この地域の降水を予測することは食糧問題にもつながる研究課題である.特に,黄土高原の降水は7・8月に最盛期を迎えるが,その前期(7月)と後期(8月)とでは水蒸気を輸送する気流系が必ずしも同じではない(大和田ほか).そこで,本研究では,まず黄土高原の降水最盛期の前期にあたる7月に着目し,降水の地域的特徴とその要因について分析を行った.2.資料降水量解析は,NCAR (National Center for Atmospheric Research)による黄土高原とその周辺地域における中国の地上観測降水量データ(22地点)の日別値を用いた.解析期間は,climate shift以降の1979_から_1992年までである.気流系は,NCEP(National Centers for Environmental Prediction)/NCARによる2.5度×2.5度グリッドの客観再解析データの日別平均値を用い,水蒸気を運ぶ水蒸気輸送qv(g/kg・m/s)と水蒸気輸送量|qv|(g/kg・m/s),および水蒸気輸送経路を決定する気流系解析としての等圧面高度z(m)と水平風ベクトルv(m/s)を解析した. 3.黄土高原の降水地域特性黄土高原における降水の地域特性は,降水量の日別データを基にウォード法を用いたクラスター分析によって分類した.その結果,北西部(クラスター1)・南西部(クラスター2)・北東部(クラスター3)・南東部(クラスター4)の4つの地域に分類した(図1).そこで,黄土高原における地域別の気圧場と気流系,および水蒸気輸送場の違いを降水量が上位5%以上に属する1979年を対象とし,事例降水日を抽出して比較した.4.解析結果 降水域と水蒸気が輸送される方向に対応が見られたが,各地域で輸送方向が異なる. 黄土高原における西側の降水は,偏西風の蛇行に伴う低気圧性の渦が日本の北側で大気上層から下層にかけて現れ,その南側に形成された北太平洋高気圧の外縁部から派生した南東風によって降雨域に水蒸気を輸送される.一方,東側の降水は北部と南部で特徴が異なり,北東部は低気圧性の渦が北太平洋高気圧の北側への張り出しを制限し,西に張り出した北太平洋高気圧とベンガル湾からの南西風が降雨域に水蒸気を輸送して雨が降る.また,南東部は低圧性の渦が発達して北太平洋高気圧の北側,および西側への張り出しを制限し,低気圧性の渦から派生した北東風が水蒸気を輸送している. 今後は,多雨季後期(8月)の降水メカニズムについても詳しく考察し,黄土高原の降水最盛期における降水と気流系の関係を明らかにしていきたい.文献Domros, M. and Peng, G.(1988) The Climate of China.Springer-Verlag,1-360.福井英一郎(1961) 東亜における主要気候域の経年変動.辻村太郎先生古稀記念地理学論文集,298-312.福井英一郎(1965) 北太平洋を囲む主要気候域の経年変動.地理学評論,38,37_-_56.大森博雄・賈恒義(1990) 中国黄土高原清水河上流域の黒色腐植質土層の形成期と更新世末期以降の環境変化.地学雑誌,99,307-329.大和田春樹・大森博雄・松本淳 中国黄土高原の降雨季における気流系の季節変化について.地理学評論,(投稿中)
  • 佐藤 照子, 竹内 裕希子
    p. 49
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに洪水ハザードマップは、防災の基本となる地域の水害脆弱性を示す重要な情報源である。これを、住民や地域コミュニティが被害軽減策を考える際に、より利用しやすくするためには、どのようなハザード情報が必要かを整理する。2.シナリオ型のハザードマップ2.1ハザード評価結果の理解現在、住民へ配布されている洪水ハザードマップは、特定の河川の特定の洪水氾濫シナリオ(例えば、A河川でX年に一度発生する規模の洪水が、O、P地点で破堤したというシナリオ)に対する確率論的な洪水氾濫浸水深分布予想地図である。このハザード情報を防災行動へと結びつけるためには、第一に、情報が安心情報とならないような情報の提示が重要となる。_丸1_そのためには、X年に一度発生する可能性のある洪水という確率論的な表現を分かりやすく伝える工夫が必要である。例えば、床上浸水の発生頻度と家屋の基礎嵩上げ等の耐水化実施意思との関係を調査した結果によると、20年に一度なら43%の人が実施すると答えているが、100年に一度となると約10%と実施意思が急減する。このことは、将来の30年とかいうような人間の生活スケールで想像できる期間を考慮したハザード評価とその表示地図も検討の価値があることを示唆している。_丸2_次に、シナリオハザードマップの性質と作成情報の分かりやすい提示により、地図上でたとえ被害なしと表示されても、それがすぐ安心情報を意味しないことを伝えることが大切である。例えば、表示されている予想浸水深には幅があること、シナリオ以上の規模の洪水、シナリオ以外の地点の破堤、シナリオ以外の河川の同時氾濫等の発生可能性もあることなどである。このシナリオ型ハザードマップの情報を補間するものとして、水害地形分類図などの定性的な情報の利用が考えられる。_丸3_さらに、低頻度ではあるが、破堤等による大規模水害発生の可能性についての理解を深め、万が一に備えるという視点を伝えることも重要である。洪水ハザードの発生頻度は、行政主導による大規模構造物(連続する堤防やダムなど)の整備によるハザードコントロールの効果が大きく、減少してきた。しかし、想定規模以上の洪水が発生し、堤防から越水すると、破堤の可能性が大きくなる。そして、破堤してしまうと、大量の洪水が河道から氾濫し、大水害に結びつきやすい。現実に、最近各地で破堤による大水害が多発している。2.2洪水ハザードの地域性の表現洪水ハザードは土地・河川環境に影響を受け、地域性を持つ現象である。被害軽減策の選択や緊急時の行動の判断にあたっては、浸水深とともに、ハザードの性質についての知識が不可欠である。また、土地・河川環境は地域の歴史の中で形作られたものでもあり、地域に特有の情報を加えることで、より身近な情報となる。例えば、次のような情報がある。_丸1_被害の様相に影響を与える氾濫流の速さ、氾濫流の到達時間、湛水時間などの情報。例えば、氾濫流の勢いが強い場所では、家屋が流される危険があり、早めの避難が必要であるし、低平地の内水氾濫で氾濫流の貯まる場所では自宅の2階へ避難した方がリスクが小さくなる場合もある。_丸2_シナリオ型の洪水ハザードマップでは表現出来ない、地域に存在する大河川から中小河川、雨水排水路の氾濫までの、原因の異なる様々な洪水ハザードによって発生する特徴あるハザードについての情報。_丸3_また、水防の重点地域、過去の破堤地点、水害防備林、二線堤などの洪水ハザードに関連する地域情報。3.その他のタイプのハザードマップ3.1 個人の被害軽減策選択の情報源行政の被害軽減策の推進とともに、住民ができる様々な被害軽減策があるが、その組合せを住民は選択することができる。例えば、緊急時には避難し資産の被害は保険で補填するとか、住宅の基礎を嵩上げし、安心の確保と資産被害の軽減を図るとかである。このような個人が被害軽減策の選択を支援する情報として、地域のハザード評価結果と個人世帯のリスク情報を組み合わせた情報提供も考えられる。3.2 地域の総合的な災害リスクマネジメント住民と行政が協働で、水害ばかりでなく、地域で発生する可能性のある様々な災害リスクを総合的にマネジメントする時代へと入りつつある。このような場面では、シナリオ型ハザードマップに加え、災害間のリスクの相対評価に資する地域の様々な河川の洪水ハザードを考慮したハザード評価手法や指標等の検討が必要となる。4.まとめハザード情報は、GISや画像技術を用い、より分かりやすい形での提供が可能になるであろうし、さらに行政によるハザードマップ配布範囲の拡大により、住民は情報を入手しやすくなる。しかし、最も重要なのは、住民がこの情報を利用しようとする意思であり、水害リスクを読み解く力の向上である。
  • 水谷 武司
    p. 50
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    水災害の軽減対策 自然災害は多様であり,効果的な対応策はそれぞれの特性に規定されて多様である.洪水・土砂災害については,発生の時期・場所に大きな不確定性はあるものの,基本的には水や土砂はより低きに向かって運動し,その速度(破壊力)は地表面勾配に規定され,微起伏の配列などに支配されて滞留・停止するので,その危険度・危険域は地形によって決められるところが大きい.このような性質の災害に対しては,可能なかぎり危険地への居住を避け,危険の種類・程度に応じた居住様式や利用を行うのが基本となる対応である.利用する場合にはそのリスクを意図的に見込んでいなければならないし,人命への危険が大きい場合,災害時避難は過渡的な対応となるべきである.防災的土地利用管理 防災的に望ましい土地利用をと言うことは容易であるが,その実現はきわめて困難である.防災だけでは社会は成り立っていかないし,広い氾濫原の利用規制は不可能である.しかし,明らかな危険地,たとえば急斜面下・狭い谷底低地などは,その利用の抑制が積極的に図られる必要がある.法的規制は直接的であるが,危険地の利用にコストを賦課するという経済的な誘導の方策もある.被るであろう被害や回避のための支出は,その土地の利用が与える便益を得るためのコストとして内部化されねばならない.安易な経済的救済は防災的に望ましい土地利用の実現と矛盾するところがある.防災土地利用管理の基礎は地域災害危険性の評価・危険域のゾーニングである.災害危険性の評価 河川洪水については,低地の地盤高や微地形の分布が危険性を決める基本素因となり,この地形の場に種々の確率規模で降雨や洪水を入力して,数値流体計算により危険域ゾーニングを行うことができる.ただし,どこで破堤させるかによって氾濫域は大きく変わることが多い.谷底平野や侵食性の平野のように地形なりに浸水域が広がる場合にはゾーニングが容易である.対策に結びつけるためには,浸水域だけでなく洪水流の流体力(破壊力)も示す必要がある.土砂の運動も流体計算で再現でき,土石流の危険域を示すことが可能である.斜面崩壊の危険性はその性質上,安全率を大きくとり簡単な地形的条件に基づいて示さざるを得ない.ハザードマップ 災害の危険度・危険域を示す地図の作成・公開は,地域防災対策とりわけ防災土地利用管理の基礎である.現在作成されている広報用ハザードマップは,浸水域などの危険域および公共の収容施設の位置を,作成の設定条件および危険の程度の情報を大きく欠いた状態で示す図が大部分である.広報マップは危険の存在とその程度を提示して対応手段の選択を求めるものであって,避難対応はその一つにすぎない.人命への危険が大きい場合やほとんどない場合,避難は最も有効な対応とはいえない.ハザードマップは限られた設定条件の場合を示すものであって,これ以外の状況はあり得るし,また表示危険域以外の安全を保証するものでもないことを知っている必要がある.
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