日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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北海道産シシャモの生産・加工販売と地域間関係
*林 紀代美
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p. 12

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抄録
本報告では,北海道産シシャモ(以下、シシャモ)に関する漁業活動や加工販売を把握し,活動により発生する地域間のつながりや位置づけ,流通の広がりを考察する。シシャモは,胆振・日高・十勝・釧路支庁で,ししゃも桁網漁業により漁獲されている。水揚量は,十勝・釧路管内で多く,資源量の変動が大きい。漁獲は,遡上・産卵行動にあわせて例年10月上旬から11月下旬に,太平洋沿岸で時期をずらして操業される。資源保護の観点から,遡上が確認された時点で操業を終了する。シシャモは,漁業者から各漁港市場に集荷され,仲買人がセリ・入札により集荷する。漁期のずれ,加工地域の偏り,完熟卵を持つメスへの需要から,シシャモの道内流通(加工原料の供給・移動)や漁期内の価格変動が発生する。鵡川町は,加工が盛んで,技術の高さとシシャモの名称由来・神話を背景に,“シシャモの町”として高い知名度がある。鵡川漁協の市場で入札に参加するシシャモ仲買人は,ほぼ全員が自家で加工をしている。大手業者2社は,1社は道外の物産展での販売を主とし,他方は市場卸売業者への出荷を主としている。他の仲買人も含め,彼らは自家加工品を店舗販売や宅配している。他の漁獲地域では,当該地域での加工も行われるが,仲買人の活動は“送り屋”としての役割が中心で,主に鵡川町の加工業者,その他道南方面の業者らに原料供給をしている。しかし近年,例えば釧路市漁協は,他地域への供給だけでなく地元特産品として活用,販売しようと,加工拡大と販路開拓に着手している。同漁協の出荷は,道外の生協や市場卸売業者らへの販売が中心で,その他全国チェーンの居酒屋への販売実績,宅配もある。シシャモは,漁期が短く,水揚量もわずかであるため,地元消費が中心であったが,1980年代以降,マスコミの影響やグルメブーム,道内関係者の販路開拓により,関東を中心に本州各地への出荷も増加した。漁業者や仲買人・加工業者には,短期で高収入を得られるシシャモは魅力ある魚種である。しかし,道外流通の増加や高単価なことから,地元住民の消費が遠のく・困難な点は,地元の味を守り支援する基盤づくりや地元消費者の購買機会の確保においては課題でもある。
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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