日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

中越地震,地表地震断層調査と活断層図の意義を問う
*渡辺 満久
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 126

詳細
抄録
1.はじめに中越地震の発生直後には,小千谷周辺の活断層が活動したのかと思っていた.報道では,「未知の活断層」が地震を起こしたとの指摘もあった.鈴木康弘氏とともに翌朝から現地調査に向かい,現地では廣内大助介氏と合流し,地表地震断層の緊急調査を実施した.地震発生翌日の朝には,震源が魚沼丘陵の直下であることを知り,小平尾断層・六日町盆地西縁断層調査が起震断層であると確信した.我々の調査地域は,小千谷ではなく六日町盆地となった.地震の規模はM7に満たないため,地表地震断層が出現していても,変位量は大きくないと予想された.2.現地緊急調査の意義 我々は,六日町盆地西縁を中心に,地表地震断層の確認を行った.その結果,小平尾断層と六日町盆地西縁断層の北部において,数10cm以下の鉛直変位を確認することができた(発表当日に詳しく紹介する).地形学的な地表地震断層の認定を緊急に行ったのは,以下に述べるように,2つの大きな理由があった.第1に,「未知の活断層が地震を起こした」という報道が定着することを恐れたためである.地震観測部門の方々は,活断層の古い情報しかもっておられないことが多い.後述するように,小平尾断層・六日町盆地西縁断層が初めて詳細に図示されたのは,2001年のことである.それ以前の情報しか知らなければ,「未知の」とされてしまう可能性が高い.とくに,今回のように変位量が小さい場合には,地表地震断層を特定しないと,「未知の活断層」が取り上げられて,大きな誤解を生じかねない.地震発生後には断層モデルが提示され,それをもとに様々な議論が進む.このようなモデルの構築に関しては,自由度が非常に大きい.敢えて申し上げれば,どのようなモデルでも提示可能であり,変位量が小さい場合にとくに問題となりうる.せめて,起震断層の地表トレースの位置を決めておきたいと考えたのが,第2の理由である.そうしないと,「不確か」であったはずのモデルが「決定版」として一人歩きし,地表から得られた「変動地形学的事実」が軽視されかねない.このような状況は,今後の被害軽減策を講ずる上でも避けなければならない.地表踏査にもとづいて断層変位地形を認定することは,我々の専門的仕事である.地表地震断層の詳細な位置に関しては,いまだに議論が続いているものの,小平尾断層・六日町盆地西縁断層が中越地震の起震断層であることは受け入れられた.しかし,現在示されている断層モデルは,地表のデータと整合しない部分があるように思われる.さらに検討することが望まれる.3.活断層図の意義と問題点 「新日活(1991)」にはほとんど示されていなかった,小平尾断層・六日町西縁断層の全容が,「都市圏活断層図(2001)」には図示された.起震断層の認定に関しては,両活断層の詳細な位置がすでに図示されていたことも大変大きな意味をもっていた.「図示はしていないけれども,実はある」では,ほとんど説得力はない.図示されていたからこそ,多くの研究者が確認することができた.国土地理院が都市圏活断層図を発行していたことの功績は極めて大きい.ただし,都市圏活断層図の凡例には,不統一や意味の不明確なところがある.そのため,一部の報告において,「六日町盆地西縁断層延長に位置する未知の活断層が・・・」といった(変な?)表現もみられた.また,専門外の利用者が多いことを想定した場合,活断層そのものの記載内容に関しても,検討を要する部分がある. 被災地では,ほとんどの方々が,中越地方に活断層があることをご存知ではなかった.しかし,活断層の研究者の間では,「中越地方には活断層が非常に多い」ことが常識である.研究者の言葉(成果)は,一般の方々には理解(活用)されにくい.防災に関する意識を高めそれを維持するためには,地元の行政が研究成果を取り入れて具体的に啓蒙することが絶対に必要である.そのためには,情報が適切に整理された活断層図を提示することが重要である.今回の被災地では,このような意味での活断層図の活用はなされていなかったは残念である.4.まとめ 地表での断層変位や具体的な断層運動像の認定,活断層図を整備・活用に関しては,もっと地形学者をはじめとする地理学者が積極的に踏み込んでゆく必要がある.いずれも,地理学にしかできない(貢献すべき)課題である.
著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top