日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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阿蘇地域の過去100年間における草原の減少
*松永 豊
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p. 132

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抄録

 阿蘇火山地域の過去約100年間における草原分布の変化の実態を,阿蘇全域を対象とした地域スケールと集落を対象とした地区スケールとに分けて解析し,その変化の自然的,社会的な要因について検討した.
 本研究では,1905年頃,1950年頃,1995年頃に発行された地形図および1950年頃,1970年頃,1990年頃,2000年頃に撮影された空中写真を用いて草原分布の実態を把握した.また,草原分布の変化と地形条件などの諸要因との関係についてGISを用いて考察した.
 本地域の草原は,1900年代はじめ,阿蘇全域に分布していたが,その後約100年間でおよそ半分にまで面積が減少した(第1図).とくに,阿蘇カルデラの外側における減少が顕著で,これらは草原の利用形態の変化に伴う土地利用転換がおもな要因である.この土地利用転換には,草原の維持管理に適した地形条件や火山性土壌などの草原の立地条件が関与していると思われる.
 阿蘇地域において,とくに草原減少がみられるようになったのは1950年以降である.1960年代以降,全国的な造林ブームを背景に阿蘇地域の各地で行われた植林は,1950年から1970年の期間にみられる草原減少の主要因である.とくに,1959年に町有地の払い下げが行われ,住民の土地所有形態が変化した小国町では,草原への植林が急増した.また,1960年代,阿蘇地域で本格的に行われはじめた草地改良は,北外輪山を中心に阿蘇地域の各地に広まり,人工草地の増加による草原の減少をもたらした.
 1970年頃から現在の期間にみられる草原減少は,植林の他に雑木林・竹林化や放棄草地化によるものが多い.1970年以降,それまで主に牛馬で行われていた畑の耕起がトラクターへと変化した.さらに住民の高齢化や離農化が進行した阿蘇地域の農村では,草原を利用する機会が減少し,積極的な土地利用転換も行われず,草原の管理放棄に伴う草原減少が進行した.とくに,アクセス性が比較的悪い場所においては,草原と道路との距離が遠く,利用放棄に伴う草原減少が顕著にみられる.これらは,阿蘇東部の波野村など山東地方において多くみられる.
 1990年以降,牧野地域において草原の減少がみられるようになった.例えば,一の宮町日の尾牧野地域では,1990年7月の集中豪雨に伴う斜面崩壊による草原減少の他,現在は遷移の進行に伴う草原減少も認められる.この背景には,急勾配で林地に囲まれた牧野の立地条件とともに有畜農家の減少や牧野組合員の高齢化などの社会的要因により,1993年以降野焼きが中止されたことが関係していると思われる.

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