日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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京都市都心部における京町家の減少と残存要因
*宮島 良子
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p. 169

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抄録
I はじめに  京都市は、第2次世界大戦の戦災をほとんど受けていないため,戦前からの神社仏閣や京町家といった伝統的建築物が多く残っており,それらが,京都の景観を形成している.現在見られる京町家は江戸中期以降に建築されたもので,総二階・中二階・看板建築などの類型に分類される.1989年に京都市が行なった調査によると,約28,000軒の京町家が都心4区(に存在している(京都市1999).
 京都市では,1980年代から徐々に都心部が商業・業務機能に純化していく動きが見られるようになり(藤塚1990),それに伴って京町家が非木造共同住宅等へ建て替えられる傾向にある(橋本ほか2001).京町家の老朽化が進行しつつある今日において,京町家の保存は,伝統的な京都のまちなみを保存するうえでも,不可欠と言える.
 これまでの京町家に関する研究では,都市計画の観点から,京町家分布と居住者が抱える問題を踏まえた保存・継承方策が示唆された研究(三村1991)や空中写真から京町家の経年的変化を明らかにした研究(河角ほか2003)などが行なわれている.しかし,京町家の建て替え変遷や,居住者意思,京町家残存要因についての分析は十分になされていない.年々京町家が減少しているなかで,どのような京町家が消滅し,また,居住者のどのような意思決定によって残存したかという要因を明らかにすることが,京町家を保存する方策につながると言える.
 そこで,本研究では,1995年から2004年の間に,消滅した京町家と残存した京町家を特定し,京町家の経年的変化から,残存する要因を明らかにすることを目的とする.その際,規制や地域とのつながりといった外的要因と,京町家属性,居住者属性や意思決定といった内的要因の両側面からの分析を行なう.

II 研究対象地域と研究方法  対象地域は,近年共同住宅など建物更新が急速に見られる都心部,とりわけ,四条通に面し,堀川通と烏丸通に挟まれる本能・明倫・格致・成徳の都心4元学区とする.この地域は,祇園祭の舞台として伝統的な地域コミュニティが現在も色濃く残り,さらにCBDとしての役割も兼ね備えている.また,この地域は1999年京都市によって職住共存地区に指定され,都心再生の中心地区として位置付けられている.
 研究方法は,「トヨタ財団助成による調査」(1995・1996年度)データを元に2004年に現地調査を行い,消滅した京町家特定を行った(矢野ほか2004).さらに,消滅した京町家に対して,ゼンリン住宅地図(1995・1997・2000・2003年)を用い,土地利用変遷をおった.また,残存する京町家に対しては,居住者の属性や意識を明らかにすべく,各学区30軒を無作為抽出し,ヒアリング調査を行なった.さらに,建て替えを行なった家居住者に対して,建て替えへ至った経緯をヒアリング調査を行なった.

III 調査結果  1995・1996年度の対象地域内における京町家数は1,042軒であった.それらのうち,中二階は34%を占め一番多く,続いて総二階が30%であった.また,油小路通では総二階が多く,西洞院通で看板建築が多いなど,地域的な差異が見られた.
 このデータを元に,2004年度現地調査を行なったところ,192軒の京町家が9年間で消滅していた.取り壊された京町家のほぼ半分が一戸建へと建て替えられており,46軒の京町家が共同住宅へと建て替えられていた.
 また,残存した京町家(850軒)に対して行なったヒアリング調査からは,84.2%の世帯で継続居住の意思が確認された.継続居住の意思は,居住者属性や京町家属性と関係が見られ,老夫婦世帯の95.2%が継続意思を示し,小規模な京町家は継続に対して否定的な意思を持っていることがわかった.また,老夫婦や三世代同居,過去に全面リフォームを行なった世帯の継続居住意思が強く,今後残存していく可能性が高いと考えられる.その他,京町家を残存させるものとして,建築基準法等の法規,有形文化財としての指定などが,外的要因として挙げられる.
 さらに,一戸建に建て替えを行なった元京町家16軒に対して行ったヒアリング調査の結果,半数が5年以内に建て替えられ,その主な理由は,家族構成の変化や老朽化であった.

IV おわりに  対象地域において京町家は年々減少し,その半数が一戸建へと建て替えられている.京町家が残存するためには,個人ではどうにもできない外的要因や,居住形態に起因した内的要因など様々な要因が影響している.そしてこれらの要因には,居住者以外が介入できないものと,他者からの援助が可能であるものが存在する.京町家保存の取り組みを居住者のみに任せるのではなく,税の軽減や,修繕費の補助など行政が居住者の負担を軽減するような対策がこれからは必要であると言える.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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