日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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フィリピンにおける降水量の季節進行とその経年的特徴
*赤坂 郁美森島 済三上 岳彦
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p. 178

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抄録
1.はじめに
近年フィリピンの周辺海域や循環場の変動が注目される中,フィリピンの気候に焦点をあて,季節変化やその年々変動について詳細な検討を行っている研究は少ない.そこで,本研究ではフィリピンにおいて最も重要な気象要素である降水量に着目し,その季節進行や年々変動について明らかにする.フィリピンは大きく分けて北西部(ルソン島からパラワンにかけて)と東岸域でモンスーンの交替により平均的な雨季の時期が異なり,北西部では夏季に雨季があり,東岸では秋季に雨季があることが知られている.しかし,個々の年のモンスーン入り,終わりなどの季節進行を考慮に入れた雨季の年々変動については明らかになっているとは言えない.そこで本研究では,特に雨季入り・雨季明けの変動についてその経年的特徴を明らかにすることを目的とした.
2.使用データ及び解析方法
使用データはMatsumoto(1992)で集められたものに加えて,PAGASA(Philippines-Atmospheric, Geophysical and Astronomical Services Administration)から直接入手した日降水量データを半旬値に編集して使用した.解析対象期間は,1961-2000年である.観測地点数は,主成分分析を行うために,40年間で欠測値が31個以下の39地点を使用した.1961-2000年のデータに対して主成分分析を行った結果,第1主成分(寄与率 32.8%)がフィリピン全体の降水量の増減を表していると解釈できたため,第1主成分のスコアの変化から夏季の雨季入りと雨季明けを定義した.雨季の連続性を考慮するためにスコアの値を5半旬移動平均し,更に雨季入り・雨季明けの半旬を特定するためにU-検定を適用した.検定は有意水準5%で両側検定を行った.第1主成分の5半旬移動平均スコアの値がマイナス(プラス)からプラス(マイナス)に交替している期間の前後1ヶ月の間に,検定量の最も小さい2グループの境にあたる半旬を雨季入り(雨季明け)と判断した.
3.解析結果
図1は第1主成分のスコアから定義した各年の夏季の雨季入り・雨期明けの半旬を示したものである.フィリピン全体における夏季の雨季入り半旬の39年平均値は29半旬(5月21日-25日),標準偏差は3.8半旬であり,雨季の持続期間の平均値は37.6半旬,標準偏差は8.87半旬であった.また,Ropelewski and Halpart(1987)によりエルニーニョ現象が起きた年にフィリピンでは少雨なることが指摘されているが,エルニーニョ年に雨季入りの遅れ,及び雨季の持続期間が短くなるといった特徴は必ずしも表れていない.エルニーニョ現象が起きた年のフィリピンにおける降水量変化については,量や降水強度による議論が必要であることが示唆される.また,1999-2000年にかけては乾季(1-4月)に連続したプラスのスコアが表れており,これは他の年にはみられない特徴であり,検討が必要である.
参考文献
Matsumoto,J.1992. Climate over Asian and Australian monsoon regions. PartII, Distribution of 5-day mean precipitation and OLR. Department of Geography, University of Tokyo.
Ropelewski and Halpert .1987 . Global and Regional Scale Precipitation patterns Associated with the El Nino / Southern Oscillation .Mon.Wea.Rev 115:1606-1626.
図1 第1主成分の5半旬移動平均スコアの符号とU-検定から決めた雨季入り▲(雨季明け▼)半旬グレーなっている半旬はスコアの5半旬移動平均値がプラスである半旬.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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