日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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銘柄豚の生産・流通の実態
!)神奈川県内の3銘柄を事例として!)
*春原 麻子
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p. 228

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抄録

1 はじめに
近年、食肉の偽装事件やBSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザといった伝染病などを契機として、食肉をはじめとする食品の安全性への不信感が高まり、生産・流通の実態への消費者が関心を寄せるようになってきた。こうした動きを受け、昨年12月には国産牛肉のトレーサビリティシステムが導入され、政府はさらに他の生鮮食品にもシステムを普及させる方針を固めている。
一方で、生鮮食品のブランド化が進行している。農産物のブランド化そのものは、増加する輸入品への対抗策として1980年代後半以降全国的に広まった動きではあるが、近年も「安全・安心」をアピールする目的で盛んに取り入れられており、食肉においてもブランドが乱立している状態である。これにより、消費者に多様な選択肢が与えられたとみることもできるが、一方で「本物なのか」「普通のものとどこが違うのか」といった疑問を持たれてきたのも確かだろう。
こうした事情を背景として、本発表では、ブランド化された食肉の生産・流通の実態を明らかにする。今回は、研究蓄積が少ないことに加え、品質の差が見分けにくく、いかにブランド化するかが最も問われる畜種である豚肉に注目する。

2 銘柄豚の概要
銘柄豚を名乗るうえで特に規制はなく、正式な定義も存在しない。本発表では、小売段階において銘柄名を記載したシールなどにより一般の豚とは区別されているものと定義する。正確な数を把握できるような統計はなく、日本食肉消費総合センターによる最新の調査では208事例が報告されているが、これも銘柄豚全体の一部にすぎない。
豚肉の銘柄化は1950年代後半から一部で開始され、円高による輸入拡大が問題となった1980年代後半から、牛肉輸入が自由化され豚肉と競合するようになった1990年代初頭にかけて急増した。その後も毎年安定的に新規設立がみられ、豚肉における銘柄化はもはや一般的なものとなっている。銘柄化の実施主体は、農協、個人農場、生産者グループ、株式会社、行政などさまざまである。一般に、地域名あるいは地域を連想させる事物名を冠した名称が多く、また銘柄が必ずしも高品質であることを意味しないことから、銘柄豚は産地表示的意味合いが強いといえる。とはいえ多くの銘柄では、単なる産地名表示とは異なり何らかのかたちで一般豚とは異なるものであることを主張しており、一般豚からの差別化をはかっているといえる。差別化のポイントとしては、品種・血統、飼料内容、その他飼養環境や投薬管理などが多い。

3 調査方法および結果の概要
銘柄豚の進展している神奈川県において、それぞれ性質の異なる3銘柄を対象として、生産・流通に関わる各主体、すなわち生産者、中間流通業者、小売店に対して聞き取り調査を行った。対象銘柄は、農協系の「やまゆりポーク」、量販店系の「高座豚」、生産者団体系の「かながわ夢ポーク」である。
20年以上の歴史をもつ「やまゆりポーク」は、農協が主導して中小生産者を組織したものであり、飼養方法の統一がよく図られているのが特徴である。Aコープで販売される相対取引経路が中心であるが、銘柄の品質の高さを裏付けるため、一部市場出荷も行われている。
同じく20年以上の歴史を持つ「高座豚」は、量販店が、集荷・卸売業者を通じて中小生産者と契約を結んだものである。飼養方法の統一がないが、その代わり品質管理において集荷・卸売業者が大きな役割を果たしている。
2002年に設立された「かながわ夢ポーク」は、県養豚協会理事長の呼びかけで、それまで銘柄グループに所属していなかった大型生産者が集まったものである。生産者が始めた銘柄であるが、小売店を認定方式にするなど、流通段階を管理しようと試みているのが特徴である。
以上の3銘柄を対象とした調査の結果、一般豚と比較したときの銘柄豚の特徴、銘柄豚の存続条件、関連各主体にとっての銘柄豚の意義などが明らかとなった。

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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