日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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スロヴァキア農村における地域住民の生活実態と定住条件
*小林 浩二
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p. 44

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抄録

_I_.はじめに 1990年の東欧革命以降の中央ヨーロッパ(ここでは、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー)の変化のなかで、最も顕著なもののひとつは地域格差が拡大したことである。大都市、主な観光地域、西側諸国と国境を接する地域では、発展が著しいのに対して、農村や工業地域では発展が芳しくなく、問題も深刻化している。このように、農村は後進地域になっているが、ひとくちに農村といっても、大都市に近接した農村と大都市から離れた農村では大きな差異がみられる。本発表では、こうした状況を踏まえて、スロヴァキアの2つの農村を対象に、地域住民の生活実態と定住条件について若干の考察を試みることにしたい。地域住民の生活実態と定住条件とは、具体的には、人口移動、生活環境、定住のために必要な条件及び定住指向である。 研究対象地域は、首都ブラティスラヴァの南東郊に位置するドゥナイスカー・ルジュナ Dunajska Luznaとスロヴァキアのほぼ中央部に位置する純農村であるハイ Hajである。人口は、前者が2,832人(1997年)、後者が485人(年)である。研究方法としては、2003年から2004年にかけて、両地域を対象にアンケート調査を実施した(ドゥナイスカー・ルジュナ、ハイそれぞれ100世帯にアンケート調査を配布した。ドゥナイスカー・ルジュナでは82世帯から、ハイでは93世帯から回答を得た)。併せて、関係諸機関で聞き取り調査、景観・土地利用調査をおこなった。_II_.結果 現在の居住地以外の地域で生まれた人の割合をみると、ドナイスカ・ルジュナの方がハイより高くなっている。また、、転居(1年以上他の行政体に居住)した人の割合、転居したことのある人のうち、複数回転居した人の割合も、ドナイスカ・ルジュナの方がハイより高くなっている。このように、他の地域との結びつきは、ドゥナイスカ・ルジュナの方がハイより強い。一方、数年内に転居する計画があるかどうかについてみると、転居する計画のある人の割合は、ハイの方がドゥナイスカ・ルジュナより高い。今日の農村の経済状況を反映したものであろう。 また、生活環境の満足度、すなわち、就業機会、教育、医療サービス、高齢者福祉、保育所・幼稚圏、公共輸送、道路の整備、スポーツ・レクリエーション施設、娯楽、住宅、自然環境についての満足度をみると、ドゥナイスカ・ルジュナでは、すべての項目で満足度は平均より高くなっており、とりわけ、保育所・幼稚園、住宅で高い。一方、ハイでは、高い満足度を示す項目は、自然環境、保育所・幼稚園であり、逆に雇用機会、教育、医療サービスで低い。さらに、2つの農村を比較してみると、自然環境を除くすべての項目でハイよりドゥナイスカ・ルジュナの方が高くなっている。ドゥナイスカ・ルジュナとハイの生活環境には、かなりの差異が認められる。 定住するために必要な条件は何かを聞いてみると、ドゥナイスカ・ルジュナ、ハイとも多くの人が、住宅、自然環境、就業機会、道路の整備をあげている。これらの諸点を整備することが、農村に定住するための基本点な条件だといえよう。また、定住するために必要な条件として、ドゥナイスカ・ルジュナでは教育を、ハイでは、医療サービスをあげる人が比較的多くなっているが、これは、それぞれの農村社会の属性を示すものといえよう。 さらに、定住指向についてみると、ドゥナイスカ・ルジュナ、ハイとも、6割程度の人がそれぞれの地域「住み続けたい」と回答している一方で、3割程度の人が「わからない」と答えている。「住み続けたくない」を合わせると、4割に達している。住民の要望を着実に実施していくことが要請されているといえよう。

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