日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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洪水流解析に基づく流出・氾濫状況の再現と予測および氾濫状況の変化に応じた避難経路の歩行可能評価
*森永 大介中山 大地松山 洋
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p. 68

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抄録

I はじめに
 近年,洪水ハザードマップや洪水氾濫シミュレーションは有効な被害軽減策として注目されており,これらを公表する自治体や国土交通省の河川事務所が増えてきている.しかし,前者では最大湛水深を示したもの,後者では水深の時間変化を示したものがほとんどであり,氾濫状況に伴って変化する,浸水した道路の歩行可能評価を行ったものはみられない.
 そこで本研究では,鹿児島県北部を流れる川内川の上流域を対象に,水理解析手法を用いて流出・氾濫状況を明らかにした.さらに,対象流域内の姶良郡栗野町において,過去に発生した洪水を超える状況を想定し,避難行動の際,住民が冠水した道路を徒歩で避難場所まで移動できるかどうかを評価した.

II 研究方法
 50m-DEMから作成した落水線網を用いた分布型流出モデルによる流出解析と,2次元不定流モデルによる氾濫解析を行い,1993年8月豪雨のデータをもとに,川内川流域の流出・氾濫状況を再現した.流出解析の結果はNash-Sutcliffe係数(Nash and Sutcliffe 1970)を用いて観測値との比較・評価を行った.氾濫解析の結果は,栗野町が公表している「栗野町洪水避難地図」に載せられた最大湛水深の値と比較した.
 次に,これまでの想定を超えるモデル降雨を設定し,これをもとに流出・氾濫解析を行った.そして,モデル降雨に基づく解析結果,および,水深・身長比と流速の関係(利根川研究会1995)から,身長170cmと120cmの場合について,道路網の歩行可能評価を行った.さらに,須賀ほか(1994)の水中歩行の実験結果をもとに,身長170cmの場合について,避難場所までの所要時間を計算した.

III 結果と考察
 流出解析については,実際の洪水波形をよく再現でき,Nash-Sutcliffe係数は0.91という高い値を示した.一方,氾濫解析については,氾濫域が十分に広がらず,1993年8月豪雨時の実際の湛水深を完全に再現できなかった.これは,使用した氾濫モデルでは,実際の氾濫状況を全て考慮することができないことに加え,地盤高データに微地形を考慮できない50m-DEMを使用したことが大きな原因と考えられる.しかしながら,ある決まった条件下でシミュレーションを行う上では,本研究で用いた氾濫モデルは有効であると判断できた.
 また,モデル降雨に基づく流出・氾濫解析結果を用いて,水深・身長比と流速の関係から判断した歩行可能評価では,一部の避難場所では氾濫流が迫り,身長120cmの場合,氾濫開始から数時間の比較的早い段階でなければ,徒歩での避難が難しい状況になることがわかった.また,避難場所までの所要時間については,浸水のない場合では10分前後で行けるような場所でも,浸水によって遠回りしなければならず,より時間がかかる状況になることがわかった.

IV 今後の課題
 流出解析については,1993年8月豪雨時のデータを用いてモデルパラメータの決定を行ったが,他の降雨イベントのデータも用いて解析を行い,より汎用的かつ有効なモデルパラメータを決定する必要がある.また,氾濫解析に関しては,氾濫モデルに様々な制約条件があるため,建物占有率を考慮して,使用するモデルを改良するほか,より詳細な地形データを扱うなど最大限考慮できる条件を採用して,検討する必要がある.
 歩行可能評価については,水深・身長比と流速の関係のみを歩行可能評価の判断基準に用いたが,住民が高齢化している本地域では,身長に加え年齢や身体能力も加味して考察を深める必要がある.また,須賀ほか(1994)の実験結果を用いて避難場所までの所要時間を計算したが,道路の起伏や,水の流れの方向なども考慮し,避難場所にたどり着くまでの“コスト”をより厳密に算定する必要がある.

文献
須賀堯三・上阪恒雄・白井勝二・高木茂知・浜口憲一郎・陳 志軒 1994.避難時の水中歩行に関する実験.水工学論文集 38: 829-832.
利根川研究会 1995.『利根川の洪水– 語り継ぐ流域の歴史–』山海堂.
Nash J. E. and J. V. Sutcliffe 1970.River flow forecasting through conceptual models part I – A discussion of principles.Journal of Hydrology 10: 282-290.

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