日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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中心市街地活性化と持続可能性 ー佐賀市を事例にー
*山下 宗利
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p. 86

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抄録

 多くの地方都市では伝統的な中心商店街に空き店舗や駐車場が目立ち、衰退が著しい。その一方で、郊外幹線道路沿いにはロードサイド型の店舗や飲食店が立ち並び、大規模な駐車場を備えた大手資本のショッピングセンターが出現している。中心商店街をとり巻くように発達してきた地方都市の中心市街地では、郊外への移住にともなう居住者の減少や業務・公共施設等の流出、モータリゼーションの進展にともなう生活行動パターンの変化、また大型店の閉鎖や店舗の後継問題などが起因となり、空洞化が共通してみられる。これは特に地方小都市において顕著である。 1998年に施行された「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(略称:中心市街地活性化法)は、衰退化しつつある市街地を整備改善し、かつ商業の活性化を図る市町村を支援するために制定され、全国の自治体で導入が図られた。その数は2004年末時点で630市区町村(652地区)にのぼる。その多くは地元商工会議所内にTMOが組織され、主として衰退した中心商店街を救済するための事業が実施されてきた。しかし道路拡幅・新設や再開発ビルの建設といったハード面からの取り組みが事業の中心で、残念ながら成功例はわずかとされる。 一方で、わが国の大都市を中心に1990年代後半以降、人口の都心回帰が顕在化している。単独世帯と夫婦のみの世帯が都心回帰の担い手である。シニア世代が子育て後のライフステージを都心部の高額マンションに求める傾向も現れている。都心部では少子高齢化が一層進展しつつある。 本研究では、佐賀市を事例に中心市街地の動向と2004年に新たに作成された中心市街地活性化基本計画の内容を基に、今後の中心市街地の姿について検討したい。 佐賀市の中心商店街は旧長崎街道沿いに形成され、戦災を免れたため旧来の伝統的な商店街が維持されてきた。しかし他の地方都市と同様に、空き店舗や空き地が増加し、大型店の撤退と郊外大型店の相次ぐ立地によって中心商店街の衰退が深刻化している。佐賀市は1998年10月に全国で5番目という早期に中心市街地活性化基本計画を提出し、旧長崎街道を分断して市街地再開発事業を実施した。TMO組織「(株)まちづくり佐賀」が主体となり、再開発ビル「エスプラッツ」の運営をおこなったが、当初の計画の不備等により2001年には破産に追い込まれた。その後エスプラッツは商業床を閉鎖し、競売に数回かけられたが不調に終わり、2004年9月に佐賀市土地開発公社による取得がなされ、現在はその売却先を募集している状況である。 このような中心商店街の衰退とともに、中心市街地とその周辺では空屋や駐車場といった未利用地を活用した高層マンションが相次いで建設されている。その影響により中心市街地の人口は2001年頃に下げ止まり、近年ではわずかながら増加傾向が認められる。 新しい佐賀市中心市街地活性化基本計画の目的は、高密度の複合的な中心市街地へと改変し、人が歩く空間を創造すること、である。そのために、まちなか居住の増大を図り、現状の空き店舗を活用して中心商店街の再生し、病院や公的な施設、および事業所の誘致等を通して来街者の増大を図ろうとしている。すなわち旧中心市街地活性化基本計画は、疲弊した中心商店街を救済するための計画で、中心市街地=中心商店街としてとしての性格が強く現れていた。それに対して新基本計画は、商業機能のみならず居住機能や業務機能を併せ持った市街地本来のあるべき姿への整備計画として変更されている点が大きく異なっている。この背景には、「エスプラッツ」の頓挫以外に、少子高齢化社会の到来に備えた持続可能なコンパクトな中心市街地の形成、さらに佐賀の特殊性として、上位都市福岡との近接性が大きく影響している。 中心市街地およびその周辺地域における新規マンション建設にともなって人口流入が生じている。佐賀市が実施したこれら22棟のマンション居住者実態調査によれば、前住地は佐賀県内が79.7%を占め、中心市街地を除く佐賀市内からの移住者が全体の50.2%を占めている。また年齢構成をみると、30歳代が20.6%、40歳代が18.7%と高いが、65歳以上の高齢者は9.0%に過ぎない。これは居住地としての中心市街地の利便性が現れているといえよう。 佐賀市中心市街地では単なる中心商店街の救済にとどまらない地域全体の問題として、中心市街地の整備が始められようとしている。福岡への業務機能の流出が懸念されており、都市の要となる中心市街地の再生が不可欠である。少子高齢化社会の到来を見据えた都市住民の生活インフラの整備が必要であり、新しいライフスタイルに対応した生活空間の創造に向けた取り組みが今後の課題である。

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