抄録
1.はじめに 近年のサービス経済化の進展とともに,人々の多様なニーズに応える様々なサービスを供給する施設が多く立地している。こうした変化は,新しいサービス業の拡大としてあらわれ,主なものではレジャー,健康,医療・介護,家事・育児,教育などに関連したサービス業があげられる。 こうした近年の傾向に対して,地理学のサービス業研究では従来の卸売業,小売業,金融・保険業といった研究のほかに,福祉や医療などに関連した研究も増加している。しかし,レジャーを産業として研究し,その実態を明らかにした事例研究は少なく,パチンコ,テニス場,遊園地などの研究が散見される程度である。 そこで,本研究ではレジャーに着目し,その施設の立地について明らかにすることを目的とする。事例として,近年増加し,都市における新たなレジャーとしての一面を強くしている温浴施設を取り上げる。 温浴施設とは一般的に温湯に入浴する施設を広く指すと考えられるが,本研究においては浴場を主体として休憩や休養,娯楽のための施設を備えたレジャー施設ととらえる。そうした場合,スーパー銭湯,健康ランド・センター,クアハウスなどと呼ばれている施設がこれにあてはまる。
2.研究方法 調査は東京都区部においておこなった。東京都区部では近年新たな温浴施設の開業が相次いでいるが,一方で都市おける入浴施設として保健・衛生の役割を担ってきた銭湯(普通公衆浴場)は大きく減少している。 調査施設は東京都各区の公衆浴場台帳から抽出した。温浴施設の店舗・営業形態は多様であり明確な定義はないため,温浴施設の現状を把握する必要がある。そこで,最初に公衆浴場の営業許可分類から銭湯,風俗店を除いた「その他の公衆浴場(第2号)」について分析した。そして,その中から公衆浴場法における公衆浴場の類型「温湯等を使用し,同時に多数人を入浴させるものであって,保養または休養のための施設を有するもの」,「温湯等を使用し,同時に多数人を入浴させるものであって,健康増進を目的とするもの」に該当する施設を対象とした。これらの施設について立地とその経緯,店舗・営業形態に関する特徴について調査をおこなった。
3.考察 東京都区部において温浴施設の立地は広い範囲でみられ,駅周辺の商業地域,臨海部の埋立地,ロードサイド,遊園地内,住宅地に立地している。そして,その立地経緯は従前の土地利用から,工場の跡地や駐車場などの活用,駅周辺の商業ビルにテナントとして出店,臨海部の埋立地の空地,スポーツ施設やプールなどとの複合といったタイプに分けられる。 近年の傾向として,都心周辺や臨海部に大規模・高価格の施設の立地がみられる一方で,郊外では低価格で大規模駐車場を備えた施設の立地もみられる。そして,立地は商業地域だけではなくレジャー施設の少ない住宅地にもみられ,温浴施設に着目した土地活用がおこなわれている。