1.はじめに
諏訪湖は長野県諏訪地域に位置する内水湖であり,諏訪地域のシンボル的な存在である。その水質は集水域の人間活動を反映して変遷してきた。1960から1970年代にかけて諏訪湖の水質汚濁は最も深刻な状況にあったが,1984年終末処理場の供用開始,公共下水道整備の進展により,水質が徐々に改善され,かつては40cm程度であった夏季の透明度が現在では100cmを超えるようになった。しかし,現在でも富栄養湖の状況は継続しており,諏訪湖の水質をさらに改善するための様々な方策が検討されている。
終末処理場で生活排水,工場排水が処理されるようになったため,特定汚染源に対する対策は進み,現在では,農地,市街地などの非特定汚染源からの諏訪湖への汚濁負荷の方が,生活排水,工場排水の負荷よりも大きくなっている。
諏訪湖の集水域には,諏訪湖沿岸域を含む岡谷市,諏訪市,下諏訪町のほか,茅野市,富士見町,原村の計6市町村が含まれ,これら全域を対象とする非特定汚染源対策が必要とされるが,集水域全域を対象とする浄化対策を検討する際には,住民の意向を尊重し,市町村の枠を超えた方策が必要となる。
本研究の目的は,先ず,諏訪地域の住民アンケート調査により,そもそも住民はどのような諏訪湖を望んでいるのかを明らかにすることである。次に,CODなどの水質評価指標とは別に,住民は何によって諏訪湖の環境を評価しているのかを明らかにする。さらに,諏訪湖環境に対する住民の満足度を高めるための,今後の浄化施策の方向性を提言することを目指す。
今回はアンケートの集計結果について発表する。
2.研究方法
アンケート調査は,諏訪地域6市町村の20歳以上の住民3019人を対象に,2006年2月上旬から中旬に郵送調査法により実施した。アンケート対象者は,各市町村の年齢階級毎に,人口比率に応じて対象数を決め,住民基本台帳から無作為抽出した。本アンケート調査「諏訪湖環境に関する住民意識調査」は,諏訪地域の6市町村と諏訪広域連合,信州大学山地水環境教育研究センターの共同で行なったものである。
アンケートは,I.環境保全一般(4問),II.諏訪地域,諏訪湖浄化(11問),III.諏訪湖の浄化方法(4問),フェイスシート(4問)の4部から構成されている。
3.アンケート集計結果と考察
アンケート回収率は,43.6% (回収数1316)である。主な設問における上位回答項目の回答率(アンケート回収数 N=1316 に対する比率)は次のとおりである。
「諏訪湖のどのような点に関心があるか(1位)」Q10
水質(72.2%),イベント(16.7%),遊歩道整備(4.0%)
内閣府が平成17年9月に実施した「環境問題に関する世論調査」(全国20歳以上3000人対象)と比較すると,諏訪地域では環境問題全般に対する関心・意識が高いが,これは,深刻な諏訪湖水質汚濁問題を抱えてきたことを反映していると考えられる。諏訪湖のどのような点に関心があるかでも,水質への関心が最も高い結果となった。
「諏訪湖の景観について望むこと(1位)」Q11
人工なぎさなどの水に親しめる空間が増えること(42.0%),湖岸に高層建築物が増えないこと(25.1%),湖付近で鳥が増えること(17.3%),遊歩道が整備されること(8.2%)
コンクリート護岸から親水性のある湖畔への修復がなされてきたことに対して評価が高い。
「諏訪湖の水質改善評価基準(1位)」Q12
アオコの異常発生が減ること(40.0%),透明度があがること(38.4%),水質評価項目が改善されること(5.2%),ユスリカの異常発生が減ること(4.9%),気持ちよく泳げること(4.7%)
諏訪湖環境に対する負のメージは,「アオコの異常発生」,「透明度の低さ」「ユスリカの異常発生」などによりもたらされたものであり,これらの改善が,諏訪湖の水質改善を最もアピールすると評価された。2番目に重要である項目の1位も,アオコの異常発生が減ること(34.8%)であり,「アオコの異常発生が減ること」は,水質改善をアピールする特別な評価基準といえよう。
「有効であると考える諏訪湖の水質改善対策(1位)」Q17
下水道の整備(35.2%),下水道の接続率を高める(21.3%),農地からの窒素・リンなどの流出を減らす(15.0%),浚渫(12.5%)
1番重要な水質改善の対策には,従来型の下水道の整備,下水道への接続率の向上が挙げられたが,2番目に重要な対策としては,農地からの窒素・リンなどの流出を減らす(24.2%)が1位となり,非特定汚染源に対する関心も高いと考えられる。
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