日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 301
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ハザードマップとメンタルマップ
*相澤 亮太郎
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抄録
I 問題意識
 本研究は、ハザードマップの有効性を十分に認めた上で、ハザードマップに掲載された災害リスクの空間的情報と、住民が培ってきた災害の空間認識とのずれに注目するものである。ハザードマップの作成は、専門知識に基づいたシミュレーションのみならず、作成過程に住民が参加することで、ローカルに蓄積されてきた災害リスクが反映されることもある。そのような状況をふまえれば、ハザードマップと、住民が培った災害にまつわるメンタルマップは、非対称かつ相互作用的な「地図」であると位置づけることが出来る。
 しかし、現段階ではハザードマップそのものの認知度や普及方法に課題が残されており、ハザードマップが防災の切り札であると言い切れない状況である。またハザードマップの有効性が実証されるのは災害が発生した後である、というジレンマも抱えている。防災活動やハザードマップへの関心を高めるために、学校教育や地域社会における防災教育全般の再検討の必要性を含め、住民の関心喚起や地図学習の重要性などが訴えられているものの、そのような取り組みははじまったばかりである。
 ところで近年の人文地理学では、意味や解釈を含む「社会的に構築された場所」を捉えるアプローチが注目されつつある。発表者は、災害リスクやハザードマップを社会的に構築された場所であると位置づけることによって、従来とは異なる視点を得ることが出来ると考えている。これまでのハザードマップの議論においては、住民は主に災害リスクや知識を提供される受け身な存在として位置づけられ、いかに住民の災害回避能力を高めるのかという点に作成者の関心が置かれてきた。だが、ハザードマップは、それ以前から培われてきた地域認識の上に、新たな「災害の場所」を構築するローカルな知識の一部であると位置づけることができる。それならば、住民がどのような「災害の場所」を構築し認識しているのかを明らかにすることで、ハザードマップの役割や改善点が見えてくる可能性があるのではないだろうか。
II 調査地の概要
 上述の問題意識を念頭に置きながら、本研究では岐阜県大垣市を調査対象地とし、洪水災害の歴史や防災の取り組みを把握した上で、住民を対象としたメンタルマップ調査を伴う聞き取り調査を行う。調査対象地は、「水と闘う地域」として広く知られている輪中地域の一部である。明治以降の河川改修や堤紡強化、湿地の埋め立てや動力排水の充実によって全体的な洪水被害は減少しているが、たとえば洗堰を抱える地域では度重なる洪水被害に悩まされ続けている。市内には水害記念碑や水防倉庫が数多く設置され、防災意識の高さが垣間見られるが、一方では、水防団構成員の高齢化や人員不足、防災意識の低下などの問題点が指摘されている。市域全体をカバーするハザードマップの配布とは別に、洗堰によって洪水が頻発している地域では小学校区単位のハザードマップが作成され配布されている。
III 災害の空間認識
 本発表では、2006年7月から8月に行う調査によって得られた回答を元に、ハザードマップとメンタルマップの状況を示した上で、考察を加えた内容を報告する。災害経験や防災教育、ハザードマップ等を通じて構築された災害の空間認識を示した上で、「災害の場所」の視点からハザードマップのあり方について言及したい。
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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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