日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 304
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近年の政令指定都市移行市における区制度設計の特性
*美谷 薫
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抄録


1.はじめに
 1990年代後半からの日本では,政府の積極的な推進政策によって市町村合併が全国的に進展してきた.政府の合併推進策には,財政上の優遇措置,あるいは議員の在任特例といったものがあげられるが,これらに加えて,2001年8月の「市町村合併支援プラン」では,大規模な市町村合併を伴う場合に限り,政令指定都市移行のための運用上の人口要件が約70万にまで引き下げられた.この点は,中核市クラスの都市が周辺市町村との合併を進めるインセンティブとしても作用している.
 同プランによって,2005年4月には静岡市,2006年4月には堺市が政令指定都市移行を果たしており,浜松市,新潟市も移行にむけた準備作業を進めている.岡山市,熊本市も移行を視野に入れた合併の実施・検討を進めており,2005年4月現在,人口40万以上の中核市の約半数が何らかの形で政令指定都市への移行希望を表明している.
 このような動向を受け,本報告では,静岡,堺,浜松の3市の事例をもとに,区割り基準や区役所組織の設計の動向を取りあげ,近年の政令指定都市移行(準備)市における区制度設計の特性について検討する.

2.政令指定都市における区制度の概要
 政令指定都市においては,区の設置が地方自治法で義務づけられており,そのほかに,各区に事務所や区長・収入役,選挙管理委員会などを置くとの規定がある.ただし,具体的な区の規模や区役所の機能などについて明確な基準が存在するわけではないため,各都市によって区制度のあり方はきわめて多様なものとなっている.
 区制度の導入については,大規模となった都市において,1)市民生活に密接した行政サービスを,身近な区役所で総合的に提供できる,2)住民参加を進めながら,地域の特色を生かしたまちづくりに取り組むことができる,という2点がその意義として指摘されることが多い.
 一方で,区制度は,集権化と分権化,あるいは,都市内部の行政合理性と地域民主主義の確保(石見1995など)といったアンビバレントな要求をはらむ制度でもある.したがって,制度設計に際しては,これらの点を十分に考慮しておく必要がある.

3.政令指定都市移行(準備)市における区制度設計
1)区割り基準
 一般に,区割りを行うに際しては,複数の基準を設定し,これに基づいて素案を作成する例が多い.堺市や浜松市の場合,人口,時間距離,地形地物,既存行政区域などに関する項目があげられている.一方,静岡市では,旧清水市域を1区とする前提条件が存在していたため,明確な区割り基準は出されていない.
 ただし,合併の協議過程で,堺市では編入した旧美原町域を,浜松市でも北遠地域5市町村の区域を1区とする方向性が出され,区の規模には大きな相違が生じている.
2)区役所組織の設計
 静岡市,堺市では,窓口機能と保健福祉部門を中心とした「小区役所制」がとられている.ただし,静岡市では清水区役所が入る清水庁舎に本庁の各分野の出先機関が,堺市でも各区に土木分野の出先機関である地域整備事務所が配置されていることから,機能的には組織規模の大きい「大区役所制」に近い体制となっている.
 一方,浜松市では,合併協議の段階から分権型の政令指定都市をめざすことが掲げられていたため,可能な限り本庁から区役所に権限を下ろす「大区役所制」の方向が打ち出されている.また,区役所とならない旧町村役場にも,地域自治センターとしてある程度の機能を残存させる予定である.しかし,行財政改革の観点から,新たに庁舎を建設する区役所では庁舎の規模を縮小する方針が出され,結果として区役所間で取扱業務に差異が生じることとなった.

4.おわりに
 以上のように,近年の政令指定都市移行(準備)市においては,旧中心市側にも移行という大きな合併メリットが存在するため,合併関係市町村に配慮した区制度設計がなされる傾向にある.広域合併に伴う分権型の都市運営によって,地域自治が充実する反面,行財政運営の効率という側面からは課題も多い.移行(準備)市のなかには,既に将来的な区再編の議論が提起されている例もあり,今後の区政運営の動向に注目する必要があると考えられる.

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