日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 312
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東京・大阪大都市圏における緊急小口型配送の空間構造
*兼子 純
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抄録
1 問題の所在と研究目的
 日本における物流は,専用大量輸送から多頻度小口配送を中心とする自動車輸送によるJIT型物流への転換が進行してきた。しかし地理学において,JIT型物流の空間構造を解析した研究は数少ない。自動車輸送には,一般の宅配便,引越貨物,企業の専属輸送など多様な形態が含まれ,公開されている統計データも少ないことから,全体として分析することが困難である。そこで自動車輸送の中の特定の形態を集中的に分析することによって,その空間構造を明らかにすることができると考えられる。
 本発表で対象とする「二輪軽貨物」とは,国土交通省が貨物自動車運送事業法によって認可した「貨物軽自動車運送事業」の中で,特に二輪車を利用した輸送事業である。二輪軽貨物は通常バイク便と呼ばれ,主に大都市圏内において,緊急の小口配送に用いられるJIT型の典型的な物流の事例である。本発表は,東京・大阪大都市圏において二輪軽貨物事業者により形成される緊急小口型配送の空間構造を明らかにすることを目的とする。東京・大阪大都市圏の二輪軽貨物事業者を事例企業として選定し,聞き取り調査を実施するとともに,発着地に関するデータからその空間構造を分析した。

2 二輪軽貨物輸送事業の特性
 日本における二輪軽貨物輸送事業は,1980年代前半より登場した。輸送手段となる二輪自動車については,事業者自ら所有する必要はなく,二輪自動車を所有する個人(契約配送員)に対して業務委託をするという形式が一般的である(嘉瀬 2002)。つまり起業の際に初期投資が極めて少なく,1990年の貨物自動車運送事業法施行以前には参入制限がなかったことから,多くの業者が当該事業に参入した。二輪軽貨物輸送事業は,不特定の顧客から受注後, 発地点から着地点に個別に配送するサービス(スポット便)を特徴としている。交通渋滞が深刻な大都市において,配送に二輪車を使用することにより渋滞を回避することができる一方で,その即時性が配送料金に転嫁される。二輪軽貨物は業務機能の集中する大都市中心部において,宅配便よりも緊急性のある小口配送に対応したサービスである。

3 東京・大阪大都市圏における配送事例分析
 まず大阪大都市圏における二輪軽貨物の事例として,A社を取り上げる。A社は1984年創業,大阪市福島区に本社を置く。A社の配送データについて,2004年10月1日_から_20日の運送手配台帳を元に,発注元住所,到着先住所,受注時刻,商品到着時刻,配送商品に関して1372件のデータを入手した。発地は大阪市北区,中央区,西区の都心3区で全体の73.2%を占める。着地の分布をみると上記の3区は22.6%であり,発地が都心に集中する一方で,着地は京阪神大都市圏に分散し,輸送件数と時間距離(所要時間)の間には距離減衰効果が確認された。発地を詳細にみると,中枢管理機能を担うオフィスよりも,北区中之島などに集積するメーカー倉庫や物流センターである場合が多い。配送商品に注目すると,文書類よりもコンピューターやシステム機器の補修部品が中心である。A社の配送は,メーカーの修繕サポート業務の補完機能として利用されていることが推察される。
 東京大都市圏における二輪軽貨物の事例として,B社の配送サービスを分析する。B社は1985年創業,東京都新宿区に本社を置き,2004年度の売上高は24億円である。B社が提供するサービスの中でスポット便に注目し,発送元住所,到着先住所,運賃,受注時刻,商品引受時刻,商品到着時刻,配送商品について,2005年12月22日の2003件のデータを入手し分析した。発地は件数の多い順に,東京都港区,渋谷区,千代田区,中央区,新宿区,江東区の6区であり,全体の75.6%を占める。着地の分布は件数の多い順に,港区,千代田区,渋谷区,中央区,新宿区,品川区であり,これら6区で全体の64.0%を占める。配送される商品は,FDD,磁気テープ,写真,図面,製本書類,商品見本が中心であり,都心部でのオフィス需要に対応したものが多いことが伺える。A社の事例が特定大口顧客の緊急配送代行業務中心であったのに対して,B社の場合,都心部でのオフィス需要の代行という性格を反映した配送圏を形成している。

【参考文献】
嘉瀬英昭 2002.二輪自動車を使用した貨物運送事業に関する一考察.高千穂論叢 37-2:21-36.
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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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