抄録
北海道をはじめとする日本の寒冷地域には,内部に凍結核を持たない小規模なマウンド状微地形がみられ,植生や土壌によって谷地坊主と十勝坊主とに区別されている.いずれも季節凍土の形成に関連した構造土の一種とされるが(山田 1959,日本土壌肥料学雑誌,30),『地形学辞典』(二宮書店)によれば,十勝坊主はアースハンモックと同種,谷地坊主はアースハンモックとは異種の微地形とされる.しかし,両者が混在する湿原や,両者の分布域が隣接する湿原もあり,どちらとも判別し難い紛らわしいものが認められることもある.
小規模凍結マウンド(ハンモック)の分類や用語をめぐっては,国際的にもしばしば議論になる.この微地形は,一般に”earth hummocks”,”thufur”,”pounus”と呼ばれることが多いが,これら3つの用語が同義か否かについては,研究者によって見解の相違がある.さらに,”peat hummocks”をはじめとするその他の用語も頻繁に使用され,それぞれの定義は研究者によって異なる.
こうした用語の氾濫は,ハンモックの形成プロセスが,永久凍土の有無,温度条件,水分条件,堆積物,植生の違いを反映し,極めて多種多様であることに起因するとの指摘がある.地形学的な用語は,形成プロセスが同質か異質かを判定した上で決定されなければならない.つまり,形成プロセスがよくわかっていない地形に対して用いられる用語は,仮のものとみなされるべきであろう.
日本の谷地坊主と十勝坊主についても,その形成プロセスには不明な点が多い.この両者が地形学的に明瞭に分けられるか否かは,それぞれの形成プロセスを解明するまでは決めるべきではない.もちろん,海外でみられる類似の微地形のどれに対応するのかも,現段階では判定できない.『地形学辞典』の「十勝坊主 = アースハンモック」という解釈にも,アースハンモックの定義に統一見解がない上,「季節凍土地域の小規模凍結マウンドをアースハンモックと呼ぶべきではない」とする立場もある以上,再検討の余地があるといえよう.