日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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ドイツ・ハルツ山地Elend近郊における微地形・植生と表層土壌の関係
土壌菌核粒子の分布特性に着目して
*坂上 伸生渡邊 眞紀子櫻井 克年太田 寛行藤嶽 暢英
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p. 103

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抄録

【研究の背景と目的】
担子菌・子嚢菌などの高等菌類のいくつかの種は,一般的に菌核と呼ばれる休眠体粒子を形成する(Townsend & Willets, 1953など)。外性菌根菌であるCenococcum geophilumの形成する菌核は,土壌中に長期間残留する場合があることが知られている(Trappe, 1969など)。この黒色球状の菌核を「土壌菌核粒子」と称し,火山灰土壌中での分布と形成要因について考察された研究が,いくつか報告されている(Watanabe et al., 2002; 坂上ほか,2004など)。
Watanabe et al., (2004)は,ドイツ・ハルツ山地の花崗岩質ポドソルならびに粘板岩,凝灰岩(デボン紀),輝緑岩(デボン_から_石炭紀)等を母材とする褐色レシベ土にも土壌菌核粒子が存在することを明らかにした。さらに,その存在は火山灰土壌と同様に対植物Alストレス(Feストレス)に規定されていることが解明された。冷温帯林は,一般に外生菌根菌樹種によって構成されることから,土壌菌核粒子の形成が,低pHかつ生物毒性を発現する交換性Alの共条件下の冷温帯林土壌における微生物と植物の共生関係,土壌の生物恒常性維持に深く関わっていることが示唆される。そこで筆者らは,土壌菌核粒子形成の生物的意図を,粒子の空間的分布から考察することを試みている。本研究では,ドイツ・ハルツ山地のElend付近における表層土壌の性状と土壌菌核粒子の分布特性を踏まえて,粒子の形成と微地形・植生の関係について検討した。
【調査地点と研究方法】
Watanabe et al. (2004)によりドイツ・ハルツ山地で土壌菌核粒子の検出密度が高かったElend‐Königshütte近郊のPicea abies林下の土壌を調査の対象とした。調査地点は斜面地形に留意して選定し,頂部斜面および上部谷壁斜面・谷壁斜面・下部丘腹斜面,また谷壁斜面を欠く谷頭凹地・下部谷壁斜面内の新規表層崩壊部を含む10_から_100m程度の計5側線において,直線的に地形測量と表土採取をおこなった。
地形測量は,1mおきに斜面傾斜度を測量し,微地形変化を捉えた。また地形形状の変化に留意しながら,計86地点で表土の採取をおこなった。表土の採取をおこなった地点については,下草の生育状況を双子葉類・単子葉類・苔類・蘚類に区分して調べた。
採取した表土については,土壌pH,炭素含量,窒素含量,交換性アルミニウム量の測定をおこなった。また,未分解有機物特徴の把握とともに,浮遊法により採取した土壌菌核粒子の重量密度,個体密度および粒径の頻度分布を調べた。
【結果】
菌核形成の条件は,乾燥・低栄養など,菌学的研究においていくつかの条件が提示されている(斉藤,1977など)。本研究において,乾燥状態となる可能性の高い上部谷壁斜面域などを含め,採取した多くの表土試料から土壌菌核粒子の存在が確認された。粒子の存在量や粒径の分布には様々な傾向が認められたが,特に崩壊性土壌や,崩積性土壌などの土壌生成が未熟な地点において,大径の土壌菌核粒子が分布する傾向が認められた。
土壌中における土壌菌核粒子の形成および残留は,Cenococcum geophilumによる種の保存への生物的な戦略であると考えられる。一方,下草植生に富み,微生物活性も高いと予想される地点には,分布量が小さい場合が認められた。箱石(1960)などで考察されているように,斜面においては独特の水分勾配が発生する。土壌菌核粒子が形成されるきっかけは,交換性アルミニウム量などの土壌化学性の影響を強く受けていると考えられる一方で,土壌侵食・崩積などの地形形成作用に対応して土壌菌核粒子の分布が見られるものと考えられた。
【引用文献】
箱石 正(1960)土壌の物理性3, 30-33.
斉藤 泉(1977)北海道立農業試験場報告26, 1-106.
坂上伸生,渡邊眞紀子,大田寛行,藤嶽暢英(2004)ペドロジスト48, 24-32.
Townsend BB & Willetts HJ (1957) Trans. Br. Mycol. Soc. 73, 213-221.
Trappe (1969) Can. J. Bot. 47, 1389-1390.
Watanabe M, Kado T, Ohta H and Fujitake N (2002) Soil Sci. Plant Nutr. 48, 569-575.
Watanabe M, Ohishi S, Pott A, Hardenbicker U, Aoki K, Sakagami N, Ohta H and Fujitake N (2004) Soil Sci. Plant Nutr. 50, 863-870.

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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