日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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乗鞍岳の残雪砂礫地における土砂移動プロセス
*松本 穂高小林 詢
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p. 11

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抄録

はじめに
 積雪が夏季の遅くまで残る残雪砂礫地では様々な地形形成プロセスが働いている。この地形形成プロセスとして重要なメカニズムは、1)凍上と融解の繰り返しによって土砂が移動する「凍結クリープ」、2)積雪や凍土の融解による多量の水分供給によって土壌が流動する「ジェリフラクション」、3)裸地への降雨による流出の三つである。これらの土砂移動様式が地形形成に与える影響を明らかにするためには、土砂移動がいつ、どの深度で、どれくらい発生するかを観測し、移動メカニズムを知る必要がある。そこで本研究では、土砂移動と同時に地温を観測し、土砂移動プロセスを論じることを目的とした。
調査地および調査方法
 長野県乗鞍岳中腹の標高2540m付近に分布する残雪砂礫地を対象とした。この残雪砂礫地は、中心部から周辺部に向かい砂礫、草本群落、ハイマツ群落とほぼ同心円状の景観分布を成す。なお、この残雪砂礫地下端部を県道が横切っている。
 この調査地において1)土砂移動、2)地温、および3)流出土砂量を計測した。土砂移動の計測にはひずみプローブを用い、地表から50cm深までの土砂移動状況を1時間ごとに1mmの精度で得た。地温の計測には自記式小型センサーを用い、地表面、5cm深、10cm深および30cm深における温度を1時間ごとに0.1℃の精度で得た。1)および2)については、2004年10月より2005年10月の1年間、計測した。また3)流出土砂量は、2000年6月9日から10月22日までの期間に8回、県道の路面長24mの区間に流出した土砂の重量を計測した(小林2001)。
結果および考察
 凍土融解期に顕著な土砂移動が発生したことを捉えた(図)。地温は地表面、5cm深、10cm深および30cm深でそれぞれ7月29日、7月30日、8月1日、および8月3日から急激に上昇した。この地温上昇は凍土融解を表す。また土砂移動は7月29_から_30日に20_から_30cm深で0.3cmの斜面下方移動が起こった。なおひずみプローブの0_から_20cm深データは計測期間中にわたり欠測した。30cm深で凍土融解が開始した時と土砂移動が起こった時が数日ずれているのは、両計測地点間で積雪からの解放日時がわずかに異なることを反映したためと考えた。したがって土砂移動は凍土融解と同時に発生したと判断した。30cm以深では移動が発生しなかった。より深部では移動しにくいことはMatsumoto and Ishikawa (2002)などでも報告されている。これらより観測された土砂移動は、凍土融解により土壌中で水分量が増加したことによる流動のメカニズムであると考えた。一方、流出土砂量の観測より、積雪や凍土が融解する時期の移動が大きいことが捉えられている。以上より、残雪砂礫地で卓越する土砂移動メカニズムは、主にジェリフラクションであることがわかった。

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