抄録
はじめに:都市域における地表面の幾何学的形状は,都市の気候環境に対してさまざまな影響をもつと考えられている.地表面形状に関連する重要なパラメータとして,天空率や地表面粗度などがあり,前者は都市ヒートアイランドの形成に関わる地表面の放射環境に,後者は風の水平および鉛直分布などに影響する.天空率については,街路幅と建築物高度の比や,魚眼レンズを用いた天空写真に基づいて算出されている.地表面粗度についても,いくつかの算出方法が知られている.しかし,これまでに東京都区部全域などの広範囲を対象とした天空率や地表面粗度の空間分布については,その特徴が提示されてされていない.また,天空率の空間代表性や都市を代表的する大きさなどは吟味されていない.これらの課題にアプローチするためには,天空率の広域的かつ連続的な把握が必要であり,それには建築物などの地表面形状を再現できる高細密な地表面高度のデジタルデータを用いた計算が有利と考えられる. 本報告では,航空機のレーザー測量による2.5mメッシュ地表面標高データを用いた天空率の算出手順と,その結果の1例として大きい交差点を含む街路に沿った天空率分布を提示する.資料:本研究では,(株)パスコが作成した数値地表モデル(DSM)を用いた.これは建築物等を含む地表面標高を2.5m間隔でデジタル化したデータで,オリジナルデータの測定精度は水平方向±0.3m,高度方向±0.15mであり,グリッドデータ化された際にはおおよそ高度方向±0.2mとなっている.建築物や街路の位置については,東京都都市計画局が作成した土地利用・建物現況調査GISデータ(平成8,9年)の情報を参照した.また,地面標高として,数値地図5mメッシュ(標高)を2.5m間隔に内挿した値を用いた.地面標高とDSMによる標高差が±0.5m未満の場合を,有意な高さをもつ人工構造物がない「地面」とみなし,すべての「地面」において天空率を算出した.天空率の計算:まず,天空に投影される建築物の有無を図のように判定する.すなわち,方位角θと仰角φを,それぞれΔθとΔφずつ変化させ,「地面」である原点から視線を少しずつ(水平面投影長でΔLずつ)延ばした場合に,水平半径R内で視線が建築物にぶつかるかどうかを判断する.仰角φにおいて,仰角幅Δφ,方位角幅Δθに対する微小天空格子の天空率Δψは,Δψ=sinφcosφΔθΔφ/πで与えられることから,視線が建築物にぶつからなかった場合についてΔψを積算することにより当該「地面」における天空率を算出する.計算パラメータの最適化:東京都区部全域の計算を行うにあたり,R,Δθ,Δφ,ΔLの値を,計算精度と計算時間との兼ね合いから設定した.中高層建築物が密集している新宿区歌舞伎町付近と,超高層建築物が建ちならぶ都庁付近の1km四方を対象に,Δθ=2゜,Δφ=1゜,ΔL=2.5/10mを基準値として評価した.まずR(建築物を考える範囲)を5mずつ拡大し,拡大によって補足された建築物部分の天空格子数に対するそれまでに補足された分の割合を算出した.その結果,新たに補足される建築物部分が,歌舞伎町付近ではR=80m以内,都庁付近でもR=200m以内で0.1%未満となることから,R=200mとした.また,Δθ,Δφ,ΔLについては,それぞれを段階的に大きくした場合の基準値からの差(ΔSVF)について,1)二乗平均平方根(0.01未満),2)|ΔSVF|≧0.02の割合(5%未満),3)平均値(バイアス)(±0.005以内)を求め,括弧内の基準を満たし計算量が最も少ないΔθ=10゜,Δφ=5゜,ΔL=2.5/6mを採用した.街路に沿う天空率分布:主要街路として,東西方向の走向をもつ中野区丸ノ内線新中野駅付近の青梅街道を取り上げ,街路上および街路中心線から30m南北に位置する街路幅の範囲の天空率を求めた.これによれば,大きい交差点付近では,50m程の区間で天空率が0.3から0.4程度変化する.また,少し路地に入ると天空率は1.4km区間の平均値でも0.1から0.2以上小さくなり,かつ場所による差異がきわめて大きい.以上のことから,気温分布などと対応させる場合に,天空率の空間代表性には注意が必要であり,とりわけ交差点付近における天空率は,都市キャニオンの平均的な天空率と大きく異なる場合が想定される.
