日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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地域防災の取り組み
名古屋の事例
*鈴木 康弘坂上 寛之
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p. 16

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抄録

東海地震の震源域が見直された2001年以降、愛知県は、東海地震防災強化地域や東南海・南海地震防災対策推進地域に相次いで指定され、地震防災対策が急務となった。これを機に、行政・大学・市民が一体となった地域防災の協働が開始された。被害軽減のために最も重要なことは、防災意識向上と建物の耐震化であり、行政も防災啓発活動やハザードマップの配布、無料耐震診断、耐震化補助制度等を実施してきた。しかし、耐震化率の推移を見る限り、飛躍的な向上は難しい。「ハザード認知から防災行動まで」の過程のどこに問題があり、どのような改善が必要か? この問題を行政・大学・防災NPOが一体となって検討し、解決策のヒントをつかんだ。文部科学省の防災研究成果普及事業(平成16_から_18年度)により、愛知県・名古屋市・名古屋大学の3者が協働で取り組んでいる「行政・住民のための地域ハザード受容最適化モデル創出事業」(以下、本事業と呼ぶ)で、地域防災力向上のモデルケースを構築しつつあり、ここでその一端を紹介する。 愛知県と名古屋市がそれぞれ作成した、500mメッシュや50mメッシュのハザードマップは、全国的に見ても先進的な取り組みであり、これにより来るべき地震が相当具体的にイメージされ、被害予測も可能になった。しかし住民にとっては、個々の家や周辺地形環境が見えないため、ハザードを実感できず、具体的防災行動に結びつきにくかった。 そもそもメッシュ情報にリアリティはない。本事業では、地形条件を詳細に見直すことで、メッシュ表現でないハザードマップを開発した。また、地形改変による切り盛りは被害に大きく影響するため、標高の年次変化を元に切り盛り量を求め、地震動や液状化の予測に反映させた。 こうした情報を効果的に配信するためWebGISを採用し、居住地の地形・地盤条件を学べるシステムも開発した。同じ場所の地図、航空写真、予想震度、液状化予測結果等を自由に切り替えて2画面同時に表示し、比較可能にするシステムや、フライトシミュレーションによって過去から現在の地形環境の変遷を見せたりする3D-WebGISを開発した。 過去5年間にわたる行政・大学・NPOの協働の結果、プロと住民の意識の差や、防災行動の障害とは何か、が見えやすくなった。大学側も、名古屋大学環境学研究科における分離融合研究により、地域防災のための「ヒト・コト・モノ」戦略など、プロダクト・アウト型でない防災協働の実践を心がけてきた。 「なぜ自分の居住地が危ないかピンとこない」「自分の家はどの程度の震度に耐えられるかわからない」「危ないと言われても家具の固定法すらわからない」「耐震診断がなぜ必要か?具体的にどうやれば良いか?」「耐震のために出費する効果がわからない」「耐震だけで地域を守れるのか?」「災害時要援護者をどうやって守れるか?」・・・・。 こうした疑問に答えられる様々なe-learningシステム、建物倒壊シミュレーターの開発も行っている。これらを総称して「防災力向上シミュレーター」とし、ハザード情報を住民に判りやすく伝え、防災力向上のための自助を促し、支援するためのシステム構築を目指している。さらに、地域防災コミュニティの活動を支援するため、個人情報の管理支援も視野に入れて、共助を後押しできるような改良も目指すことになる。 本発表は、文部科学省の防災研究成果普及事業(平成16_から_18年度)による「行政・住民のための地域ハザード受容化最適モデル創出事業」(提案機関:愛知県・名古屋市・名古屋大学)の一部を紹介したものである。

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