抄録
1.はじめに 大規模な自然災害や食料安定供給といったグローバルな問題に対応するためには,全球スケールの観測データを用いた学際的な検討が必要である.世界の様々な研究機関には膨大な地球観測データが蓄積されているが,データの共有や相互理解は十分には行われていない.研究分野のディシプリンや対象とする空間スケールの違いなどによって,膨大なデータが不均質な状態で細分化されているのが現状である. 地球観測データをより効率的かつ効果的に利用するためには,各分野におけるデータやフレームを可能な限り接合していくことが望ましい.本研究ではその一環として,「オントロジー(Ontology)」を用いた研究を提案する.2.オントロジーとは 「オントロジー」とは元来,哲学の分野における「存在論」を意味する用語である.しかしながら近年,工学の分野を中心に「概念の設計図」といった意味で使用されるようになった. 物の存在は概念化のあり方に深く関わる.同じ対象であっても視点が異なれば別の物として描かれうるし,異なる対象が同一の概念で表現されることもある.例えば「水」はときに「河川」であり,また「貯水池」である.あるいは「本屋」や「レストラン」は異なる建築物だが,「店舗」と統一して表現されることもある.つまり「オントロジー」は,様々な情報をどのような観点から概念化したのかを説明する.3.諸外国の土地被覆図の収集(データベースの作成) 本研究では,オントロジーの適用対象として土地被覆図や土地利用図を取り上げ,異なる基準を用いた分類体系を接合する方法を考察する.具体的には,土地利用・土地被覆・地形分類・植生に関する各国の資料を収集し,調査目的や対象地域の範囲,調査年代や背景などを考慮に入れつつ,分類基準の異同をオントロジー的に検討する.その第一段階として,英語圏を中心とした諸外国における資料を入手し,データベース化を行った.4.土地被覆図の比較(オントロジーの導入) オントロジーをWeb上で表現する言語であるOWL (Web Ontology Language)を用いて,データの視覚化を試みた.その結果,各国における分類基準の異同が明確になり,単純に分類定義の文面を比較するだけでは解釈し得ないような,技術的・文化的・歴史的背景と分類定義との関連の有無に関する知見が得られた. 今後,多くの研究者が利用できるような情報基盤を構築するために,調査対象を広げてデータの融合を行う予定である.