抄録
いわゆる「平成の大合併」によって、1999年3月31日に3,232あった自治体数が、2006年3月31日に1,821に減少しようとしている。今回の大合併は、明治の大合併、昭和の大合併に次ぐ3度目の自治体再編の国家政策であり、地方自治のあり方や住民の日常生活に極めて大きな影響を与えている。 平成の大合併に関する研究は、さまざまな分野で盛んに行われ枚挙に暇がない。地理学の分野でも研究が盛んに行われ、最近の学会ではシンポジウムも多く開催されていている。 従来の合併でも役所の位置は大きな問題で、時には合併を頓挫させる要因でもあった。また昭和の大合併を中心地システムの観点から分析した堤正信(1975)は、多くの旧役場集落が衰退したことを指摘している。特に、わが国では住民生活と自治体行政との関わりが強いため、役所の位置や役所の空間的組織のあり方が住民生活に大きな影響を及ぼしている。その観点から平成の大合併の大きな特徴の一つとして、新自治体の空間的組織形態に、本庁方式(ここでは本庁・支所方式を呼ぶ)、総合支所方式、分庁方式という3方式があることが指摘できる。 本報告では、1999年4月1日から2006年3月31日までに誕生した(する)562の自治体(複数回合併した自治体も1と数えた)を対象として、特に「庁舎の方式」に着目して、平成の大合併の全国的な実情と、今後の行政課題を指摘することを目的とする。庁舎の方式について、各自治体で発表している組織表を元に、図1「庁舎の方式の分類基準」に基づいて分類した。ただし総合支所については、支所の権限を調査しなければならないが、本発表では上記の分類基準によっているため不確かな部分がある。 本庁支所方式とは、ほとんど全ての市長部局を1カ所(本庁)に集約し、支所は窓口業務のみとする方式である。業務が効率的で合併のメリットが大きい反面、中心と周辺の格差が生じやすい。総合支所方式とは、旧来の庁舎に従前とほとんど同じ機能を残し、管理部門のみ本庁におく方式である。この方式では、住民側からするとほとんど変化がないが、管理が二重になる点や、職員の削減が進まないなどの問題がある。一方、分庁方式とは、市長部局を複数の庁舎に分散して配置する方式である。この方式では、連絡・打ち合わせの点で業務がやりづらいが、その反面、従来の庁舎を活用できることと、地域的バランスが急には崩れないという長所もある。 対象とした自治体556のうち、不明の自治体43を除くと、本庁支所方式が163(31.8_%_)、総合支所方式が217(42.3_%_)、分庁方式が133(25.9_%_)を占めている。 「庁舎の方式」を新設合併か編入合併か、面積の大小、構成旧市町村数や地域タイプから検討した。その結果、新設合併(414)では相対的に分庁方式(128)が、編入合併(99)では本庁支所方式(51)が多かった。また、構成市町村数が少なく面積の小規模で自治体では本庁支所方式と分庁方式が、構成市町村数が多く面積の大規模な自治体では総合支所方式が、町村連合型で小規模な合併では分庁方式が多いことが明らかとなった。 庁舎の方式に最も強く関係している要因を、カイ2乗系統計量のCramerユs V係数から考えると、構成市町村の地域タイプ(0.346)が最も強く、合併の形態(0.264)、面積階級(0.256)、の順序となった。 平成の大合併によって、面積が1.000km2を超えるような超広域自治体も誕生した。もちろん人口分布の状態によるが、基礎的な自治体としての機能を果たすには困難が推察される。庁舎の方式に関連して、行政サービスのあり方と住民の庁舎利用、IT導入・業務の遂行(情報伝達・情報共有・合意形成)、合併後の旧役場集落の栄枯衰退や住民の生活行動の変化など、さまざまな克服すべき課題が存在している。
