抄録
東根市大富付近を流れる小見川は、幅数m、延長4kmほどの小河川であるが、イバラトミオが生息していることから、その一部区間(小見付近、羽入下橋まで)が山形県指定天然記念物保護地区とされている(S61年指定)。水源の湧水は環境庁(S60)の名水100選にも選ばれた。小見川は、最上川本流から約1.5km程西側にある。小見川流路は、最上川の旧河道である。最上川氾濫原の東の縁、乱川扇状地の西端を限っている。その平面形は東に凸の2つの弧形をなしており、最上川の蛇行の名残を示している。 乱川扇状地が滑らかに終わらないで、高さ10m弱の崖となっているのは、最上川が扇状地の裾を削ったためである。 扇状地の裾(扇端部)は、もともと地下水位が浅いので、崖のすその湧き水が小見川の水源となっていたと考えられる。 しかしながら、最近では湧水が減少気味であり、水源の調査を行ったところ、その水源の約4割が養鱒業の深井戸の水によってまかなわれているという特殊な河川であることがわかった。 [調査方法と結果] 2004年10_から_11月に天然記念物保護区間に指定されている約400m区間で、井戸の水量調査と河川水量調査を行った。68ヶ所の水源によって、59ヶ所の流入水の地点があり、その内訳は湧水から12ヶ所、井戸水から 51本、排水から5ヶ所、ほか不明である。 水量測定は各地点を1_から_2回、流入水は吐き出し口から3秒間の水量を測った(3回の平均)。下流端の河川流量は2860l/mim。その約5割が側方から付け加わった水であり、その8割、すなわち全量の4割が井戸から流入していると推定された。すなわち、小見川の流水の4割は井戸からの汲み上げならびに深井戸の自噴によって支えられている河川である。 [深井戸について] 大富地区の深井戸の深さは、聞き取りによれば、井戸31本のうち約80mが18本、約 5mが7本、約10mが1本、約20mが2本、約30mは3本である。 時期は、湧水:昭和時代以前1ヶ所、 約5m井戸:昭和時代後半5本、昭和30年中頃1本(ポンプアップ)、昭和40年代中頃1本、約10m井戸:平成時代中頃1本(ポンプアップ)、約20m井戸:昭和30年代後半2本(ポンプアップ)、約30m井戸:昭和50年代後半3本、約80m井戸:昭和40年代前半15本、昭和50年代後半3本とのことである。 [湧水と養鱒業] 大富の養鱒業は、昭和16年建立の養鱒碑の記述によれば、昭和4年に荷口川水源地で県が試験的に養殖を始め(水深1尺)、昭和8年に民間19業者が生産を行った。地下水湧出量が減少し深井戸掘削の始まった時期については、戦前から始まっており、戦後上流の神町の進駐軍キャンプの地下水汲み上げによって湧き水が減少したため生産調整が必要となったとして国に補償を求め、昭和36年に一部を受け取っている。補償請求内容は各戸の揚水設備費・動力費・減産額となっていることから、深井戸が掘られたのはこの時期であろう。 [天延記念物保護と養鱒業] 地元住民の保護活動が活発であり水質保全の意識も高い。 湧水量が減少しているために、養鱒の残餌や死骸処理が水質保全に悪影響をもたらしていることが懸念されるが、水源の約4割が養鱒業の深井戸に支えられていること、養殖業によって農薬使用に注意が払われる、また養鱒にとっては名水フ゛ラント゛など複雑な共生関係もある。