日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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石英粒子の電子スピン共鳴(ESR)信号特性と供給起源推定
*島田 愛子高田 将志
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キーワード: ESR, 石英粒子, 花崗岩, 堆積物
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p. 240

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抄録
平野や台地をつくる堆積物がどこから供給されたかは、およそ明らかな場合もあるが、細粒堆積物などの場合、それを推定するのが難しい場合も少なくない。そこで、石英粒子の電子スピン共鳴(ESR: Electron Spin Resonance)を用いた堆積物粒子の供給起源推定に関する基礎研究を行った。これまでにも、堆積物中に含まれる石英粒子のESR信号から、風成塵の供給起源地推定が試みられてきた(成瀬ほか1996;成瀬・小野ほか、1997)。これまでの研究では、第四紀、古第三紀_から_白亜紀といった大まかな年代別にE1’中心信号強度が異なることが明らかにされている(Toyoda.et.al,2002)。しかし、一つのESR信号のみを用いる方法では、詳細な供給起源の推定が難しい場合も少なくない。これをさらに細分して検討することができれば、堆積物に含まれる石英粒子の供給起源をより詳細に識別することができるであろう。本研究では、まず、琵琶湖周辺の花崗岩体、伊豆諸島神津島の流紋岩および飛騨の火砕流堆積物を用い、産地の異なる火成岩石英粒子のESR信号強度を比較し、酸素空孔量を指標とするE1’中心信号以外に、推定に有効な他のESR信号について検討を加えた。その結果、E1’中心信号以外にも、Al中心、Ti-Li中心信号が供給起源の識別に有効であるとの見通しが得られた。上記で得られた結果を基礎データとして、異なる流域の現河床堆積物に含まれる石英粒子のESR信号の比較を行った。河床堆積物は上流域内のさまざまな起源の土砂が混じりあいながら運ばれて堆積したものである。そのため堆積物中の石英粒子の供給起源地も多岐にわたることが普通であろう。そうした要因はあるが、ESR測定を行った異なる3流域の河床堆積物は、前述した3つの信号を用いて識別できることが確認された。さらに、奈良盆地北縁の奈良阪丘陵・台地を構成する堆積物の石英粒子について、供給起源地の検討を行った。その結果、奈良阪丘陵・台地の堆積物は、現流域の現河床堆積物とはかなり異なるESR信号強度を示すことがわかった。これは、奈良阪丘陵の堆積物が、現水系パターンとはかなり異なる水系パターンの下で堆積した可能性を示している。河成堆積物は多数の供給起源地に由来する物質を含む可能性があるが、石英粒子のESR信号特性は河成堆積物の堆積環境を推定するひとつの手がかりとして利用できる可能性がある。文献成瀬敏郎・柳精司・河野日出夫・池谷元伺(1996):電子スピン共鳴(ESR)による中国・韓国・日本の風成塵起源石英の同定.第四紀研究,35,25-34.成瀬敏郎・小野有五・平川一臣・岡下松生・池谷元伺(1997):電子スピン共鳴(ESR)による東アジア風成塵石英の産地同定!)アイソトープステージ2の卓越風復元への試み!).地理学評論, 70,15-27.Toyoda and Naruse (2002) Eolian Dust from Asia Deserts to Japanese Island since the last Glacial Maximum: the Basis for the ESR Method, Japan Geomorphological union, 23-5, 811-820.
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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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